ドラグーン国の崩壊

「まだ集まらんのか」


「我が王よ、もう少々お待ちください」


龍人王リューゲは机を何度か強めに叩きその苛立ちを表している。それだけでその室内の空気がピリついたものとなる。

場所はドラグーン国のお城、その一室の会議室。数十名もの龍人の貴族や王族達が集まっている。


なぜリューゲがイラついているのかは、今日が国にとって大事な会議であるにも関わらず、時間になっても現れない実の息子のトライドールと数名の貴族がいるからだ。当然会議は始まらず。無駄な時間が過ぎていく。


リューゲは苛立ちが収まらず、また机を叩こうとした、事が起こった。大きな音が響き城全体が揺れたのである。

不審に思った貴族達が辺りをキョロキョロしながら。ヒソヒソと話しだす。リューゲはそれを注意しようと席を立った瞬間、会議室の扉が勢いよく開かれた。

そこには焦燥しきった兵士が息を切らしながら立っていた。


「何事だ。今は会議前であるぞ」


「我が王よ報告します。トライドール様とここにいない数名の貴族が龍人達を率いて城に攻め込みました」


兵士の放った発言はピリついた室内を一気に凍らせるには充分すぎるインパクトのある言葉だった。

耳を済ませてみれば城内から、武器を交える音や、走り逃げ回ろうとする音、悲痛な声などが聞こえる。


「ここにいる皆様も早くお逃げ、コフッ」


必死に訴えようとした兵士は、言葉途中で背後から胸元に槍が突き抜ける。その一撃で兵士は倒れた。

そして、その兵士を倒した者を見て貴族達は驚いた表情をする。


槍を引き抜きリューゲの前に立ったのは、城を攻める作戦を立てた張本人トライドールだったからだ。

トライドールは腐った貴族達の顔を見てフンと鼻で笑った。その直後に槍を前に出し「やれ」と命令を出す。

すると、後ろに控えていたレジスタンスの兵士が一斉に会議室になだれ込み、貴族達を殺しつくした。


本来であれば龍人の貴族はそれなりに腕の立つ者が多い。だがその強者達の半分はレジスタンスに加入していて。もう半分は会議であるため武器を持ち合わせていなかった。


逃げ出した貴族もいたがあっという間に、会議室にいた龍人達はほぼ全て殺された。

残ったのはレジスタンスと、龍人王のリューゲのみ。リューゲが逃げられないように周りをレジスタンスが囲っている。そしてその中央にはもう1人、トライドールも入っていた。


「なぜだ!なぜこの様な事をした」


拳を握り締め、頭に欠陥を浮かべながら怒声を上げるリューゲ。対するトライドールは凄く冷静だった。


「なぜって。このままだとドラグーン国は滅びる運命しかないからですよ。だから貴方を含めた腐った貴族を殺したまでです」


「トライドール、キサマァ!」


実の息子に殴りかかろうとした時、カランとリューゲの目の前に何かが落ちる音がした。足を止め下を見ると。そこには1本の槍が落ちていた。


「龍槍ドラグナー。龍人王のみが持つ事の許された槍です。貴方なら知ってますよね。それをもって俺と一騎打ちをしてください。貴方が勝てばこの場に居るレジスタンスも見逃すでしょう」


「断れる状況でもないくせに、まるで提案したみたいに言いおって」


龍槍ドラグナーを拾い上げリューゲは構える。龍人の王族、しかも親子の命をかけた一騎打ちにレジスタンスの者達は秘かに盛り上がっている。


「行くぞ!トライドール!!」


「行くぞ!父さん!!」


真正面から二人が駆ける。お互い心臓の一突きしか見ていない。だからこれは単純な速さの勝負だった。

グサッ


「グハッ」


「ここまで育ててもらい。ありがとうございました父さん」


一騎打ちを制したのはトライドールだった。死んだ父の手から落ちる龍槍ドラグナーを拾い上げ、上に掲げる。それだけで周りのレジスタンスは歓声を上げた。


「聞け、戦士達よ。これより俺が王になる。新たな国へ凱旋だ」


「「「おおー!!」」」


こうしてレジスタンスの作戦は完全成功となり。ドラグーン国は世界地図から消える事になった。

そして、新たな王になったトライドールは新しい国を新生ドラグーンと名づける事にしたのだった。





「ヘヘ、やっと逃げられる。馬鹿な奴らは僕が逃げ出した事にすら気付いていない」


レジスタンスが会議室になだれ込み。貴族を皆殺しにしている中リディオはレジスタンスの目を掻い潜り城の地下道に逃げ込んでいた。


リディオはレジスタンスが皆殺しを始めた際。隠し持っていた剣で近くの貴族を殺し、レジスタンスだと誤魔化した。そして負傷した振りをし、静かに会議室を出た後に急いでこの場所にやって来た。


「とりあえず屋敷に帰り。金だけ持ってどこか別の国に逃亡するか」


「その必要はありませんよ、リディオ様」


今度の行動を考えながら歩んでいるリディオの背後から声が聞こえる。咄嗟に振り向けばそこには、セレスティーナが立っていた。


「セレスティアか..そうかお前もレジスタンスか」


「そうですよ。リディオ様。貴方を追ってきたという事がどういう事かお分かりですよね」


リディオは冷や汗を掻きながら。この状況をどう脱せられるか考えている。セレスティアがここに居るのは間違いなく自分を殺すためだとわかっていたからだ。


「遺言ぐらい聞きますよ」


「ま、待ってくれ。そうだ金をやる。お前には有り余るほどの金だ。一生遊んで暮らせるぞ」


この発言がいかにリディオがクズで腐っているかを表していた。人を金で買えると思っている事と、この場に来てまだ偉そうな態度を取るリディオにセレスティアはもはやため息すら出なかった。


「まて、早まるな。槍を持って近づくな!やめろー!!」


だが、そんな声はセレスティアには届かなかった。一歩間違えればセレスティアの部下はこの男のせいで死ぬかもしれなかったから。その事を思うと止める理由が見付からなかった。

尻餅をつき、顔は涙でグシャグシャとなり、みっともなく後ずさるリディオの首を横薙ぎ一閃で落とすのだった。


返り血を落とし、槍に付いた血は振るい落とす。そのまま振り返る事は無くセレスティアもトライドール達と合流するのだった。

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