第8話 少年の葛藤

 午前中の内に入団試験を受けた、けっこうな人数が居たが、人手が居ると言う事で、余り落とされることは無かった、その日の内に入団式で宿舎入りで昼飯、訓練で、見回り要因だった、どうやら人手不足が深刻だったらしい、衣食住の保証が有るのは有りがたいが、早速こき使われて居る感が凄い。

「我々は、この町の兵として、王と領主に従い、民を守る事を誓う!」

 と言うのが、入団式で唱和した言葉だった、そんな思いなど無く口だけの唱和だが、一緒に入団した連中も、最近の不作で口減らし気味に家を追い出された組が大多数で、そんな高尚な精神は持ち合わせていなかったが、形だけでもと言う事らしい。

 そして、見回りで一緒に成った先輩が、路地裏で少女を踏み付け、髪を引っ張っていたあの人さらいの暴漢の男だった、こんな男が正規兵だと思わなかったが、其れは内心だけで納めて置く、相手も自分の事は覚えて居ない様子だが、極力顔に出さないように知らないふりを決め込む。


 見回りでその暴漢擬きと、同期の新人1人、名前は未だ覚えていない、そして自分の3人で、暗い夜道を見回る。

「所で、今朝魔女を見つけてな、捕まえて教会の異端審問官に引き渡せば金に成る上手柄に成るから儲けたと思ったが、どこぞの小僧に妨害されて取り逃がしてな・・・」

 思わずぎくりとするが、精一杯誤魔化す。

「引き渡した魔女ってどうなるんです?」

 極力普通の世間話の態で話を繋げる。

「そりゃあ、魔女裁判にかけて、魔女だったら広場の真ん中で火炙りだ」

 当然と言った様子で答えが返って来る。

「魔女じゃ無かったら?」

 一緒に居た同期の新入りが続ける。

「そりゃあ無罪放免って事で解放されるだろうが・・・」

 気持ち語尾を濁らせるが、無事に済むと言う事だろうか?

 内心ほっとする。

「この世界じゃ魔女って言われた時点で魔女だ、両手両足の指潰されても否定しようと魔女だ、神の審判は覆らねえよ」

 ヘラヘラ嗤いながら続ける。

 当然と言った様子で同僚も頷く。

 その様子に思わずぞわりと背筋が凍る、人では無い化け物と会話している気に成り、思わず足を止める。昼間の少女は目立つと命は無いと言って居た、言い過ぎだと思って居たのだが、本当なのか?

「どうした?」

 同期が振り向く。

「いや、何でも無い・・」

 少し足早に合流する。

「逃がしたのは惜しかったですね」

 当然と言った様子で同期が先程の話を蒸し返した。

「逃がしたのは確かだが、恐らく逃げ切っちゃいない、門には既に通達済みでで賄賂に関わらず顔を検める様に言って有る、そして報告は上がって居ない」

「となると?」

「恐らくこの町を囲む壁の中でこっそり夜を待って居る、夜を待ってこの幾つか有る防壁の穴を抜けて町を出る心算の筈だ」

「なるほど、狙い目としては?」

「この辺だな、この辺の壁は古く崩れやすい、最近見つかった穴で、未だ補修されてない、何者かが利用した痕跡も有る・・・・」

 暴漢が足を止めて解説する。

「成程」

「他の場所にある壁の穴にも警備を回して有る、今日は厳戒態勢だ、新入りのお前等が初日から夜警なのはそんな訳だ」

「通りで・・・・」

「お陰で昼の訓練が甘かったんだ、明日・・・いや、今日から本番だから覚悟して置けよ?」

 暴漢がヘラヘラと笑う。

 俺と同期はうわあ、という表情で反応を返す、どうやらその表情が欲しかった反応だったらしい、暴漢は上機嫌だ。

「そんな訳で、お前ら新入りに手柄を立てさせてやる、捕まえる準備して待ってろ」

 明かりのランプを消すと、同期が弓矢を構える動きをする。どう撃つかをイメージするらしい。

「基本生け捕りだからな、極力傷をつけずに捕らえろよ」

 暴漢が苦笑いで指示を飛ばす。

「はい、所で、其の魔女の特徴は?」

 暴漢に念のために聞く。

「小柄な若い娘だが、白い髪と赤い目が特徴だ、赤い目は太陽の精霊の加護を受けない魔女の特徴だ、まず間違いなく魔女だ」

 万が一の人違いを祈ったが、間違いでは無かったらしい・・・

「成程、そりゃあ間違いない」

 同期がヘラヘラと同意する。

 ウチの村の教会で聞いた教義にそんな一文は無かったが、この町ではそうらしい、珍しいがそんな悪い印象は一切無かった、自分には一切納得出来ない理屈だった。

「万一違う奴だったとしても、正規ルート以外で街を抜けようとする不届き物だ、捕まえて賄賂をせびるなり、其のまま捕まえて強制労働にしても良い、損はしないさ」

 そんな事をヘラヘラと言う、成程。それがこの町での賢い生き残り方らしい・・・


 絶対に来ないでくれと祈りながら待ち構える事に成った。

 白髪赤眼の彼女と再会はしたい、だが間違い無くこんな形じゃない、街に来て早々だが、もし出会う事が有ったら、一緒にこっそり町を出て、誰も居ない所で静かに暮らしたい。

 こんな人の皮を被った獣以下の男達と一緒に暮らしたくない。

 その祈りは虚しく、一番望まない形で再会する事と成った。


 少女は同期の矢が届く間合いの直前、何かを察した様子で踵を返して走り出した、良いぞ、逃げ切ってくれ・・・

「気付かれたぞ下手糞!」

 暴漢が罵声を飛ばす、暴漢はその穴の近くで張って居たので、その手は届かない。

 少女は思った以上に巧みに逃げる、右に曲がり左に曲がり、時に来た道をもう一度通り、行く道を悟らせない、足も速く、自分達の足でも早々追いつけない、自分も二人の足を極力妨害できるようにちょこまか動いて居るが、それにしても見事な物だった。

 あの時泣くほど絶望した表情をしていたのは、掴まれて逃げ道を奪われて居たかららしい。

 暴漢は大声を上げ、仲間を呼ぶ、何時の間にか追手が増えて行った。


 そして、段々と焦れて来た暴漢が、やっちまえと言う様子で同期に指示を出す、そして、打ち込んだ矢は、少女の足に突き刺さった、思わず犯人である同期と暴漢を全力で殴り倒した。

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