第236話 常闇のボーク2

冒険者ギルドの惨劇から数日後の冒険者ギルド救急室にて。


「ボーク、調子はどう?」


総ギルドマスターのキアラが壊れた為、暫定で総ギルドマスター代理になった元副ギルドマスターのダワセが、ベッドで横になっているSSランク冒険者である常闇のボークの、お見舞いに来ていた。


「ああ、残念ながら調子は良いよ。数日すればモンスターの討伐にも復帰出来そうだし、依頼も受けられるだろうよ」

と浮かない顔のボーク。


「それは良かったわ。貴方に指名依頼があるのよ」

と作り笑いのダワセ。


「はぁ。まだ、完全復帰は出来ねえぜ。どんな依頼だ」

と気が乗らない様子のボーク。


「勇者パーティーのメンバーになって貰うわ」

と胸を張り右手の人差し指をボークに向けるダワセ。


「はあ? おかしいだろう。俺はタクミの従者である黒豹の女に、完膚なきまでに叩きのめされたんだぜ。その間にタクミは、冒険者ギルドのトップランカー10人の両手両足を斬り落とし、その他20人も動けなくした上で、総ギルドマスターのキアラのとっつぁんも壊したって聞いたぞ」


とそう言って首を振りイヤそうな顔のボークは、隣のベッドに丸まり「すいません。すいません……」と呟き続けるキアラを見た。


「……そ、それは間違い無いわ」

ダワセもキアラを眉をしかめて見る。


「誰が考えても勇者パーティーの一員はタクミだろう」


「タクミには断られたのよ。冒険者ギルドに対して、良い感情を持っていないタクミに、これ以上話をする事は出来ないわ」


「だからと言って、俺はねえぜ。黒豹の女に俺が得意の闇魔法で為す術もなくやられたんだ。俺の自信は木っ端微塵に砕け散って、俺は一から出直そうと思っているぐらいだ」


「それも分かるけどね。これは命令よ」


「へっ? 命令……」


「そう、この国の冒険者ギルドには、もう貴方しか勇者パーティーに参加出来るSSランクの冒険者はいないのよ」


「はぁ? 他の奴等はどうしたんだ!」


「両手両足が無くなって冒険者を廃業せざるを得なくなった者と、……後は、……タクミを恐れて逃げ出したわ」


「俺も逃げ出してえ」


「あのねえ! 一番悪いのはキアラだけど、ボーク! あんたにも責任はあるのよ!」


「ど、どんな責任だよ」


「あんたがタクミの行く手を遮って『デーモンスレイヤーのタクミを倒せば勇者パーティーに入っても良いよなぁ!』なんて言わなければ、あんな事にはならなかったのよ! 責任をとりなさい!」


「せ、責任って……」


「あんたの所為で勇者パーティーが結成出来ず、魔王に人類が滅ぼされても良いと思っているの!!!」


「……」

無言で顔を顰めるボーク。


「あのねえ、別に戦闘であまり貢献出来なくても良いわよ。勇者パーティーには探索出来るベテランがいないのよ。探索要員としてあんたの冒険者の経験を生かしてくれればいいわ」

とボークの顔を睨み、有無を言わせないつもりである事が、ありありと顔に出ているダワセ。


「はぁ、やりたくねえけど……、仕方ねえかぁ……、ああ、逃げ出してえ」

と観念した顔のボーク。


「……頼んだわよ!!」

ホッと一息のダワセだった。

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