31 せっかく試験中なのにペアの悪役令嬢が恐怖すぎる。【桜SIDE】
「はっ、ぁ、……っ!!」
首を絞める手に爪を立てるが、ビクともしない。苦しい、苦しい!! 脳が酸素を求め、暴れろと叫んでいる。嫌だ、死にたくない!! まだ、私は、私は──!!
「り、りすさ……ま……」
「っ!」
意識が朦朧としてきた。何度も何度もリリスの名前を呼ぶ。正気に戻ってくれることを願うしかなかった。
すると突然、首の圧迫が消える。その瞬間私は思いっきり酸素を吸った。咳き込みながらも、生を味わった。その後すぐにリリスを見ると、リリスの左腕をリリスの右腕が爪が食い込み血が出るほどに強く掴んでいた。左腕はビクンビクンと不気味な痙攣を繰り返している。──まるで、リリスの右腕と左腕が別々の意思を持っているように見えた。
「くっ、それほどまでにこのニンゲンをマモリたいノカ!!」
「!? リリス様?」
リリスは訳の分からないことを口にすると、今度は泣き出した。嗚咽を洩らしながら、腰を抜かした私を見下ろす。
「サクラ……」
「っ!」
「お願い……もう
私は思わずリリス様の言うとおりに何度も転げそうになりながらも逃げ出す。足が上手く動かない。本当は逃げたくない。あんな苦しそうなリリスを放っておきたくなかった。でも、今の私では何もできない。だから森の入り口にいるガーネット先生達にこの事を知らせようと思ったのだ。先生達なら、きっと……!
しかしそう上手くはいかない。私の一歩先の地に剣が突き刺さり、それを避けれずにそのまま転倒してしまった。足首に痛みが走る。視界がぐるんと一回転した。
痛い。でも、止まっちゃ駄目だ。リリスが苦しんでるんだ。早く、早く助けてあげないと──。
「つ~かマえたっ!」
「っ!! きゃあ!!!」
足をがっしり掴まれる。掴まれたソレを全力で振り回したが、リリスは今度ばかりは離してくれなかった。そのまま背中に重みを感じたので、リリスに馬乗りされたのだと察する。リリスは先程泣いていたのと打って変わって心の底から楽しそうに笑っていた。
……おそらく、こっちのリリスが偽物で、さっきの泣いていたリリスが私の知っているリリスだろう。
私は荒くなっていく呼吸をひとまず鎮める。リリスを救うには、今のリリスの状況を知る必要があると思ったのだ。
「……あ、アナタは誰? どうしてリリスの身体に乗り移っているの?」
冷静に、冷静に。そう何度も心の中で唱えて尋ねる。リリスは私の背中の上でぴょんぴょん跳ねた。
「オマエ、凄ク冷静。ツマラナーイ」
「ご期待に添えなかったのは謝るよ。……それで、あなたの名前は?」
「名前をイウカ! オレの名前はオレを呼んダ主しかシラナイ」
「! そう。そうなのね」
こいつが馬鹿でよかった。そのおかげで今、リリスが悪魔に取り憑かれていることが分かったのだ。
妖精との契約では妖精に名前を与えることでできるが、悪魔との契約は召喚者が悪魔から名前を教えてもらうことでできる。つまり今のリリスは悪魔を召喚して、どういうわけかその悪魔に取り憑かれている可能性が高いってわけ。
……でもリリスに悪魔召喚をする理由はもうないはずだ。なによりサラマがいる。サラマと契約しているというのにこの悪魔とリリスが契約出来るわけがない。それは契約の重複になるからだ。ならばサラマとの契約をリリスが切った? いや、そんなはずはない。なら、一体どうして……。
そこで私の思考が途切れる。耳に得体の知れない感触を感じたからだ。これは──。
「キャハっ。顕現してぇハジメテのぉ、ご・チ・そ・う!」
「っ、」
耳を舐められた。ぞわぞわと寒気が全身を駆け巡る。リリスの唾液がべっとりと私の耳に膜を張っているのを感じた。
「りりスはたべちゃダメって主に言われてるからぁ、がまんしたヨォ」
「っ、!? じゃあ、アナタの契約者はリリスじゃないの?」
「そうダね」
もはや隠しても意味がないと思ったのか単純に頭が悪いのか素直に頷く偽リリス。
契約者はリリスではない。つまりそれは第三者が悪魔を召喚して、リリスに取り憑かせたってことなのだろうか。
そう考える暇もなく身体が反転する。偽リリスにひっくり返されたのだ。そのまま両手を固定される。息が顔にかかるほど目の前にリリスの顔があった。ペロリと妖しく唇を舐める偽リリスに私は顔を逸らす。
「わ、私をどうするつもり?」
「オマエの、口からハイって、タマシイもらう」
「魂? ……ちょっと待ってそれって……」
「そう。オマエには死んでもらうのサ!」
リリスの顔が勢いよく私の唇を狙ってくる。しかし私は全力でそれを避けた。くそぅ! こんなところで私の魂とファーストキスを奪われてたまるかっ!! 空振ったリリスの唇が私の頬にぶつかる。そしてそのまま、ベロリと頬を舐められた。ひぃぃっ!
「にげちゃダメだよぉぉおお」
「っ!」
嘘でしょ!? こいつなんでこんな力が強いの!? 片手で両手を固定されつつ、もう片手で顎掴まれたんだけど!? 今度はもう避けようがない。嫌だ嫌だ嫌だ死にたくないっ! 私はそう叫ぶことしかできなかった。
『──あーんっ、駄目よ? その子はワタシが先に狙ってるんだからっ!』
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