第19話 糾弾

 翌日、巴は連れて来た春風の世話をしようと、厩へ向かった。裏手から微かに声が届き、思わず足を止める。

「まさか、中原殿にしてやられるとはのう」

「流石はご貴族様。なさることが違うわ」

「分を弁えたお方と、すっかり安堵しておったに」

 息を殺して様子を窺うと、昨日の宴で見た人物が数人、顔を寄せ合って話合っている。漏れ聞こえた内容から、あまり愉快な話ではないことを察した巴は、場を立ち去ろうと、踵を返す。その気配が春風に伝わったのか、厩の中から大きな嘶きが聞こえた。


 馬の嘶きに驚いた男達が、表に出てくる。巴の姿に目を見張りながらも、その場を取り繕おうと、矢継ぎ早に声を掛ける。

「これはこれは、巴殿ではござらぬか」

「ちょうどよいところに、いらせられた」

「如何にして冠者殿に取り入られたのか、後学のためにも是非、伺いたいものじゃ」

口調こそ丁寧だが、その言葉に秘められた悪意を感じ取った巴は、そ知らぬ顔で答える。

「何のことでございましょう」

「何を仰せられます、昨日の話は周知のこと。今更隠さなくとも……」

「そうですな。もはやこの地で、巴殿に逆らえる者はおりますまい」

しかし彼らは、その口元に下卑た笑いを浮かべ、なおも食い下がった。その言葉から、義仲とのことを、必要以上に勘繰っているのだと察せられる。

「そのような無礼が、許されるとお思いか。そういうことでしたら、私は失礼致します」

 巴がそう言い放つと、相手方は瞬く間に表情を豹変させた。

「忠臣の振りをして冠者殿に近付くとは、とんだ女狐じゃ。女子が武芸に励むを悪いとは言わぬが、それを利用して主君を惑わすとは、心得違いも甚だしい」

「乳母子だからと言うて、中原のご兄弟方は始終、冠者殿とご一緒じゃったによって、皆でそう仕向けたのではなかろうな」

「さもありなん、何せ元は都のお方じゃからのう。兼遠殿が、海野に入られた幸親殿の兄御だからと、こちらが遠慮致しておる隙にこのような……」

 自身を口汚く罵るだけでなく、父や兄達への言いがかりをつけられた巴は、それだけは見過ごせないと、反論の言葉を探す。

「私のことはともかく、父や兄には関わりの無きことにございます」

「では、ご自身にはお心当たりがお有りと」

「そ、そういうことでは……」

「では、昨日の件、なんと弁解なさるおつもりかな」

「それは、その……」

 決してやましい気持ちではないものの、巴自身のことになれば、義仲を慕う想いから、言葉に詰まってしまう。そこへ、昨日、久方振りに再会したばかりの顔馴染みが現れた。

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