第20話 継嗣

「大の大人が大人数で、卑怯ではございませぬか」

「六郎殿……」

 厩から程近い弓場に、朝稽古へ来たのであろう。大振りな弓を持ち、仁王立ちしていたのは、楯六郎親忠であった。腰には、多数の矢が入った箙を付けている。

「何じゃ、根井の倅か」

「若造が、生意気言いおって」

「貴殿には関わりないことじゃ、引っ込んでおれ」

 親忠は、口々に発せられる侮蔑に屈する様子もなく、毅然と言い返す。

「斯様に寄って集って女子を責め立てるなど、卑怯と思うたから、そう申し上げたまで。滋野の武人として、恥ずかしいとは思われぬのか」

 しかしその言葉は、巴以外味方のいないこの場では、逆効果であった。

「ほう、我等を相手によい度胸じゃのう」

「昨日は、貴殿の父君の手前、引き下がったまでのこと。あの御仁には到底敵わぬ故な。冠者殿や棟梁殿もお出たことじゃしのう」

 一様に顔を歪ませた大人達が、力に物を言わせようと、巴と親忠との周囲を取り囲む。巴は、加勢すべきか、それとも隙をついて人を呼びに行くべきか迷った。しかし、自身を庇ってくれた親忠を残すことを躊躇い、加勢することに決めて身構えた。


 その時であった。遠くから馬を駆る音が聞こえ、徐々に近付く。

「何の騒ぎだ」

 若々しさと威儀とが入り交じった声に、皆の視線が馬上に向けられる。声の主は、棟梁海野幸親の嫡男、弥平四郎幸広。つまりは、山吹の長兄ということになる。

「は、某等は昨日の件で……」

「決して、その……」

 しどろもどろな答えに、幸広がやや眉をひそめる。そして、分家の大人達に囲まれた二人の若者に気付き、事情を察した。

「昨日の件とは、もしや、我が妹山吹に絡むことでございましょうか。なれば、我が海野の問題。皆様方のお手を煩わせることではございませぬ」

 そして、丁寧な口調で暗に口出し無用と告げた。

「も、申し訳ございません。私が至らぬばかりに……」

「巴殿、顔を上げられよ。其方が詫びることではない。六郎殿も、ご苦労であったな」

 若年とはいえ、棟梁家の跡取りを前にした大人達が、そそくさと逃げる様に立ち去る。幸広は馬から降り、平伏する巴を立たせると、彼女を庇った親忠をねぎらった。そこへ、弟と同じように弓を持った行忠が通りかかり、珍しい組み合わせに目を見開く。

「弥平殿、弟が何かご無礼でも」

「その逆じゃ逆。六郎殿がようやってくれたと、褒めておったところよ。それより、早う弓場へ行かぬと、日が高くなってしまうぞ」

 幸広は苦笑すると、根井兄弟に稽古を促した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます