第17話 暴露

「父上、お酒は足りておりますか」

 巴は、たっぷりと中身の入った瓶子を抱え、まずは、義仲を囲む輪から少し外れて座る父兼遠に、声を掛けた。

「ああ、」

 普段、こういった席にあっても度を弁えて酒量を控え、周囲に気を配る兼遠だが、今日はどこかうわの空で、ぼんやりと義仲達を眺めている。

「どうか、なさいましたか」

 日頃とは異なるその様子に、巴は何かあったのかと心配になる。

「あ、いや……おお、そうだ。儂は幸親と話があるからな、ここは頼んだぞ」

 しかし兼遠は、娘の詮索を避けるかのように慌てて席を譲り、幸親など海野家の面々が座る輪に向かった。その態度に、さらに心配そうな視線を送る巴だったが、ともかくも、その足取りが確かであり、父が酔ってはいないことを認めると、自らの役割を果たすべく、瓶子をしっかりと持ち直した。


「ちょうどよかった、巴。こっちに注いでくれ」

 巴が義仲の側へ寄ろうと動いた時、妹の姿を見つけた兼平が、空になった盃を掲げた。

「冠者殿が先です、お待ち下さい」

 唐糸のことで、少々機嫌を損ねていた巴は、兄に対して口調がきつくなる。そこへ当の彼女が、口を挟んだ。

「こちらは足りておりますわ、巴殿。どうぞ、今井殿に」

 義仲の隣を陣取る唐糸の言葉は、一見すると優雅でおっとりと、兼平を気遣うものであった。けれども巴には、義仲の近くに来るなと聞こえる。そう思うのはさすがに気にし過ぎかと思いながらも、巴は兼平に酒を注ぐとその場には留まらず、唐糸とは逆側になる、義仲と兼光の間に座った。そして、兼光の盃に酒を注ぎながら、隣の様子を窺う。


「山吹殿は、どのようなお方ですの」

 必要以上に顔を近づけた唐糸が、義仲の瞳を覗き込むようにして問う。屋敷の奥で育ったというわりに、随分と馴れ馴れしい。

「近頃は会っておらぬが……大人しかったと記憶している」

 義仲の視線は寄り添う美少女から外れ、助けを求めるように巴へ向けられる。見かねた兼平が、茶化すように割って入った。

「そりゃ、巴と比べれば、どんな女子だって大人しいですよ」

「今井の兄様。何か、」

 兄の言葉に巴が食って掛かると、義仲が巴を宥めた。

「巴、お前はそこがいいところなんだ。兼平の言うことなど、無視しておけ」

「冠者殿……」

 義仲の言葉に、巴は胸の内が温かくなる。そしてほんの一瞬、部外者が存在することを忘れた二人が、視線を合わせる。しかし唐糸は、それを見逃す程、甘くはなかった。

「お二人は、仲がよろしいんですね」

 やや棘を含んだ言葉が、巴に向かって飛ばされる。

「と、特にそういうわけでは……」

 巴は一瞬の隙を後悔しながら、否定の言葉を探す。

「隠さなくてもよろしいではありませんか。これでは山吹殿も、遠慮なさるというもの」

 唐糸の声が、一段と高くなる。

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