22 せっかく久しぶりの兄妹会議なので状況を整理する。②
「あのさ、蓮に謝らないといけないことがあるんだ」
「うん?」
「レックス様ルートの山場である③(断罪イベント)の過程のことでちょっとやらかしちゃったの。リリスが悪魔召喚して、その断罪として皆の前で婚約破棄かつ退学ってやつ」
「??」
桜はポツリポツリと俺に申し訳なさそうに事情を話した。
なんでも、桜は先日リリスたんが悪魔召喚している場面に遭遇してしまったらしい。本来ならそのままリリスたんには悪魔召喚してもらい、断罪イベントへ進んでもらう必要があったのにも関わらず、桜はそれを止めてしまったのだと。
──ここで、何故桜が俺に謝りたいのかという話になるがその前にリリスルートの簡単な説明をしておいた方がいいだろう。
リリスルートは要約すると、
A、最初は「虫けら」と呼ばれ、攻略対象であるリリスからの小さな嫌がらせを受ける主人公。しかし対魔魔法学と薬草学の合同試験で主人公♂はリリスとペアになり、キメラに襲われたリリスを主人公♂が助けたりして、二人は互いに惹かれ始める。
B、主人公♂がリリスに花をあげたりなどの様々なイベントを得て、無自覚な主人公♂がリリスを翻弄。リリスも主人公の優しさに触れていくうちに主人公♂への恋心が大きくなっていく(しかし婚約者がいるので苦しみはじめるリリス)。
C、父親からのプレッシャーなど様々な理由からリリスが悪魔召喚。主人公♂がその場を治めるものの、リリスはレックスに婚約破棄され、退学。
D、後に自分の父親からも勘当されたリリスの元に主人公♂が迎えに来て一緒に森で暮らすことに。からのハッピーエンド。
という流れなのである。
つまり──
「リリスの悪魔召喚を止めたっていうことは、私が蓮のリリスルートを邪魔したことにもなるってことでしょ? でも、それでも私はリリスを放っておけなかったんだ。ゲームではなんとも思わなかったのにさ、悪役令嬢でも、皆苦しんで生きてるんだなって実感して……。ごめんね蓮」
「……、」
なんだそんなことか。俺はにっこり満面の笑みを浮かべる。そして、桜の髪をくしゃくしゃ撫でた。
「! 蓮、」
「なぁに言ってんだよ。そんなの当たり前だろ? 入学する時に言ったじゃん。ここは現実だって。シナリオ通りにそりゃいかねぇって。それよりも俺はリリスを助けてくれたお前を誇りに思う。よく止めてくれたな。俺はその場面に出くわさなかったんだから、きっとお前がリリスを止めるのが運命だったんだよ」
「!! お、怒ってない? 蓮の邪魔したかもしれないのに?」
「ん。全然怒ってねぇよ」
桜は安心したのか強張った頬がやっと柔らかくなる。俺に怒られるとでも思ったのだろう。桜が正しいと思ったことをしたのだから、怒るわけないというのに。
「それにレックスルートの事なら心配すんな。何のために今までこの俺がレックスの犬になってまであいつの傍にいたと思うんだ? シナリオ通りにいかなかった時のためにレックスと桜の仲を取り持ってやるために決まってんだろ。いざとなれば俺がレックスとお前をどうにか会わせてやるよ」
「! 実は私も、悪魔召喚を止めてからリリスが退学にならないようにリリスの契約妖精を見つけたりして、リリスと仲良くなったの。だから私も蓮にリリスのこと紹介できると思う!」
「お! それなら俺達は例えシナリオが崩壊したとしても自力でなんとかアプローチできるかもしれないってことだな。シナリオ通りではないハッピーエンドの道もあるかもしれないぞ!」
「そ、そうだよね! なんとかな……る……。……、」
「桜?」
桜は俯いた。多分、一つの可能性に気づいたからだろう。
それは──リリスとレックスが結ばれる可能性のこと。
断罪イベントの可能性がなくなったのなら、そのシナリオも十分にあり得る話だし、二人は幸せになれるかもしれない。故に、それもシナリオ通りではないハッピーエンド。
そうなったら、俺はともかく桜は──。
きっと、泣きながら笑って「推しが幸せなら私も幸せ」なんて言うんだろうな。
その時俺は、桜に何をしてあげるんだろう。何を言ってあげればいいのだろう。
ここはゲームじゃない。選択肢がないから、色んな将来の可能性がある。実際、こうして状況を整理してみると本来のシナリオから少し外れてしまっているのが分かったわけだ。もうシナリオを気にしても手遅れなのかもしれない。
──出来る事なら、桜とリリスと、あの俺様王子が幸せになる
……まぁ今はひとまずそのレックスと主人公♀かつリリスと主人公♂の共通イベントである対魔魔法学と薬草学の合同授業の試験でどうなるか、だな。
久しぶりの兄弟会議後、俺は少し元気のない桜と別れた。俺はもう授業がないので、男子寮の自室に戻る。しかしその道中、以前レックスに媚を売ってきたモーブとかいうやつがまた俺に話しかけてきたのだ。
「おい、下民。手紙だ」
「ん? またレックス様に手紙か?」
どうせ茶会への招待状だろ? そう思ったが、違った。宛先は何故か俺になっていたのだ。
送り先は書いていないが、この封筒には見覚えがあった。これは──。
モーブは「なんで俺が下民の手紙なんか……」とぶつぶつ言って去っていく。
俺はその後姿に一応お礼を言って、自室に戻った。
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