第11話 馬鹿も突き抜けると頭がよく思えてしまう

「せんせー、わからない」

「ふむ、わからない……か」

 私は世間一般的には頭がいい。

 それなりの進学校を出て、旧帝国大学理系学部に入り、こうして学費の助けとしてバイトをしている。

 しかしながら、そんな私でもこの目の前の生徒の馬鹿さ加減は何ともならない。

「いいな、もう一度言うぞ。」

 私は息を深く吸う。


「酸素原子一つに水素原子二つ、こうやって水ができる。理解できるか?」


「そもそも酸素と水素が個数で表されるのが理解できません!」

 まただ。私は七週間前からこの子に、不毛なことを教えている。

「だから、なぜ理解できないんだ」

 また、同じやり取り。

「はい、だって酸素と水素ってリットルで表す物体じゃないですか。それを個数で表すし、意味が分かりません」

「……はぁ」

 もう、七週間も繰り広げられる会話。

 単位にこだわり過ぎているのだろうか、しかも酸素一リットルに水素二リットルで水が酸素と水素の過不足なくできることは理解しているのだが、なぜ水が一リットルになるのかが理解できないそうなのだ。

「それじゃあ、もう一度説明するぞ」

 ここまで頑固に理解できないのは、ある意味一つの才能ではないか、そう思うのだった。



          了

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