第128話 ギルドマスターマトヤ

「取り敢えずお仕置きは、しておかないとな。」


俺が殴って蹲る冒険者に近付き、左手で髪の毛を掴み引きあげた。


「ひっ。」


男は既に抗う気力は失せて、怯えて震えているが容赦する気は無い。


こう言う輩は。熱りが冷めたら、また若い冒険者に絡むだろう。


殺すまではする気は無いが、やるならとことんだ。


俺は魔王の手甲の右手の拳を男の鼻に叩き込む。


ドゴッ!


鼻血を流して泣き崩れ倒れる男。


俺は倒れた男に跨がり、死なない程度に殴り続けた。


「痛っ、ぐふぇ、痛っ、ひぃ、たふけて、ほめんなひゃい・・・。」


ドガッ、ドゴッ、バキッ、ガコッ!


「酷い、止めろよ!」


ドガッ、ドゴッ、バキッ、ガコッ!


声を掛けてきた冒険者を睨む。


ドガッ、ドゴッ、バキッ、ガコッ!


「次はお前か?」


「いえ、・・・何でもないです。」


ドガッ、ドゴッ、バキッ、ガコッ!


「じゃあ、口出しするな。」


「は、はい。すいません。」


ドガッ、ドゴッ、バキッ、ガコッ!


冒険者達は何も言えなくなり、受付嬢ミトナも黙って俺を見続けた。


俺は冒険者ギルドで、名前も知らない冒険者を殴り続ける。


途中でジャイアントハーフの聖騎士リンに回復して貰った。


俺に殴られた傷が治る。

しかし痛みは残る。


泣いて何度も謝る冒険者。


周りの冒険者達が「やっと終わった。」とホッとしてる気配がする。


しかし、俺はまた殴り続けた。


「げっ、まだやるのかよ。」と言う冒険者の呟きが聞こえる。


「もう止めてください。」

「すいません、すいません。」

「助けてください。」


殴られてる男の仲間の冒険者が泣きながら謝っているが無視だ。


リンに回復して貰い殴るを繰り返す。


いつの間にか俺の近くに、巨体で体格の良い髭オヤジが、黙って成り行きを見守っていた。


「ギルドマスターだ!」

「何で止めないんだ?」

「見てるだけだぞ?」


冒険者達のひそひそ話が聞こえる。


「ギルドマスター、すいません、止めてください。見てられません。」


周りで見ていた冒険者の1人が、ギルドマスターに囁いているのが聞こえたが無視だ。


ギルドマスターは仲裁をお願いして来た冒険者に。無言で拒否の態度を示す。


ほほう、ギルドマスターか。

俺を止めないんだな。


俺は殴るのを止めた。


「終わりましたか?」


ギルドマスターが俺に聞いた。


「ああ、これくらいやれば、2度と若い冒険者に絡む事は無いだろう。」


「俺はギルドマスターのマトヤです。後始末はこちらでします。タクミ様の御用件は受付嬢のミトナが対応させていただきます。ミトナ、任せたぞ。」


「は、はひぃ。」


ほほう、ギルドマスターが俺を止めずに、黙って見ていたのか。


「分かった。」


マトヤは冒険者達に向かって叫んだ。


「いいかぁ!良く聞け、今見た事を胸に刻め、タクミ様に一切関わるなぁ!」


「ちょっと待ってくれ、ギルドマスター、彼は何者なんだ。」


こっちをちょっと見て、小声でギルドマスターに聞く冒険者達。


「タクミ様が何者か!一切知ろうとするな!」


「タクミって何者なんだ?」

「怖ぇ・・・。」

冒険者達がザワザワし始めた。


「命を失わずにいた事を幸運と思え。もしタクミ様が本気で怒れば・・・。」


マトヤは最後にドスの効いた声で、威圧を込めて吐き出した。


「・・・ここにいるもの全員死んでたぞ。」


「な、何だよぉ。」

「巫山戯んなよぉ。」

「そんな奴をギルドが野放ししてるのかよぉ。」


「冒険者ギルドは、タクミ様に干渉しない。そしてタクミ様に敵対する冒険者は資格剥奪する。これ以上は俺からは言えない。タクミ様の詮索はするな、死にたい奴は勝手にしろ。」


ギルドマスターのマトヤはそう言うと、俺に会釈して受付奥に歩いていった。

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