第94話 冒険者ケマヌ

ドラゴンの死骸と聖剣をアイテムボックスに収納し、地竜の馬車を待つ俺。


地竜の馬車に乗りジャイアントハーフの聖騎士リンと、ブラックジャガー獣人のノワが俺の元に来た。


「流石、タクミ様です。」


リンは胸を張り何度も頷く。


「タクミさまぁー、お見事ですぅー。これで、ドラゴンスレイヤーの仲間入りですねぇー。」


ノワも俺の両手を掴んで嬉しそうだ。


そこに剣聖ルイ達もやって来た。


「タクミ様!有難う御座います。」

少し涙ぐんでいるルイ。


「ちょっと待ってくれ!俺達も命を懸けてドラゴンと戦ったんだ。鱗の一つぐらい貰っても良いんじゃ無いか?」


そう言って上目遣いで、冒険者の男が俺に声を掛けてきた。


「無礼者!」

「命を助けて貰ったのにぃー。タクミ様に失礼だよぉー。」


リンとノワは俺の両脇で臨戦態勢に入った様だ。


「まあまあ、落ち着け。」


俺はリンとノワを止める。


「ケマヌ!何を言ってる!私達では、到底ドラゴンを倒す事は出来なかった。助けて貰ったのに御礼も言わず、その態度は無いだろう?」


仲間がケマヌに注意する。


「横から出て来て、勝手に倒したんだ。通常は先に戦ってた者に権利があるだろう。俺は助けを求めていない。」


「無礼だぞ!私が助けを求めて、素材も全てタクミ様に渡す事を了承した。私の面子を潰す気かぁ!」


ルイがケマヌを睨む。


一触即発の雰囲気。


俺はアイテムボックスからドラゴンの首を出した。


ドサッ!!


「おお!」

冒険者達が驚きの声を上げる。


「すげぇ、ドラゴンの首をこんな間近に見たのは、初めてだよ。」


「流石に迫力あるなぁ!」


「こんな恐ろしいドラゴンを、一撃で倒す人に喧嘩を売ってケマヌの奴は大丈夫なのか?」


冒険者達は囁く。


「くっ・・・。」

ケマヌは半歩退き冷や汗を流す。


ドラゴンの首から鱗を一つ剥がして、ケマヌに放り投げた。


「ダメージも与えられず、逃げていた奴には、過剰過ぎる分け前だが、これで文句は無いか?」


「へ、へい!文句ありません。」

ケマヌは急いで鱗を拾うとポケットにしまった。


「ケマヌうううう・・・。」

ルイは怒りを抑えきれぬ様子だ。


「タクミ様、申し訳ない。私が素材を渡すと言ったんだ。鱗の代金は払います。」


ルイは俺に深く頭を下げて、金貨を差し出す。


「いや、良いよ。その代わりお前等の顔は覚えた。次の機会があるか分からんが、同じ事があれば殺されるのを待ってから倒すからね。」


俺はドラゴンの首をアイテムボックスにしまい、冒険者達を見回す。


「いやいや、文句があるのはケマヌだけだ。俺達はあんたに感謝してる。」


「そうだ。ケマヌ!タクミ様に鱗を返せ!」


「うるせい!貰った物は返さん。」


ケマヌは走り去る。


「待てえええ!」


数名の冒険者達がケマヌを追う。


「タクミ様、申し訳有りませんでした。この御礼とお詫びは町に戻ったら必ず・・・。」


ルイが俺に近付いて両手を握り締めようとしたが、ノワがルイと俺の間に割り込んで遮る。


「ダメぇー。」


「タクミ様、行きましょう。」

リンが空かさず俺の手を取り、馬車にいざなう。


「ルイ、じゃあな!」

俺はルイに手を振り馬車に乗り込む。


ルイは申し訳なさそうな顔で俺達を見送る。

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