第188話 ギルド長ラユガワ

「早く依頼完了の処理をしてね」


剣聖ルイに急かされて、ギルドの受付嬢はワタワタと処理をして、報酬をルイに渡す。


「ルイ様、本当にレッドデビルベアとユニコーンの依頼は、キャンセルで良いのですか? 依頼未達成は、マイナス評価になりますよ?」


「良いよ。キャンセルしたのはタクミ様だ。後でギルド長に確認してみて。Eランク冒険者のタクミ様に、ペナルティなんて課せないよ。それとタクミ様がその説明をしようとしたが、拒否したのはきみだからね」


「きょ、拒否?……そう言う意味でギルド長に会えないと言ったわけでは、ないのですが……」


ゴン!

「っう」


俺は、モンスターの魔石を再度ルイの後頭部にぶつけた。


「余計な話はするなと言ったぞ! 報告が終わったら直ぐに戻って来い!」


「は、はいぃ! 今あった事はギルド長に報告した方が良いよ」


ルイは後頭部にぶつけられた魔石を二つ拾って、俺の元に戻って来た。


俺とジャイアントハーフの聖騎士リンは、食堂の端のテーブルでコーヒーを飲んでいた。


「取り敢えずルイも飲みな。コーヒーで良いか?」


「は、はい」


「おじさーん、コーヒー追加ね!」


俺は食堂のおじさんにコーヒーを追加して、テーブルの上にあるクッキーを食べた。


「報酬を貰って来ました」


ジャラッ……。


ルイはテーブルの上に報酬の入った布袋を置く。


「ご苦労様」


俺は布袋をアイテムボックスに入れた。


少し時間が立つ。ルイもコーヒーを飲んで、一息いれた様だ。


「おい、お前! 随分偉そうだな」


ルイの後ろから冒険者が1人声を掛けて来た。


俺は残り少ないコーヒーを飲み干し、カップをテーブルに置くと立ち上がる。


「何だぁ? 文句がありそうだな。ちょっと虫の居所が悪いから手加減しねえぞ」


俺は喧嘩腰で応えた。


「がはは、いっちょ前にやる気か? さっき横で聞いてたが、お前はEランクだろう? 俺はBランクの──」


俺は魔王の手甲を装備した右手で、冒険者の顎をぶん殴る。強烈なフックだ。


勿論手加減したよ。手加減しないと顔が吹き飛ぶからね。


首からグルンと身体が回転し崩れ落ちる様に倒れた冒険者は、まあ、脳震盪を起こして気絶してるだろうね。


気絶したので、煩くなくて良かったと思うよ。魔王の手甲は痛さ100倍だからね。

起きたら痛みとと共に、俺に絡んできた事を後悔するだろう。


「良し、行くぞ」


一発殴ってちょっと気がはれた俺は、リンとルイに声を掛けた。


「「はい。」」


カップを置いて立ち上がる2人。


「ちょっと待ってください」


先程、対応した受付嬢だ。俺は怪訝な顔で受付嬢を見る。受付嬢の隣にじいさんが立っていた。多分ギルド長だな。


「ヤだね。待たないし帰るよ」


俺は歩き出す。


「儂はギルド長のラユガワじゃ。儂に用事があるんじゃないのかのう。特級アンタッチャブルのタクミ殿」


俺の背中に声を掛けるラユガワ。


「用事は無いよ」


俺は振り向かず右手を上げて振り、出口に向かって歩く。


俺の後について来るリン。ルイはラユガワに軽く頭を下げて、俺の後ろに駆け足でついてきた。


「はぁ、シズ、タクミ殿の事は覚えておきなさい。彼の言う事は最優先で対応しないとギルドが潰れる」


溜息をついて、受付嬢のシズを見るラユガワ。シズは、顔を伏せて小声で謝る。


「すいませんでした」


「過ぎた事をとやかく言うまい、しかしレッドデビルベアとユニコーンの依頼に何かあったのは確実だ。冒険者達に探って貰う事にするか……」

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