第38話 オカマと炎


♢城下町 武器屋


 看板には金槌とドラゴンのマーク。一階建てで、奥に煙突が付いており、煙突からは煙が上がっている。


「ここか?」


「そうでござるよ! 中にいるドワーフのライルさんはちょっと変わってるでござるが……あっ!」


 変わってようがなんだろうが、会ってみない事にはわからんしな。


 俺は、ドアを勢いよく開ける。


「こんちゃーす」


「あらあん? 誰かしらん?」


 今まで俺が出会った誰よりも、筋骨隆々。顔面には、バッチリメイクを施した、身長150位のおじさんがいた。

 

 喋り方は、ロザリアさんに似ているが、容姿は化け物だ。


「間違えましぐえっ!」


 逃げようとしたら、おじさんの豪腕に捕獲された。


「うちに用があるんでしょお? 間違ってないわん。可愛いわあ……食べちゃいたい。ジュルリ」


 おじさんは、片手で俺を掴みあげ、空いた片手で俺の尻を弄っている。


「あっあの。尻を触るのはちょっと、やめてほしいなあ」


「大丈夫よん? 安心してね?」


 バチコンっとウィンクをしてくる、瞬きだけで風が吹く。


「らああああん! リュイ! 桜さあああん! 助けてえ!!」


「あら、なにもしないわよん? まだまだ貴方、おぼこじゃない。将来有望だけどねん」


 チュッっと頬っぺたにキスをされた。髭がジョリッとした! あああ汚された、俺は汚された……


「あの、ライルさんそれ位で離してあげてください」


「あら、サクラのお連れさんなの?」


 グロッキーになっている俺を、桜さんが救出してくれた。俺は、恐怖のあまり桜さんにしがみついた。


「あっあの、化け物はなんなんですか!」


「化け物なんて、失礼しちゃうわん。私が、この武器屋、セイランの美人店主。ライル・セイランよ」


 その場で、くるりと回り女豹のポーズをするライル


「ひえっ!」


『あんた、火の精霊の知り合いでしょ?』


 沈黙していたリュイが、ライルに話しかけた。


「あらん? 雷の精霊ちゃんね? ええ。バーニア君なら奥の窯で寝てるわよん?」


『やっぱりね、奥から暑苦しい気配がする訳だわ。ちょっとバーニア! 起きなさいよ!』


 リュイがバーニアと呼びかけると、室内の温度が急に高くなる。


 火の玉が、店の奥からこちらに向かって飛んでくる。


「ひっひえええ!!! 蘭助けてえ!! オカマと火の玉が! お化けだああああ!!」


 俺は、恐怖の余り錯乱し、桜さんにしがみつきながら喚く。


「急にどうしたんでござるか! ライルさんが、怖いのは初見だし仕方ないとしても……。こんなに怯えて」


「ちょっとお、サクラ失礼よ〜」


「はあ。洋一、火の玉じゃなくて、リュイ様と同じ精霊様だよ。お化けじゃないよ」


 蘭は、俺の肩に止まり、羽で優しく頭を撫でてくれる。


「おっば、お化けじゃない?」


 桜さんが、火の玉に話しかけ出した。度胸があり過ぎる……!


「火の玉さんは、精霊でござるよね? 火の精霊さんの加護がないから、声や姿はわからないけど」


 お化けじゃないだと? お化けじゃない癖にこんなおどろおどろしい姿で、出てきやがったのか!


 俺は勢いよく立ち上がり、火の玉を捕まえる。


「てめえ! お化けかと思ったあちゃああああああああああ!」


 俺は焼け死んだ、真っ白な灰になってな…………。冗談はさておき……火の玉を掴んで、服以外、丸焼けになってしまった。上手に焼けましたってか!?


「あっちいな全く。焼け死んだらどうすんだよ」


『当然の様に起きたわね。火傷もしてないし。服は、流石に燃えたみたいだけど』


 そう言えば、ライルと桜さんの視線が俺の下腹部に集まってるような。


「ちょっ! フルチンやないかい!」


 思わず関西弁で、突っ込んでしまった。


『ヨーイチは、見た目は子供なんだから気にしなくていいでしょ。そのまま、アヘアヘ笑いながら、外を走れば大丈夫よ』


「アヘアヘ笑いながら全裸で走ってたら捕まるわ! 桜さんに、そこのオカマ! 股間ばかり見ないで!」


「子供のおちんちんって、こんな感じなんだー。なるほどでござる」


 子供チンチン呼ばわりされてしまった。くっくそお!! 早く大人になりたーい!


「はあ。洋一、とりあえず替えの服を着なさいよ」


 俺は、アイテムボックスから服を出し着替える。


『バーニア、話が進まないから加護あげなさいよ!』


 リュイが、火の玉に向かって怒鳴り散らしている。


『えっめんどくさい? ふざけんじゃないわよー!!』


 火の玉が俺の後ろに素早く隠れると、リュイの電撃が俺へ降り注ぐ


「あぎゃああああああああ!!!」


『ヨーイチごめりんこ! 悪いのはバーニアだからね!』


 火の玉の精霊が、俺の周りをふよふよと飛び回っていき、俺の正面に止まる。


「これは、まっまさか……」


 火の玉が、目の前で大発光しやがった。


「目がああああああ」


やっぱりだよ、リュイと同じ様に目の前でフラッシュされた……いつか俺は、失明するだろうな。精霊のせいで。


『加護もあげたし、オイラの姿が見えるかな?』


 リュイと同じ身長の、紅い髪紅い目の白と赤の服を着た、気怠そうな目をした少年がいた。


「見えるよ。なあ、精霊の加護って人の顔の前で光らないとダメなの?」


『『いや別に』』


 2人そろって、即答しやがった。俺の中の怒りのボルテージが、少しずつ上がっていく。


「おっおい、じゃあ一々光らなくて良いって訳か?」


『『うん』』


 ブチッ 頭の中でなにかが、切れる音がした。


 ゴチン、ゴチン。


 俺は、2人に拳骨を落とす。


『『痛ああい!』』


「二度とやるな。他の精霊にもやらせるな。わかったか?」


『『うっうん』』


「貴方、精霊に触れるどころか……殴るだなんて……恐ろしい事を」


ライルが、震えながら俺を見ていた。恐ろしいのはお前だ。


「悪い事をしたガキを、叱るのは当然だ。身内だろうと精霊だろうと神様だろうとな」


「私が精霊教の人間なら、貴方その場で殺されるわよん?」


 精霊教って宗教か、宗教は地球でも危険な奴等はいたしな。気を付けた方がいいかな。 


 そんな洋一達の、やり取りを横目に見ながら、蘭だけは窓の外からこちらを伺う者に対し、密かに警戒心を高めていた。

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