第38話 クトマモ子爵

フカクオ公爵居城の執務室。


公爵が宰相に問い掛ける。

「いったいどうすれば良いのだ。」


「先ずは都市の治安維持と防衛の為、武器と兵士が必要でしょう。それに聖騎士リンに、奪われた財産を取り戻す為兵を集めましょう。」


「しかし、この都市には他に兵士はいないぞ・・・。」


「この都市にはおりませんが、」


「そうか、牧場の奴隷兵だな!」


「その通りでございます。後は寄子の貴族から騎士を派遣させましょう。」


「うむ。直ぐに手配するのだ。」


「はい。承知致しました。それから、寄子の領地より食糧も徴収致します。」


「うむ。」


「後は、本当はあまり遣りたくはないのですが、各領地に緊急で税を追徴致しましょう。」


「うむ。それで一安心だ。」


「当面の食糧は商人に借金してまかないます。」


「うむうむ。任せたぞ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


牧場の執務室。


執務用の机の前にソファーとテーブルの応接セットが置いてあり、俺と聖騎士リン、黒豹獣人のノワがソファーに座って、お茶を飲んでいる。


リンがカップを口から離し一言。

「はぁ、美味しい紅茶です。」


ノックの音。


「入って良いよ。」


入って来たのは、ノワの祖父で暗部の前隊長ケントジジイ


「失礼します。公爵の使いが来ておりますが、如何致しましょうか?」


「会おう。」


公爵は俺達が牧場に居ることを、知っているのかなぁ?


「応接室に通しています。」


「分かった。」


俺とリンとノワは、ジジイと一緒に応接室に行った。


「待たせたな!」

俺が応接室の扉を開けて、公爵の使いに声を掛けた。


ソファーにふんぞり返っていた公爵の使いは、俺を見て驚く。


「貴様は誰だ!男爵を連れて来い!」


「男爵は死んだよ。」


「何だと!何故、報告に来ない?」


「報告する必要が無いからね。」


「馬鹿者!公爵所有の牧場で管理者の男爵が死んだら、報告に来ないでどうする?貴様は誰なんだ!まず名前を名乗れ!無礼だぞ。」


「先ずはお前が名前を名乗れ、知らない奴に何も話す気は無いぞ。」


「なぁああああにぃいいいい!」

公爵の使いは身を起こすと、応接セットのテーブルを蹴飛ばした。


「この儂の顔を知らんのかあああ!

このクトマモ子爵の顔をおおおお!

貴様の名前等どうでも良いが、奴隷兵達を直ぐ連れて来い!

その後ろの女は此処に置いていけ!

さあ、サッサと行け!」


クトマモ子爵は俺が直ぐひれ伏し、詫びると思ってるみたいだ。


俺を睨み剣を抜いて扉の方を指す。


「はあ?俺はお前の部下じゃ無いぞ。牧場の兵士も連れて来る気は無いし、後ろの女性を置いていく気も無い。」


「貴様あああああああ!」

クトマモ子爵は抜いた剣で、斬り掛かって来た。


リンが前に出て、瞬時に腕輪から展開した盾で、剣を受け流す。


「無礼はお前だ。タクミ様に指1本触れさせん!」


「き、貴様!その腕輪から展開する盾は、もしかして?」


剣を受け流されて、体勢を崩した子爵はリンを見詰める。


「私は聖騎士リンだ!」


「リ、リリリリリ、リリリンンンンン・・・。」

どもる驚愕の子爵


「リリリンじゃ無い。リンだ。」

リンは盾を腕輪に収納し、両手を腰に当てて胸を張る。


「そして俺はタクミだ。」

俺は魔王の手甲を装備した右拳を、子爵顔に叩き込んだ。


「うがっ!いたたたたあああああ。」

子爵は剣を投げ捨て、顔を押さえてうずくまる。


「何をしに牧場に来た?公爵から何を言われた?」


子爵は俺をチラ見したので、魔王の手甲の右手で殴る真似をした。


「ひ、ひぃ。奴隷兵を徴収し、聖騎士リンから財産を取り戻せと・・・。」


「ふ~ん。ジジイ、此奴は始末しておけ。そして、斥候を出して牧場に近付く公爵の手下も始末しろ!」


兵の徴収に来たのか。公爵はまだ、俺達が牧場に居ることは知らない様だ。


「はい。畏まりました。」


ジジイは、子爵を引き摺り応接室を出て行く。


「ひぃ、た、助けて・・・。」

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