第37話 豪爺い
俺達は、足早に探索者ギルドを後にする。ヤカラ冒険者に絡まれると言う、お約束イベントは起こらなかった。皆んな、俺を化け物だって口々に言ってたのが、凄く気になる。
「あのギルドの名前って、出したらいけないんだな」
「うーん私も、その辺はよくわからんでござる。過去に何かあった程度しか」
「まあ、名前出さなきゃいいんだもんな。桜さん、武器屋連れてって」
『武器屋! 武器屋へゴーゴー!』
リュイも、武器屋に行きたいみたいだ。
「了解でござる。でも、爺いちゃんがいるなら態々見ても、面白くないかもでござるよ?」
「エレン爺いは、好きなものしか作らないし、飾りの装備とか置かないからノーサンキューなの! やっぱ異世界に来たんだから、武器や防具が、お店に並んでるのが見たい!」
いい意味で、趣味全開だからなエレン爺いは。
「うっうーん? とりあえず着いてくるでござる」
桜さんが、あんまり乗り気じゃないな。何でだろう? 武器屋に虐められたのかな?
「(ヨーイチ、気をつけなさい。強い気配が近付いてる)」
「強い気配? なんだかわからんけど、リュイ俺のポッケに! 桜さんも、気をつけて!」
黒衣を纏い、刀を腰に刺している、身長170位の老人が目の前に現れた。
上や横からではなく、更に言えば、蘭に魔力を感知される事なく、俺達の目の前に現れた。
「━━━ガキお前から赤髪の気配がするが、眷属で間違いないか?」
射抜くような、鋭い眼光を、俺に向けながら老人は喋りかけてくる。
「━━━どうなんだ?」
俺があのアホの眷族だと? ふざけやがって、見た目が、ガキだからって人を馬鹿にしないでもらいたい。
「はっ! 俺は神様って奴が嫌いなんだよ。特にアルアルアルアル……クソビッチと、光一や桜さんに迷惑かけてるアナスタシアもな! どの神も地球人の俺達を、都合良いの玩具だと思ってやがる! 自分達の世界を救うためなら何をしてもいいと思ってるのが特にむかつく! しかもアナスタシアは自己の保身が最優先、罪の意識のかけらもない最低な奴だ!」
「━━━おっおう」
爺いさんが、引いてるがまだまだだ! あいつらへの愚痴は止まらないぜ!
「クソビビッチは、俺のマイサンから毛を奪いやがったし、殺そうとしやがった。
アナスタシアは俺を魔王と決めつけ、神託を出しやがった! 免罪で指名手配されたようなもんだ! 彼奴らは、神じゃなく畜生にも劣る外道だ!
俺だけの被害なら、俺が我慢をすれば良いだけだが、光一はアナスタシアのせいで心が壊れかけたんだぞ、わかるか?
16、7のガキが無理して笑い、他者に怯えて暮らさなきゃいけない異常事態を! 力が人より強いと言う理由だけで鳥居に吊るされ、淡い期待だけ抱かせて、拉致られ長い年月を、封印された人の気持ちがわかるか? 俺は彼奴らを許さない!」
言ってやったぜ!
「━━━たっ頼むから落ち着いてくれ」
爺いさんが、狼狽えている。俺の勝ちだな。
『ヨーイチ、落ち着いて黒いお爺いちゃんも困ってる!』
「(洋一、リュイ様も言うように、この人にあたっても仕方ないよ)」
蘭とリュイが止めてくるが、この爺いさんには言っておかなきゃならないんだ!
「俺は弱い! あんたみたいに強くない、だから今は、アナスタシアをふん縛る事しかできない! クソビビッチに仕返しだってできない! だけど俺は強くなる!」
ふー言ってやったぜ、まいったかこの野郎。
俺のマシンガントークに狼狽えていた爺いさんが強い力で肩を掴み揺する。痛いっ! 肩がぶっ壊れそうだ!
「━━━彼奴の居場所を知っているのか!」
「魔獣の森に縛って転がしといた。そういやそのまま放置してきたな。忘れてたわ」
『えっ!? ヨーイチあんたあのままにしたの⁉︎』
「ムカついたからな」
『誰も、助けに行ってないんじゃないの?』
助ける必要なんてないんじゃないかな?
「(光一に、今連絡したから、多分……きっと大丈夫よ)」
「蘭も忘れてたんだな、お茶目さんだな」
『蘭も忘れてたんなら、仕方ないわね!』
「三人とも適当でござるなー。私も、忘れてたけど」
ここにいる皆が忘れてるってうけるよな
「━━━魔獣の森に居るんじゃな? やっと尻尾を掴んだぞ。クックック」
爺いさんが、悪役みたいな感じで笑っている。ちょっとカッコいいな。
「━━━━情報を与えてやったぜクックック」
俺も負けじと、真似をしながら笑ってみる。爺いさんが、不思議な顔をして俺を見ている。おい、ツッコミいれろよ!
「(洋一、クックックじゃないわよ。いいの場所教えて?)」
何となくだけど、この爺いさんは優しい人だから大丈夫だよ。田舎の農協の爺いさんに、似てるし
「(農協の人って
そうそう、熊を武術で倒したって自称してた堺さん。なんとなーくだけど、似てるんだよ。そういえば堺さん、俺ってば急に居なくなったけど、心配してないかな? いや向こうじゃ、死んでるのか?
「━━━小僧名は?」
「柊洋一! こいつは、家族で相棒の蘭。見えるかわからんが、雷の精霊のリュイ。んで、コスプレイヤーの桜さん」
「━━━クックックなるほどな。不思議な気配だけは感じる。だが、見えはせんな。洋一、お前は地球に戻りたくはないのか?」
「地球? んー、蘭と一緒なら別に何処でも良いからなー。この世界なら、蘭とも話せるし。リュイやレイ先生や光一や、エレン爺や紗香さんや桜さんとも、仲良くなれたからなー。あっ光一は、地球に帰してやりたいけど」
「━━━クックックそうか。赤髪の居場所も教えてくれた訳だし、帰還方法を見つけたら洋一にも教えよう」
「爺いちゃんさあ、大凡の話はアナスタシアから聞いたが、アナスタシアを殺した後どうすんだ?」
「━━━地球に帰る方法を、一応探すだろうな。孫の、治療手段を手に入れてからにはなるが」
「蘭がスキルを使えるまま地球に行ければなー。俺も回復薬とかは探してみるよ」
「━━━ポーションとかじゃ無理じゃぞ?」
「うーん。まあ、あんまり期待しないでくれ。爺いちゃん名前は?」
「━━━これは失敬。名を
「じゃあ、豪爺いだな!」
俺が豪爺いと呼ぶと、豪爺いの動きが止まる。
「どうしたの? 嫌だった?」
豪爺いは優しい目で俺を見て、顔を逸らしながら俺の頭をグリグリと撫でる。いたたたた! 力強過ぎて、ハゲるわ!
「━━━洋一、何かあったら呼べ。必ず、お前の元に駆けつける。
そう言うと豪爺はその場を後にしようとする。すると蘭が、豪爺いの肩に止まり
「(待ってください、貴方にこの魔石を。念話石です、何かあったら直ぐに連絡ください)」
レイ先生に渡したのと同じ魔石を豪爺いに渡した。
「━━━念話石か。そうか御主は……聖なる獣なんだな。洋一を頼む」
豪爺いは、蘭に頭を下げて去って行った。
「豪爺い、何であんなに気にかけてくれたんだろ? 最初は剣呑な雰囲気だったのに」
「それは多分……洋一君が、恐怖なく接したからじゃないでござるか?」
「それだけかなあ、今度は助けるって言ってたし」
『多分呼び名よ。お孫さんと、重なったんじゃない? 「豪爺い」って洋一が、呼んだ時だけ魂が揺れてたから』
「(洋一、危ない事はしちゃだめよ?)」
「危ない事はしないし、する気もない! まだまだ弱いからな!」
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