【第5話】__巻き込まれに行く系男子_

 教室から出てくる氷山は実に不機嫌そうだ、すれ違う途中で何か言われた気がするが、まぁ別にいいだろう、あの二人がどうなろうと俺には関係は無いのだから。

 だが、仕方ないか、これ以上面倒事が増えない事を祈るからな。



「おい氷山__待てっての、どうした」



 今日はたまたまだ俺は気分がいいからな、今日だけだぞ。



「ここだとあれだから......ついてきてよ」


「あっそうか、わかった」



 氷山の言う通りに俺は後を付いて行く、終始何も話さない二人の時間は実に地獄である、普通の友人同士なら何を話すのか、まぁ気にはなるが俺には無理だな。

 どうせ俺の事を理解してくれる奴なんていないんだから、それなら理解してやる必要も無いだろう。

 頭の中で俺同士が会話する、答えを探すが見つかる事は無い、そんな事よりこいつの事が優先か。



「ねぇ東城さんはわたしが新聞部に情報を流したって言うんだけど、どう思う」


「俺の一方的な考えでいいのなら答えられるが、それでいいか?」



 頷く氷山を見るとその顔が真剣そうなのが可笑しいが、教室での東城に絡む姿を想像する。

 もしかしたら東城と仲良くなるのを氷山は望んでるのか、じゃなかったら答えなんか必要ないもんな、それならこちらも聞く必要はある訳で。

 まどろっこしい駆け引きは無しだからな、あぁなんか恥ずかしいが、しょうがない。



「その前に一つ聞いてもいいか?」



 お前の答えによっては俺は嘘を言います、真剣に向き合うつもりが無いのならこれを機に離れるんだな、お互いに傷つく必要無いだろうから。



「お前はそもそも東城と仲良くなりたいのか?」


「えっ!? そんな訳ないじゃん、どうしてあんなのと__」



 それなら俺がお前をわざわざ補助する必要は__



「仲良くなれないでしょ......どうせ、わたしなんかと本当に仲良くなりたいなんて言ってくれる人なんか」



 成程、お前も閉じて諦めた側の人間か、人との距離を詰めるのはうまいのに受け入れてくれはしいのか。

 まぁ何でもいいがそんな顔して、そんな覚悟じゃどうにもできんぞ。



「遠まわしに言って何か伝わるのか? そもそも気持ちを察っしてくれなんてのがおこがましいんだよ、自分勝手な奴はな__」


「わかってるよ......わかってる、でも東城さんなら友達になれるかもしれないって思ったんだ、本音で何かを言ってくれる人っていなかったからさ」



 氷山の顔には力が入ってるのか赤くなっていて眉をしかめている、大丈夫か。

 東城って思った事をズバズバ言うからな、むしろ心が折れない奴がこんな所にいるなんてのが俺は驚きだわ。

 答えはもらったし気持ちも理解したからな、まぁこんなもんだろうか。



「率直に言うぞ、俺はお前がやったとは思わない......まぁそう思う根拠がほしいよな? まず新聞部にお前が情報を渡すメリットが無いのが一つ、さっき言ってたもんな友達がいないって、あと決定的な答え、それはその東城と友達になりたいと言った事だ」



 友達が欲しい人間は周りから印象を悪く思われる事はもちろん避ける、それに答えは最初にもらってたからな、東城と友達になりたいってな。

 次は何を要求するんだ、まぁ最後まで付き合うつもりは微塵もないので悪しからず。



「東城さんはそうは思ってないみたいだし、どうすればいいのかわかんない」



 うわべだけで取り繕ってたんだもんな、だから俺は最初から助言してんだろうよ。

 もしもし、もう一度言うのですか、あっなんか急に面倒に思えてきたぞ。



「そもそも違うって言ったのかよ? また何か余計なことを言ってごまかしたんじゃ__」




「ごめん、なんか緊張しちゃってさ......つい」



 あら今日の氷山は随分と素直なのな、何時もこれぐらいなら好きになったかも、たぶんだけど。

 恐らくこいつらの会話はお互いを気にかけての行き違いだろうな。

 本当はあの時、東城も信じたくなかったんだろ、氷山が裏切ったなんて事をさ。

 聞き取れはしなかったがあの時、あいつの口はウソって言ってたのを確認できてたから。



「なら今から戻って言えばいいんじゃね__」


「そこで、何してるのよあなた達は」



 俺の背中の方から声を掛ける人物が、その突き刺さるような冷たい感じの声は東城か、氷山、丁度いいじゃんか言えよ。



「あのねわたしさ、東城さんに__」


「もういいわよ......」



 鋭く刺さる視線を氷山へと向ける東城、それはさすがに酷じゃねぇのかな__



「犯人は見つけたから大丈夫よ、え......何かしら?」



 良かったな氷山、あとスマンな東城、俺は東城美夜子という人物を知ったつもりでいたのかも知れないな、その視線は何を守るためのモノなのか。

 聞けるはずもないか、俺にはお前らのその仲に入る義理もなければ権利は無いのだから。

 まぁ正直に言うとただ面倒なだけだからお断りしたいのだがな。

 チャイムが鳴り響くと氷山は何かを決心したのか、東城の腕を掴んで走り出す。

 腕をつかんだ氷山の表情は晴れやかそうだ、一方で東城の顔は戸惑ってるみたいだ。

 まるで何事も無かったかのように俺の脇を通過する二人、それを軽く見送るように振り返る。



「総賀!!ホラいこうよ」


「はぁ、またあなた小野寺先生に呼び出されるわよ」



 ん? あっ、そうだったな。



「やべぇー!! 忘れてたッ」



 俺がその後の休み時間、小野寺先生に呼び出されたのは言うまでも無いだろう。

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