第10話 練兵場
勇者召喚から一夜が明けた翌日。
朝食を終えた
引率の責任者はルファ・メーリング。
彼女を補佐するように高位の神官二人と下位の神官五人が随行してる。さらに鋼の甲冑に身を包んだ騎士の一団と、革鎧を着込んだ衛兵の一団が護衛として同行していた。
「凄い広さだ……」
広大な練兵場を見渡しながら
彼の傍らに立っていた
「サッカースタジアム六個分くらいあるんじゃないのか、これ……」
ただ一人、一条一樹だけが不敵に笑った。
「これだけ広ければ、魔法も思い切り使えそうじゃないか」
彼ら三人に続いて練兵場の門を潜ったのは
「わー、広い! 凄い! こんな広いところ見たのは初めてです」
そんな清音をほほ笑ましそうに見ながら、三好も練兵場の広さに感嘆の声を上げる。
「神聖教会の敷地も広かったですが、これは比べものになりませんな」
確かに広い。それに防壁が堅牢だ。
練兵場の広さと造りに蔵之介も驚いたが、それを顔や口調にはださない。
「ここで魔法の訓練をするんですか?」
三好の後に門を潜った蔵之介がルファ・メーリングに聞いた。
「はい。これだけの広さがあれば存分に魔法をお使い頂けます」
「予想以上の広さです」
「イセ様は日本の方でしたね。これだけの広さの空間はあまり馴染みがないので驚かれましたか?」
「確かに馴染みのない広さですね」
先に召喚された高校生たちから、相当量の情報を入手しているのは間違いなさそうだ。
そう思いながらもそのことには触れずに答える。
「これだけの空間があれば、遠距離攻撃や広範囲攻撃の訓練ができそうですね」
閉鎖空間である遺跡ではおよそ使い道のない訓練だろうと、蔵之介が問うように聞いた。
ルファは変わらぬ笑みを浮かべ、用意してあったようにスラスラと答える。
「遺跡のなかでは遠距攻撃や広範囲攻撃の魔法はあまり利用できませんが、己の攻撃魔法の上限を知っておくことは大切です」
「なるほど、魔法に対する考え方や訓練方法が確立されているんですね」
「魔法に限らずギフトに関しては、いまもなお研究や実験を怠っていません」
「我々にとってギフトは未知の力です。色々と常識外れのお願いをしたり、行動をしたりするかも知れませんが、ご寛容頂けると助かります」
「はい、承知しております。勇者様の常識が私たちの常識と違うことは皆も心得ております」
ルファが笑みを向けた。
さて、問題はどこまで常識外れの要求や行動を容認してくれるかだな。
蔵之介が内心でほくそ笑みながら、笑顔を返す。
そのとき、高位の神官の一人がルファに語りかけた。
「ルファ様、指導員が到着いたしました」
「勇者様方に引き合わせます。こちらに連れてきてください」
「畏まりました」
◇
「レベッカ・ブラウナーと申します。わずかな時間でしょうが、勇者様方のお手伝いをできることを光栄に思います」
そう挨拶をしたのは二十代半ばの女性で、燃えるような真赤な髪を結い上げていた。
「レベッカ・ブラウナー様は宮廷魔術師の一人で、我が国随一の雷魔法の使い手です」
ルファはそう言ってレベッカを見ると、
「カズキ様とタチバナ様、オオタニ様の魔術指導員のリーダーとなります」
すぐに高校生三人組に視線を向けて言葉を続ける。
「よろしく頼む」
一樹がレベッカに向かって小さくうなずきながら言った。
彼に颯斗と龍牙が続く。
「レベッカさん、よろしくね」
「大谷龍牙です、よろしくお願いします」
「リーダーはレベッカ・ブラウナー様ですが、他にも五人の指導員がカズキ様たちの専属指導員となります――――」
レベッカ・ブラウナーに続いて、五人の魔術師が紹介された。
勇者の専属指導員に抜擢されたという誇り、そしてそれぞれが、上位魔法のギフト所有者であることの自信がその態度に現れている。
対して蔵之介たちに付けられた指導員は五人。
何れも一樹たちに付いた指導員とは違って、どこか周囲に遠慮をしている様子がうかがえた。
「なるほど、ギフト毎に専属の指導員が付く訳ですか」
「まあ、そうなりますね」
三好と蔵之介が指導員の差に気付かぬふりをして会話をしていると、清音が不安を口にして蔵之介に問いかけるような視線を向ける。
「私たちの指導員さん、何だかオドオドしていませんか? 大丈夫なんでしょうか?」
「少なくとも、私たちよりはギフトのことに詳しいと思いますよ」
「娘さんは心配性ですな。ここはあの人たちを信じて色々と教えてもらいましょう」
蔵之介が答えると即座に三好が彼に同意する。
とは言うものの、明らかに見劣りするよなあ。上位魔法のギフト所有者と、基本四属性や下位互換のギフトしか持っていないのなら仕方がないか。
蔵之介は内心でそう思いながら、紹介された自分たちの指導員に視線を向ける。
身に着けている衣服やアクセサリーからして違う。
収納魔法、融合魔法、紋章魔法、土魔法、水魔法。何れもこの世界では価値の低いギフトであった。
勇者と指導員の引き合わせが終わるとルファが口を開いく。
「今日は訓練初日です。皆さんにはギフトがどのようなものであるのかを知ってもらいます」
「早く魔法を使ってみたいんだけどな」
間髪容れずに颯斗が返した。
「タチバナ様、魔法は見てすぐに使えるようなものではございません」
「残念、時間がかかるのかー」
颯斗が落胆する
「俺たちよりも先に召喚された勇者たちはどれくらいの日数で魔法が使えるようになったんだ?」
「あ、それは俺も興味あるな」
「当面の俺たちの目標? ってかライバルだもんな」
颯斗と龍牙が幾分か緊張した表情でルファを見た。
三人の様子にルファが笑みを浮かべる。
「先の勇者方様は先の勇者方様です。お気にされずにご自分のペースで訓練に励んで頂ければ――」
「知りたいんだ。教えてくれ」
ルファの言葉を遮って一樹が静かだが力強い言葉で再び聞いた。
「カズキ様?」
「頼むルファさん。俺たちとしても励みになるはずだ」
ルファは『承知いたしました』と言うと、一呼吸措いて静かに話しだす。
「先の勇者様方は早い方で三日目、最も遅い方は五日目で実際に魔法を使用することができるようになりました」
「それは速いのか?」
「はい、恐ろしい速さです。過去に類を見ません。ですので、参考にはならないと思います」
ルファの最後の一言にカズキが反応する。
「確かに参考にはならないかもな。俺たちがその速度を塗り替えてやるよ」
そう言ってルファに背を向けると、颯斗と龍牙に声をかける。
「おいお前ら、絶対に今日中に魔法を使えるようにするぞ!」
「そうだな、先行しているやつらに負けるってのは嫌だよな」
「後からきて軽ーく、追い抜くってのはどう?」
颯斗と龍牙のセリフに一樹が不敵な笑みを浮かべて答える。
「それで行こう。先輩たちには涙目になってもらおうぜ」
指導員の下に向かう三人の背中を、微笑みを
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