第6話
翌朝、遅刻ギリギリで登校して一限目の授業を終えると、短い休み時間に茂木が訪ねてきた。
「あんなぁ」
前置きして、彼女らしくない小声で他のクラスメートに聞かれないよう問いかける。
「ケンと何かあった?」
「何で?」
彩乃が質問を質問で返した。
「今朝、教室でウチの顔を見た瞬間、パブロフ並みの反射で頭かかえて防御しよったさかい。やましいことがあるんやろ思て、とりあえず蹴ったねん」
「「理由もわからないまま蹴ったって…」」
彩乃と由未が異口同音した。
「ほんでな、防御した理由を問い質しても答えんさかい、どうせユミリンか、マコにからんだことやと思てな。で、何かあったん?」
「「……」」
彩乃と由未が視線を交わして、彩乃が答える。
「部屋の前に待ち伏せされてて。強引に迫られたとこを、由未が助けてくれた、くらいかな?」
「…ええ。そんな感じよ」
「あの色ボケ。やっぱり、どつかれて当然のことしとるやん。……にしても、…」
ケンへの暴行の正当性を追認した茂木が話題を変える。
「にしても、マコ。あんたメッチャ汗臭いで」
「…そ、そう? …昨日、色々あったのに、お風呂に入らなかったから…」
彩乃が困った顔をして小さい身体を、より小さくした。
「この季節に、そら最悪やな」
「…うん、まあ、…けっこうベタついて気持ち悪いかな……。そんなに臭う?」
「どぎついことはないけど、けっこうやで」
「そんなことないわよ」
由未が茂木に反論する。
「それに、たとえ、そうであっても大きな声で言うことじゃないでしょう」
「別に大声で言うたわけやあらへんで」
「あなたの声は、いつも大きいのよ」
「友達やさかい、あえて教えたってるんやん。ユミリンの言うこともわかるで。あいまいにしとくんも日本人の美徳かもしれんけど、匂いとか自覚しにくいやん、早めに言うてもらえた方が本人のためやで」
「だからといって、あなたの言い方はデリカシーに欠ける上、事実でもないわ」
二人の論議がヒートアップする前に彩乃が止める。
「きっと、あたしとモッチーは免疫学的な相性が悪いってことね」
「なんや、それ?」
「汗の匂いはタンパク質が原因。タンパク質の構成を決めてるのはDNA。つまりDNAレベルで、あたしとモッチーは相性が悪いってこと」
「……それは遠回しに、ウチのこと心の底では嫌いやと?」
「違うって。心じゃなくてDNA。それも二人の相性というより、もしも二人のDNAから子供をつくった場合、あまり強い子ができないって話」
「なんじゃいそら」
「逆に言うと、お互いの汗の匂いが気にならない、もしくは好きなカップルから生まれた子供は免疫力が高い。こういえば、わかる?」
「わかるような、わからんような。とりあえず風呂には入りぃ」
茂木の忠告を入れて彩乃は昼休みにシャワーを浴びて、コンビニで由未と昼食を調達する。
「う~ん……サラダとデザートもほしいけど、明らかにカロリーオーバーになるから、やっぱりメインはサンドイッチ一つかなぁ」
「それはバランスが悪いって昨日も言ったばかりよ。このお弁当を二人で半分にするっていうのは、どうかしら?」
「賛成。じゃあ、サラダも大きい方にするから、半分ずつにしよ。で、この新製品のゼリーをデザートに、あたしはブルーベリー、由未は桃、っていうので、どう?」
「ええ、いいわ」
バランスを考えた上で、二種類の甘味も楽しめるメニューにした。メールで茂木とは屋上で待ち合わせする約束になっている。三人で昼食を摂り、昨日の事件の話になった。
「殺された少年は連続で通り魔やっとったらしいねん。せやけど、銃を撃った犯人は、まだ捕まってへんて」
「モッチー。撃ったのは、あたしよ」
「そら、ご苦労さん」
「……」
由未がギョッとして彩乃を見ているのに、二人とも平然としている。
「その少年の氏名って、公表されてるの?」
「いんや。鈴木商業高校の生徒らしいけど、未成年やし。なんで?」
「自分が殺した相手の名前くらい、知っておきたいじゃない?」
彩乃が怪しげに微笑んで、よく磨いた犬歯を見せる。
「はいはい」
「やっぱり、スルーなの? モッチー冷たいわっ! あなたの熱いツッコミは、どこへ行ってしまったのっ?!」
「冗談は引っぱってオモロいラインと、つまらんラインがあんねん。これも、そや」
茂木が胸のポケットに入れていた十字架のアクセサリーを不意を突いて、彩乃の頬にあてた。ぷにっ、と頬の肉が歪む。
「モッチー? 何のマネ?」
「この前は灼けた鉄でも避けるみたいなオーバーアクションやったのに、今はスルーかいな?」
「……。由未が捨てたアクセ、まだ持ってたんだ?」
「ホンマにスルーかい! リヒテンシュタインから来たエセ吸血鬼!」
「え? ああ、あの封筒の……。ふふ~ん、十字架なんてね、まともな教会で洗礼をうけたものなら、ともかく、こんな安物が夏の太陽にも負けないあたしに通用すると思う?」
「はいはい、もうええ。それより」
茂木は二つのゼリーを仲良く分け合って食べている彩乃と由未を見て肩をすくめた。
「二人して腹の探り合いしとるみたいなイヤぁ~ぁなオーラの人間関係がのうなってよかったわ。とくに、マコのウソくさい丁寧語調が消えてサッパリしたで。自然に喋っとるあんたの方がええ」
「そう?」
「和解したのよ。ね、彩ちゃん」
「まあねン」
「気になんのは、なんでマコがアヤになってるかやけど?」
「それは秘密」
「どうせ、美田孫子ちゅー冗談みたいな名前が偽名で、ホンマはアヤやちゅーネタあたりちゃうんか。おまけに二人は幼馴染み、とか」
「「……」」
彩乃と由未は顔を見合わせ、微笑んだ。
「「さあ?」」
二人してクスクスと笑っている。
「アホらしぃ。さっさと次の彼氏でも探しいや」
「モッチーこそ、彼氏は?」
「おるで。自慢やけど、遠恋や」
「どこの人?」
「奈良や」
「それは遠いねぇ」
「私も詳しくは聞いていなかったけれど、幼馴染みか、なにかなの?」
「小学5年で知り合って、お互い好きになったちゅーんを幼馴染みに分類するか、どうかやろね」
「なるほど、15歳の少年が10歳の少女を好きになったらロリコンか、という命題くらいビミョーね」
「人の大切にしてる遠恋をアホなもんと比べんとってや」
「遠恋は実らないっていうのは本当よ」
「……。シバかれたいらしいな」
「でも、遠恋を乗り越えた愛が、本当の愛に近いというのも事実」
「ほぉ~、またぞろ動物学かいな?」
「これは経済学に近いよ。まず、統計上は遠恋が実らないのは事実。無作為に抽出したカップルのお互いの住居地の距離と、その後に結婚まで至った成就率は、距離が遠いほど下がる。つまり、遠恋は成就しにくい、よって、その試練を乗り越えた愛は本当の愛かもしれない」
「ちょい待ちぃ。あんたの言う本当の愛の定義は?」
「相思相愛は世界に満ち溢れているようで、実は少ないの。モッチーの両親は恋愛結婚?」
「どやろ……たぶん、そうやと思うで。お父んが大学生やったとき、高校生やったお母んの家庭教師した縁で付き合いはじめたて」
「由未の両親は?」
「うちはお見合いよ。でも、父は一目見て母を気に入ったらしいわ」
「調査によると結婚しているカップルに、二人が出会ったとき、一目惚れ、もしくは一目惚れに近い強烈な離れがたさを感じたか、という質問に対して34%のカップルで、いずれか片方がイエスと答えているの」
「ほんで?」
「あたしの言う本当の愛の定義は、一目惚れ、もしくは、それに近い強烈な離れがたさを双方が感じていて、しかも永続的な関係を築いている状態のことよ」
「なかなか、厳しいで」
「そうね」
「先の調査から単純な計算をすると、34%の34%つまり全体の11%程度に双方が一目惚れ、もしくは一目惚れに準じる想いがあって、結婚してるわけ。つまり1割くらいしか相思相愛の結婚はない。でもって、その相思相愛婚でも離婚してるケースがあると思うよ」
「今の日本では、4組に1組が離婚してんねんで」
「可愛い子が告白してくれたから、ま、付き合ってみようかな、とか。ここまで熱烈に迫ってくれたし、まあ、いいや、くらいの気持ちで片方が妥協した恋愛は本当の恋愛じゃないの。白雪姫は相手を選べなかった。キスをしに来たのが野獣みたいな男だったら、どうするよ?」
「その野獣もキスした瞬間にハンサム王子になるとか」
「それは美女と野獣よ」
「ロミオとジュリエットは不経済、それゆえに真の恋愛」
「なんのこっちゃ」
「遠恋も不経済。こっちはわかる? 自分の身に起こってることよ?」
「……交通費、とか?」
「正解。好きな人に会いたい。なのに、お金がかかる、時間もかかる。でも、それを乗り越えてこそ、より本当っぽい愛。途中で挫折しちゃったら、それはハンパな愛」
「ウチは負けへんよ」
「ジュリエットに会いたい。ロミオに抱かれたい。けれど、家門が。しかも、死ぬかも。いや、いい、なにもかも捨てて二人で。地位も財産も名誉も無くしても、いい。でもって結果は二人ともデットエンド。超不経済」
「言い方がデリカシーなさすぎやで」
「ハンサムで高収入で高学歴で家事も手伝ってくれる彼氏がいい」
「……経済的やな。現金ちゅーか…」
「経済的で実用的な愛。あたしは、これをプラグマティック・ラブと呼ぶ」
「プラトニック・ラブやのうて?」
「モッチーってバージン?」
「……」
「みたいね」
「人の表情で決めんな!!」
「じゃあ、やったんだ?」
「やっとらんわい! ウチらはプラトニックなんや!!」
「プラトニック・ラブは現代の先進国では、女の恋愛戦術として有用性が高いよ。プラトンさまさま」
「どういうことやねん?」
「婚前セックスが一般化した先進諸国でも、男女の駆け引きの基本法則は変わらない。男は、やりたい。女の子は、ちょっと待って、もう少し。なぜ、これに有用性があるの?」
「そんなもん知るかい!」
「男は浮気するからよ」
「体験談ごくろうさま。由未が正解」
「……怒るか、泣くか、するわよ」
「泣く方が可愛いから、そっちをリクエスト。はい、泣いて。一時間でも、二時間でも、優しく慰めてあげるから、どうぞ、泣いてみて」
「…今はいい…そもそも、あんな男のために泣く気なんて無いわ」
「話を戻すと。男は浮気する。女もするけど、子供を育てるためのコストが高い生態をもつ動物は、メスはオスを慎重に選ぶ。このオスは子育てのコストを、ちゃんと負担してくれる気があるのか、ないのか、他のオスより強いのか、高給取りなのか、確かめないといけない。だから、やりたいオスを待たせる。すぐに、やらせない。すると、オスは性交という報酬をえるために、さまざまな努力をしてみせる。より立派な巣を作るとか、耐震構造のマイホームを建てるとか、美味しそうな殺したてのシマウマをプレゼントするとか、三つ星レストランのディナーを捕食させるとか」
「言葉の使い方、まちごぉてんで」
「残念ながら愛は冷める。冷めても美味しい愛もあるけれど、なるべく熱い方がいい。とくに遠恋」
「せやから?」
「やっちゃうとさ、冷めやすいでしょ。やらせない方が遠恋としては、もつよ」
「……学問的やったのが、急に…」
「さらに、モッチーはバカケンを蹴ったりしない方がいいよ。たとえ、攻撃でも身体的接触は友愛の証拠。異性間では友愛は恋愛に変わりやすい」
「なんでケンの話になんねん?」
「モッチーは遠恋の相手に、自らの貞潔さをアピールしておく必要があるの。男は浮気する、でも、男は女以上に相手の浮気を恐れる、怒る。なぜでしょう?」
「……さあ?」
「男は身勝手な生き物だから……?」
「不正解。女は必ず自分の子を産める。でも、男は必ず妻が自分の子を産んでいるとは、かぎらない。この根本的な不安と疑念が貞操帯を発明させたり、処女性の価値をあげたりしてるの。だから、モッチーの戦術は、きわめて正しいよ。ウチには、あんたしかおらんねん。せやけど、エッチは待ってな。プラトニックで頼むわ。せいぜい長いこと、ウチのことだけを想いつづけるんやでぇ、ウチもそうするさかい」
「……どつきたい、こいつを……マジで……どつきたい…」
「暴力はダメよ」
「およそ、生き物は全てDNAを残すことに腐心してる。なかでも、オスとメスって性別のある生き物にとっては、相手選びは超重要。次世代に、より多く、より確実に、自分のDNAを。でも、大量生産よりも確実性を重視して進化した種には、恋愛傾向が見られる。とくに鳥類と哺乳類には一夫一婦制で子育てするケースが目立ってる」
「あんた恋バナを科学すんの好きゃっなぁ。きっと、男脳やで」
茂木の言葉に、彩乃が表情と声を硬くした。
「あたしは性同一性障害じゃないッ! 身体も女で、心も女、スカートを履くことに違和感はないし、あたしという一人称をボクやオレに変えたいとも思わない! おしゃべりが好きで、競争や戦いは嫌い、殺し合いなんて大っ嫌い!」
「な…なにも、そんな怖い声で言わんでもええやん、ちょっと理屈っぽいとこあるなぁって意味やで」
「……ごめん、つい興奮しちゃって」
彩乃が立ち上がってゴミを片付ける。そろそろ昼休みが終わる頃なので、由未と茂木も片付け始めた。
「ほな、また部活で」
「ええ」
「あたしも、弓道着そろそろ着てみようかなぁ」
「私のを貸してあげるわ」
「じゃあ、あたしのテニスウェアも貸してあげる」
「……。私が、それを着て、何をするの?」
「弓道」
「……テニスウェアで?」
「きっと、似合うよ。はい、約束」
素早く彩乃は由未と小指をからめた。
放課後になって部室で着替える。下着姿になった彩乃に着付けを由未と茂木が手伝ってくれる。
「和装のええとこは、サイズの融通がきくとこやね」
「そうね」
「う~…暑苦しい…」
袴姿になった彩乃は手の甲で汗を拭った。弓道部も男女が所属しているので、部室は女子が着替えるときは男子禁制になり、男子は体育館の裏や各教室で着替えている。今もドアを閉め切っているので部室内は蒸し風呂だった。
「暑くて死にそう。開けていい?」
「ええよ」
茂木も着替え終わっている。由未だけが制服のまま、渡されたテニスウェアを見つめていた。彩乃が外の空気を吸って、袴姿で立ち回る。
「動きにくい。暑い。重い。和装が淘汰されて洋服が繁栄してる理由が、よくわかった」
「私、やっぱり制服のまま…」
由未はテニスウェアを部室において出てきた。
「あたしとの約束、破るの?」
「……」
「取り替えっこ、したかったなぁ」
「でも、テニスウェアで弓道なんて変よ」
「きっと、由未に似合うのになぁ」
「……場所と合わないわ」
「約束だったのに」
「……わかったわよ」
由未はテニスウェアに着替えてみたけれど、やはり弓道場に立つと猛烈な違和感を覚える。しかも、彩乃のサイズに合わせたタンクトップとミニスカートなので丈が短すぎて身体が隠れない。
「由未、恥ずかしいの?」
「…当たり前よ。こんなカッコ…」
「じゃあ、目を閉じて」
彩乃が背後に回って手で由未に目隠しする。さらに、目隠ししたまま歩き回って方向感覚と位置感覚を奪うと、弓道場の隅にある射姿勢を確認するための大きな鏡の前に二人で立つ。
「耳を澄まして、よく聞いてね」
「……」
「恥ずかしいって漢字は、耳に心って書くの」
「……」
「恥ずかしさは目で感じるものじゃなくて、耳から心へ、感じるのかも、しれないね。周りに何か言われてるかもしれない。外聞が悪い、そんな言い方もする。今の由未は、恥ずかしい?」
「……」
小さく頷いてくれた。
「じゃあ、おまじない。目を開けないでね」
彩乃は手を離すと、ポケットなど無い袴の脇開きから二つの林檎を取り出した。視覚を閉ざされた由未の鼻腔に甘い香りが知覚される。
「イブに恥ずかしさを覚えさせた知恵の実は、絵やイメージで林檎だったりするね。かのニュートン、そしてウイリアム・テル。林檎は小道具として、ステキなアイテム」
「……三つとも架空や後付の逸話といわれて…」
「余計なことは考えないで。今は由未のことだけに集中するの。はい、落ちないように両手で支えて」
彩乃が林檎を一つ、由未の頭上に置いた。素直に両手で支える。
「で、イチジクの葉に代わって、これ。落ちないように挟んで」
もう一つの林檎を由未の両膝で挟ませる。
「落としても、目を開けても、おまじない失敗だからね」
「……」
頷いてくれた頬が林檎と同じくらい赤い。
「まだ、恥ずかしいよね」
「……」
頷いてくれる。
「一度しっかり感じてみて。いつもは足首まで隠れる袴なのに…」
彩乃は屈むと、由未の素足に触れる。
両手の指で、ゆっくり両足の爪先から踵、さらに足首まで触れる。ごく優しく触れるか、触れないかのタッチで撫でる。
「今は短いスカート。制服より、短いね。制服は、このくらいまで」
足首から、ゆっくり這い上がって、ふくらはぎ、膝、膝上10センチまで登らせる。
「制服より、5センチ、10センチ、もっと短い、ここまで」
テニスウェアの裾まで、しっかりと短さを自覚させるように触れた。
「恥ずかしい?」
「……」
「頷くだけじゃなくて、言ってごらん。私は、とても恥ずかしいです」
「…わ……私は、とても……恥ずかしい…です」
「もう一度。私は、とてもとても恥ずかしいです」
「わ…私はっ…と、…とても……とても、は、…はっ、…恥ずかしいっ…です」
林檎より赤くなった。
「スカート丈も恥ずかしいけど、このタンクトップも由未には小さすぎて恥ずかしいね」
「……」
明らかにサイズが合っていないので、もともとピッタリとした縫製が、さらにキチキチになっていて平均的な大きさの由未の胸でも目立っている。
「おへそも見えてる」
立っているだけでもウエストが見えるのに、両手で頭上の林檎を支えているので、せりあがってしまい肋骨のラインまで見えそうになっていた。そのウエストを彩乃の指がスカートの上端から、タンクトップの裾まで這う。
「ここから~ぁ、ここまでっ、見えてる」
「…や、やめて…落としそう」
「落とさないでね。いっしょに支えてあげる」
今度は林檎を包んでいる指先へ指を重ねる。
「弓道着だと肘まで隠れるのに…」
指先から手首へ、肘へ、二の腕から肩と腋まで、さらに胸のふもとまで切り込まれている袖口を撫で回した。
「んっ…ぅっ…」
「もう一回、触ってほしい?」
「……」
小さく横に首を振った。
「じゃあ、触らない」
「ぇ……。……」
「でも、まだ目を開けちゃダメ」
再び両手で目隠しする姿勢になり、身体をつけて耳元へ囁く。
「たとえばね、プールサイドなら水着でいても恥ずかしくないよね。でも、水着で電車に乗ったら、かなり恥ずかしい」
「……」
「お風呂なら裸でも平気。でも、教室だったら死にそう」
「……」
「みんなが冬服なのに一人だけ夏服だったら、やっぱり恥ずかしい」
「……」
「みんなドレスなのに、私だけ体操服だったら、すごく恥ずかしい」
「…」
「みんなは弓道着。いつも私も弓道着。なのに今日は…」
そこまで言って黙ると、目隠ししている手が熱いと感じるほど、由未の体温があがって、耳も首も、胸元まで真っ赤になって、唇が震え、呼吸は短く速く、汗は玉になって流れ落ちる。
「ハァっ…ハァっ…」
心臓が拍動しすぎて胸が揺れ、首筋の頸動脈が見てわかるほど、わなないている。
「あたしたち、そんなに目立つかな。みんなチラチラずっと見てる」
「っ…」
「しかも、ヒソヒソ何か言ってる。聞こえる?」
「っ…っ…」
「あたしと由未って、そんなに変? とっても変? 大いに変で、大変?」
目隠ししている手が、汗なのか、涙なのか、ぐっしょりと濡れてくる。
「ごめんね、由未。弓道部で変に思われちゃ困るよね。でも、安心して。実はね、ここが弓道場っていうのはウソ。ここは体育館でした」
「っ…」
「けど、困ったことに、やっぱり目立ってる。バスケ部とか、バレー部の人が、みんなみんな、あたしたちを見てるよ。空いてたからってステージの上を使ったのがマズかったかな」
口先だけで弓道場の隅を体育館のステージ上だと誤認させる。もしも体育館ならボールやシューズの音、かけ声などが聞こえたはずなのに、そんな基本的なことさえ今の由未には考え及ばない。羞恥心を刺激されて動転しきっている。
「どうしよ、由未。みんな見てる。あたしまで恥ずかしくなってきちゃった」
「っ、そんな、彩ちゃんだけが頼りなのに…」
震える小声で縋ってくる。
「ど…どうするの…? どうするのよっ…」
「目を開けて、まわりを見てみる? 目隠し、やめていい?」
「ぃ…やっ」
「うん、せめて顔は隠してあげる。でも…」
彩乃は目前にある大きな鏡に映っている自分を見て、絡みついて由未の耳元で囁く、その姿はまるでリリスの化身たる蛇がイブを誑かしているようだと想った。
「でも、由未、ごめんね。こんなに人が集まるなんて。それにね、それに、今さらだけど落ちついて聞いて。あたし、うっかりしてたの。ごめんね、ステージの下から見ると、由未のスカート丈だと、……もしかしたら……」
彩乃の言わんとすることがわかった由未の脚に力が入る。
クシュ…
膝の間で林檎が五分の一ほど押し潰された。
その林檎から果汁が滴り、由未の足を流れる。その感触と自分の姿を想像して、恥ずかしさのあまり身震いして倒れそうになった。
「由未、倒れちゃダメ」
彩乃が背中から支えるけれど、ほとんど力の入らない由未はズルズルと崩れそうになる。
「このスカートで座ると、由未の下着、みんなに見えちゃうのに」
「ぃや…助けて……彩ちゃ…ん…」
とうとう力が抜けて、その場に尻もちをついた由未が目を開けると鏡に映った自分が見えた。床に座り込んで、林檎を挟んだ膝を頂点に正三角形をつくって、その底辺中央にオフホワイトのショーツが覗ける。
林檎が落ちて、ショーツが隠れ、転がって、また見えた。
「っ…」
由未は自分のパンチラを見て失神した。
「由未?」
後ろに倒れる由未の後頭部と背中を支えた彩乃が問いかけても返事がない。
「気絶してる……やり過ぎ、かな?」
「何しとんねん!!」
いつまで待っても的場に来ない二人を見に来た茂木が、彩乃の頭を拳で叩いた。
ゴッ!
「うぐっ! 痛~っ」
「何がしたいねん?!」
「羞恥心がきわまると、由未って、どうなっちゃうのかなっていう人間行動実験」
「アホか! なんちゅーこと考えんねん」
「とりあえず、保健室に。モッチー、手伝って」
文句を言う茂木と保健室へ由未を運び込み、養護教諭には軽い熱中症だと説明してベッドを借りる。冷たいタオルを額においた。
「…っ…ぅっ…」
由未は悪夢に魘されているようで、目尻に涙が浮いている。
「…もう……いや……お願い……いっそ……逝かせて……」
「どこに行く気やねん」
「あたしが看てるから、モッチーは部活に戻って」
「……。ユミリンに変なことするんやないで」
「信用ないなぁ~」
「ないわっ!」
茂木は信用できない人物に由未の命運を託して弓道場へ戻ってしまった。
しばらく泣きながら眠っていた由未が目を覚ました。
「あ、気がついた?」
「……ここは?」
「保健室」
「…っ、私…さっき…、体育館で…」
「それは夢。白昼夢。あたしが暗示をかけただけ。本当は弓道場の隅っこにあった鏡の前だから大丈夫」
「鏡の…」
まだ涙を滲ませながら由未は言われたことを理解して、安心しながらも彩乃を睨んだ。
「ひどい」
「ごめんね」
「……」
「由未が可愛すぎるから、調子に乗りすぎました。どうぞ♪」
「……」
由未は差し出された冷たいコーラを喉がカラカラだったので受け取る。
「ストレスの後にはチョコレート♪」
「……」
美味しそうな外国チョコも口にする。
「少し気分、落ちついた?」
「……」
「制服に戻る?」
「……」
もうテニスウェアには懲りたので黙って頷いた。
茂木が持ってきてくれていた制服に着替えて、時計を見ると四時半。部活に戻るにも帰るにも中途半端な時刻だった。
「どうする? 部活に戻る?」
「……」
「もう一回、あたしがテニスウェアを着て弓道場へ行けば、さっき鏡の前にいたのは、あたしだったって、みんな思うよ。どうせ、人間の目撃記憶なんて、ごく曖昧なものだから」
「……どのくらいの部員が……私を……見ていたの?」
「見てたとしても、ほんの数人。それも、あたしと由未が鏡の前で林檎つかってバランスの練習でもしてるのかなって思ったはず。由未のパンチラ見たのも、あたしと由未だけ。体育館の人は何も知らない」
「……」
思い出してしまい、由未は顔を赤くして目を潤ませた。
「ごめんね。やっぱり、あたしが着替えて弓道場へ行くよ。それで部員の記憶は上書きできるはずだし」
彩乃は帯を解いて弓道着を脱ぎ始める。
その手に、由未が手を重ねて止める。
「いい。やめて。もう、いいから」
「でも…」
「もう、いいの」
「……。でも、暑いから、やっぱり着替える。それで、くるっと弓道場を見て回ったあと、部室で制服に着替えてくるね。由未は校門で待ってて」
彩乃は提案したとおり着替えると、林檎を頭に乗せてリズム良く歩いていく。たぶん、あの調子で林檎を乗せたまま弓道場を歩き回って、茂木に狙い澄まされたりするのかと思うと、由未は少し可笑しくなった。
言われたとおり校門で待っていると、彩乃が制服姿で戻ってくる。やはり、茂木に追いかけられたのか、息を弾ませ、汗を拭いていた。
「あたしの部屋で涼む?」
「そうね」
彩乃の部屋で過ごしていると、すぐに夕食の時間になった。
「由未、そろそろ帰らなくて大丈夫?」
「ええ…」
否定とも肯定とも判断しにくい返答だった。
「それとも、いっしょに何か食べる?」
「うん」
いい返事だった。
「で、また泊まっていく?」
「いいの?」
「いいけど、家の人とか、大丈夫? 一応、世間的には、昨日の事件も未解決なわけで、それで外泊連続ってのは、まずいんじゃないかな? あたしは、ぜんぜん、いいけど、由未の家的に」
「……」
由未は少し考えて、別の提案をする。
「私の家へ、彩ちゃんが泊まりに来るのは? 昨日お世話になった友達ってことなら、理由になると思うの」
「ご両親が許してくれるなら、ね」
「電話してみる」
由未が連絡を取り、すぐに了承を取り付けた。そう決まると、彩乃が宿泊セットを準備して部屋を出る。
玄関ドアを開けると、ケンがいた。お互いの存在に対して、三人とも凍りつく。最初に口を開いたのは由未だった。それも詰問するような冷たい口調で、
「どうして、ここにいるの?」
「ぅっ…えっと……その…」
ケンの額に汗が浮く。かなり狼狽している。
「えっと…、…その…部活が終わって…その…なんていうか…」
「邪魔よ、どいてちょうだい」
由未が玄関を出る。
彩乃も続いた。
「……」
「…マ…マコちゃん、あのさ…」
「ごめんなさい。……色々と」
彩乃は目を伏せてドアを閉める。鍵をかけて荷物を持ち直した。
「……」
「……」
「私が話していくから、先に駅で待っていて」
「……ごめん、由未」
彩乃がエレベーターの方へ消えた。
由未とケンだけになる。
「あなた、ストーカー?」
「……」
違うと言いたいけれど、そろそろ自覚しつつもあり、ケンは黙って顔を背けた。その態度が由未を苛つかせる。
「少しは自分を客観的に見てみたら?」
「……自分だって…」
「私? 私が、どうだっていうの?」
「……」
ボクが相手にしなかったからって、ボクの邪魔をしてるじゃないか、という言葉を飲み込んだ。不誠実な付き合い方をして由未を傷つけた自覚はある。だから、由未が自分の恋路を邪魔しても仕方ないとも思う。聖女のように微笑んで、あなたの応援してるから、ちゃんと幸せになって等と言ってくれることを期待しているわけでもない。ただ、マコちゃんと一対一で話がしたいんだ。そんな思考が渦巻いている。
「……」
「未練がましい」
「っ…」
「迷惑よ」
「マコちゃんが言ったわけじゃないだろッ!!!」
「……」
沈黙したのは怒鳴られて気圧されたわけではない、怒声以上の気迫を込めて睨みつけている。ケンの方が後退った。
「……なんだよ……なんなんだよ……」
「……」
「なんか……なんか変だ! なんで、真藤さんが……くそッ!」
苛立ちのやり場がなくてケンは壁を叩いた。
「ボクはマコちゃんと話したいんだッ!!」
「あなたの言うマコちゃんなんて、もう存在しないのよ」
「なっ? なんだよ、それ?! どういう意味だッ?!」
「さあ」
疑問を与えて疑問に答えない、よく彩乃が使う口調と仕草で相手を愚弄するとエレベーターへ向かった。さすがに追いかけてはこない。すぐに駅へ着いた。
「お待たせ」
「……大丈夫だった?」
「ええ」
「ごめん、由未」
「気にしないで」
二人で電車に乗る。車内は会社帰りのサラリーマンで混雑していて、由未と彩乃は黙って時間が過ぎるのを待った。由未の家に着くと、両親は平凡に歓迎してくれ、彩乃も礼儀正しく夕食と風呂をいただいて由未の部屋に入った。
「お先。いいお湯でした」
「そう、よかったわ」
「あ、お布団まで敷いてくれたんだ。由未? お母さん?」
「母よ」
床には茂木が宿泊したときと同じ客向けの布団が敷かれていた。
「なら、お礼をいっておかないとね」
「気にしなくていいわよ。それに、やっぱりお客様に床で寝てもらうのは悪いわ」
「部屋の主に床は悪いよ」
「それなら、いっしょにベッドを使うのは、どうかしら?」
「……。狭いしヤダ」
由未のベッドはシングルで広くない。もっともな意見だった。
「でも、夕べは二人で…」
「あれはダブル。これはシングル」
「私が隅っこで寝れば、大丈夫よ」
「……う~ん、とにかく由未も、お風呂に入ってくれば? あとで考えよ」
「ええ、そうね」
結論が出ないまま、今度は由未が入浴する。その間に、彩乃は鏡を見ながら、ピンクの口紅を出した。
「ん~♪」
口紅を頬へ塗っている。ごく細く小さな十字架の形に塗りおえた。ちょうど、昼休みに茂木が十字架のアクセサリーを押しあてた場所だった。
「ふふふ……また、泣くかな?」
ろくでもないことを企みながら微笑んでいる。さらに、除光液を染み込ませた脱脂綿を仕込んだ。
「いい月夜♪」
窓を開けると、おあつらえ向きに月が出ている。彩乃は机の前にあったイスに座り、口紅を塗った頬を、すぐには見つけられないよう窓側へ向けて、斜めに座る。そこへ由未がパジャマ姿で戻ってきた。
「彩ちゃん、何か冷たい物でも飲む?」
「……」
せっかく問いかけてくれたのに、あえて無視して彩乃は月を見上げる。神妙な顔でタメ息をついた。
「ふ~っ……」
「どうかしたの?」
あっさり食いついてくれる。
「由未、一つ質問に答えてくれる?」
「……うん、……いいけど…」
「由未ってバージン?」
「ぇ……」
「由未って処女なの?」
同じ意味の問いを繰り返して強調すると、入浴で紅潮していた頬を、さらに赤くして肯定の頷きをしてくれた。
「そっか。よかった」
「……よかったって……どういう……意味なの?」
ますます顔を紅くしてくれるのが、たまらなく可愛い。
「由未、今夜は裸で寝ないの? 夕べみたいに」
「ゆ、…夕べは……、その……」
「その?」
「…その……、わ、私が…裸で寝た方が……いいの?」
「うん」
「っ……裸に、なれって言うなら……なるけど…」
「なれ。なって。ならねば、ならぬ」
「………」
赤面しきって困っている。
「由未。電気、消して」
「…うん…」
由未が部屋の明かりを落とした。月明かりだけになる。
「……」
「……」
「……」
彩乃は黙って月を見上げる。まるで待っているように月を静かに見つめる。
「……」
「……」
由未がパジャマを脱ぎ始めた衣擦れの音がする。
振り返ると、由未は白金のネックレスだけを身につけた姿だった。両手で身体を隠して、暗い部屋の月光が届かない場所にいる。
「やっぱり、由未はキレイ」
「……そんな……こと…」
「キレイ。すごくキレイ。こっちへ来て、よく見せて」
「…う……うん…」
ためらいながらも近づいてくる。その顔を見つめると、由未も見つめてくる。正面から見つめ合って、月明かりでも頬に塗られた口紅の十字架に気づいた。
「彩ちゃん……その頬…」
「え?」
「十字架に痣ができてる」
「……チッ」
大袈裟に舌打ちして、除光液の染み込んだ脱脂綿を指の間に隠したまま、さっと拭い去った。おかげで由未からは触れただけで消えたように見える。のちに茂木がアホ臭すぎて肺が腐るといった芝居を始めていく。
「あの女……、あたしを試して……チッ…まあ、いい」
腕を伸ばして由未を捕まえる。
「これで、わかった?」
「……彩ちゃん?」
「もう一つ、リヒテンシュタインはヴァンパイヤの本場。これで、わかる?」
「彩ちゃん……まさか……本当に…、……」
「ごめんね」
「……どうして、謝るの?」
「どうして、おばあさんは、そんなに口が大きいの? お前を食べるためさ!」
捕まえていた腕を引いて、ベッドへ由未を押し倒した。ほとんど抵抗らしい抵抗もなく、組み敷いた。
「由未。お祈りをすませて」
「……」
由未は少し目を閉じて、それから見上げてくる。
あまり、その瞳に恐怖は感じられない。彩乃は芝居を見抜かれているかと不安になってくるけれど、とりあえず最後まで続けてみる。
「怖くない?」
「……、私……怖いけど、…彩ちゃんだから……」
「本当に、バージン?」
「疑わないで……どうして?」
「知らないの? 処女でないと、あたしに咬まれると餓鬼に。処女なら仲間に。有名だと思ったけど」
「それなら、大丈夫。絶対に彩ちゃんの仲間になれるから」
「そう……よかった」
ゆっくりと右手を由未の心臓あたりにそえた。小鳥よりも速い鼓動だった。欺されてる、本気してる、やっぱり可愛い。笑ってしまいそうになる顔を微笑みで誤魔化した。
「由未、本当に、いい?」
「…うん…」
「もう、あの優しいパパやママにも会えなくなるかもしれない。学校にも……、それでもいい?」
「いい……彩ちゃんさえ、いてくれれば……いいから」
「……。いい覚悟ね」
彩乃が口を近づけると、さすがに身を硬くした。それでも自分から顎をあげて首筋を差し出してくれる。美味しそうな獲物だった。
「いただきます」
「ぃ、…痛く、しないで……なるべく…」
「くっ!」
彩乃は笑いを耐えるのに苦労を強いられた。由未の胸に顔を伏せて、今にも笑い出しそうな顔を隠して耐える。
「くっ…くっく…」
「…彩ちゃん?」
「……くっ……ハァ……ハァ…」
耐えきった。笑って芝居だと言っても、よかったけれど、ここまで見事に欺されてくれると、もっと欺していたくなる。まだだ、まだ笑うな、笑いをこらえるのに、こんなに苦労したことはない、彩乃は必死で表情を整えた。
「…ハァ……ハァ…」
「どうしたの、彩ちゃん?」
「……」
なんとか真顔になって由未を見つめる。
その目に潤んだ笑い涙を見つけられてしまった。
「…彩ちゃん……泣いてるの? ……どうして?」
「……。吸血……吸血衝動っていうのは、由未が思っているより、とても、とても強いものなの。それも、逆らいがたくて、ガマンできない、自分でも、どうしようもない、だから衝動。飢えより、恋より、性欲よりも、強烈な衝動」
口からでまかせに言い募ってみる。
「これでもね、罪悪感はあるの。由未を夜の世界へ巻き込んでしまうことの。罪の意識はあるの。おまけにね、この吸血衝動ってヤツは、誰でもいいわけじゃない。大好きな、大好きな人にしか、感じない、やっかいなものなの。あたしの人の心は、本当は由未を吸いたくない。でも、ガマンできない。どうしたら、いい?」
「……いいよ、吸って。……お願い」
「……。ありがとう、由未。……なるべく優しく吸うから、そのまま眠ってね。明日の朝、きっと世界は変わって見えるから」
「うん、彩ちゃん……私も彩ちゃんが、大好き」
それが人として最期の言葉になると思いながら眠りへ落ちていった。
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