模擬戦の終わり

 間合いに入るまであと数メートル。今、私の頭の中にはこれから行うべき動きが明確に浮かんでいる。例えるのならそれは未来予知に近いのかもしれない。その動きは不可思議だったが虚空になぞるように示されたガイドは丁寧で分かりやすかった。木剣を振り始めるまで残りコンマ数秒、ハチドリを模した羽が織り成す急降下と不規則な旋回は予測不可能、そしてこれから放たれる剣技もまた不可思議極まりないものだ。いくら先代の勇者とはいえ避けられるものではないだろう。


「覚悟ぉぉぉ!!!!」


 ガイドになぞるように木剣を振り抜く、私の使い魔からのサポートもあるらしく正確なトレースがされていた。一振り目、剣先が彼の鼻先スレスレを通り過ぎる。二振り目、舞うように木剣を切り返し回避を誘発する。三振り目、四振り目、五振り目、徐々に行動の選択幅が狭まっていく。そしてトドメの一閃、膝と手を着き木剣も弾き飛ばし、為す術もなく目を見開く彼に剣先が近づく。


「甘いわァァァ!!!」


 怒号と共に放たれたのは渾身の頭突き。それは木剣に当たり、刀身を砕き割り……………って。


「ウソでしょォォォォォ!?」


 文字通り頭を使ったその行動に驚きが混じった悲鳴をあげてしまう。そしてその僅かな隙をつかれて―――――。


「せいッ」


「ギャフンッ!」


 綺麗な一本背負いを決められた。


「ま、参りました……………」






「凄かったなぁ……まさか勇者たちの模擬戦を見られると思ってなかったぜ」

「ホントに奇跡だよな………俺爺さんになったらこの話を孫に話してやるんだ……」

「まだ結婚すらしてねぇくせに何言ってやがる」


 模擬戦が終わると見ていた村人たちは三者三様の感想を述べながらどこかへ去っていった。その場に残されたのはナフトさんと私とウェイザーおばあちゃんだけだった。


「うーん………あとちょっとだったのになぁ」


 あの時放った私の剣技は間違いなく回避不能だった。しかし回避出来ないのならむしろ当たりに行くというのは流石にどうなのだろうか……? だってアレ真剣だったら確実に死ぬやつでしょ。実戦だったら私の勝ちでしょあれは。


「うむうむ……正直ここまでだとは思っとらんかったわ」


「ま、まぁ俺も一応勇者だったし? これぐらい出来ないとな」


「余裕そうな顔しとるがお前さん結構必死じゃなかったかの?」


「そんなことないっすよー……ははは………」


 …………アレ? そういえば………。


「なんでこんなところで模擬戦始めようと思ったんです?」


「そんなの簡単じゃよ……みんなを信用させる為に………じゃろ?」


「………? 信用させるって………誰をですか?」


「お前の話を聞いていたときのここの民たちは半信半疑じゃったからな……教えたかったんじゃろ? 俺の後輩はこんなにも強いんだぞって」


「別に〜? そんなつもりはないし〜? 村の人たちに俺の実力を見せつけたかっただけだしぃ〜?」


「そのちょっとだけ優しいところを稽古や模擬戦に使えたら心の底から尊敬するんですけどねー………あ、いやウソです冗談です。あれですよね愛の鞭? 可愛い子には旅をさせよ? 我が子を崖から突き落とす? とにかくそんな感じですよね知ってます」


 ……………まぁホントに尊敬してるんですけどね。最初に会った時から何やかんやで世話を焼いてくれる辺りとか。


「まぁいいや、それじゃウェイザー婆さん俺たちはこれで帰ることにしますわ」


「うむ、心配ないとは思うが気をつけて帰るんじゃぞ」


「はーい! また会いに来ますからねー! またー!」


 そうして私たちは町へ帰った。しかし森の険しい道のせいで、私たちが宿に着く頃には日が落ちかけていた。

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