第257話 勇者ハヤテVS魔王ソロモン5

帝国の勇者ハヤテは震えながら聖剣を構えて、悪魔ナベリウスと対峙していた。


悪魔アモンは勇者ハヤテを逃がす為、立ち塞がった帝国騎士隊副隊長のオカモリを一蹴していた。


既にアモンの突進でボロボロになったオカモリの盾は、アモンの攻撃を防ぐ事が出来なかった。


アモンが羽虫を払うように振り払った強力爪がオカモリの盾を粉砕し、その勢いでオカモリは上半身を引き千切った。



そしてハヤテの後ろから悪魔アモンがゆっくりと近付く。


勇者ハヤテと第三王女ミフジは、悪魔アモンと悪魔ナベリウス、悪魔グラシャにいつの間にか囲まれていた。


魔王ソロモンが現在召喚している悪魔は、目に入る範囲で……。


魔王ソロモンの両脇にいる正体不明の2柱。

俺の横にいるバティン。

ハヤテ達と戦っている3柱。


今のところ6柱か。


悪魔を1柱召喚するにも魔力が必要なはず。72柱の悪魔を全て一度に召喚出来るとは思えない。


魔王ソロモンは、いったい何柱の悪魔を同時に召喚出来るんだろう。


「あんなに悪魔を召喚しても魔王ソロモンは大丈夫なのか?」

ちょっとバティンにかまをかけてみよう。


「ふふふ、ソロモン様の事を探りたいようですが、その件で私は答える事は出来ません。直接ソロモン様に聞くのですな」


あっ、やっぱりダメか。


そんな事をしていると……。


「『聖女の守りセイントガード』!」


帝国の第三王女ミフジは膝をつき祈るような姿勢で「聖女の守り」を発動していた。


アモンがその巨躯から右前足を「聖女の守り」の結界に振り下ろす。


「ああああああ……」

逃げ出す事が出来ない事を覚ったハヤテは、腰を抜かしお尻を地面につけて怯えていた。


ミシミシと音が聞こえ、ゆっくりとアモンの前足が結界を歪めて下に降りていく。


アモンはまるで遊んでいるかのように、少しずつ前足に力を入れていた。


必死の形相で祈りを続けるミフジ。


パリン!!


高い音がした。


グシャ!


「聖女の守り」の結界がアモンに壊され、そのままアモンの前足でミフジが潰された。


「ひぇえええええ、く、来るなあああ!」

ハヤテが聖剣を無我夢中で振り回す。


しかし、腰を下ろした状態の聖剣では脅威はない。


ハヤテの背後からグラシャの牙が、ハヤテが聖剣を持つ右腕を噛み千切った。


「ああああああああああ!!!」


のたうち回るハヤテが俯せになったタイミングで、ハヤテの背中にアモンが前足を乗せて、身動きが出来ないように押さえた。


「タクミ! 助けてくれえええ……」

泣き叫ぶハヤテ。


俺に助けを求められてもなあ。


亜人達を殺し捲ったのは事実のようだし、俺にも聖剣を抜いて殺そうと襲い掛かって来たし……。


誘拐のように望んでいない召喚をされたのは同情はするけれども、どうせ地球では死んだ後の召喚のはずだし、チートスキルを貰って好き勝手したんだろう。


帝国の奴隷にされていなかったところを見ると、帝国の都合の良いように意識誘導されていたとは思うが、女性関係で良い思いもしたと聞いているから自業自得だよなあ。


本当はハヤテは帝国に騙されていて、考えが間違っている事を教えてやりたい気持ちがあったんだが……。


死ぬ間際に今までのハヤテの行動が正しくない事を知ったら、それはそれで可哀想だよなあ。


はぁ……。


結局、ハヤテの最後を黙って見守る俺達だった。

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