狙われた隙

トライドールは龍人の王族として生まれた。初めは自分達龍人種こそが最強で、他の種族は下等種族と思い過ごしていた。

だが王族としての見解を深めるため、他の国へ行き身分を隠しながら視察して今まで知らない事を知った。


戦闘力。生まれ持った力や戦闘センスを含めた総称として使われることがある。種族によって生まれた時から差があるのは事実。その中でも龍人はトップを争う種族と考えられている。


確かに龍人種は他の種族に比べて戦闘力は高い。だがそれだけだ。他の国のような、暮らす民、統治する貴族や王族が手を取り合い全員で国を良くしていこうとはしない。権力に溺れた上の者が力でのみ、下の者を従えている。

表面上では皆が笑顔に暮らしているように見えるが、内部をしっかり見ればそれが違う事は明白だった。


トライドールは国を良くしようと動いた。貴族たちと話し、自分の父であり龍人王であるリューゲにも臆さずに意見した、中にはトライドールと志同じ者だっていた。だが殆どの者は、馬鹿げた話しだとトライドールを嘲笑った。自分の一番の理解者であると思っていた父リューゲも「何を馬鹿な事を言っている。我ら龍人こそが最強で、王族や貴族が支配するのが当たり前ではないか」と、なにも間違いだと思ってすらいなかった。


トライドールは覚悟を決めた。まだ成人すらしてなかったトライドールは男手1つで育てた父を殺し、腐った貴族達を殺し新たな国を作る事を。こうしてレジスタンスは作られた。

そしてこの日、数十年も機会を待ちようやく作戦は実行される。


(今日でドラグーン国を終わらせる。俺達のこの手で!)


時間はすでに正午、城の中には国の全ての貴族達が集まっている。それを取り囲うように城の周りには数百人のレジスタンスが待機している。全員が覚悟を決めた目をしていた。

トライドールが片手を大きく空に上げ城に振りかざす。すると一斉に魔法が城目掛けて放たれた。こうして歴史的革命は始まった。





遡る事数時間前、まだ日が出始めた時間帯。夏だという事を忘れさせるような冷たい風がシオン達の肌を撫でた。


「レオ、昨日は悪かったな遅くに呼び出して」


「ふぁ~、大丈夫ですよ主、呼ばれる事は本望ですから」


レオは伸びをしながら答える、意識はあるようだがまだ眠たそうだ。

この場にルリはいない。俺達より早く起きて見回りに行ったらしい。そのような置手紙が俺達の寝床にあった。


何故この場にレオがいるのか。それは昨日、龍人達の大移動の際に人手が欲しくて呼んだのだ。正直妹達を呼んでもよかったのだが、全員となると流石にうるさくなると思ったので、落ち着きがあり何が起きても対応できるレオを呼ぶ事にした。

帰ったら妹達が絶対に文句を言ってくる事を考えると、気分は下がるが。


「シオン達、起きたのね。さっそくで悪いけど、来たみたいよ」


「分かった、案内してくれ」


見回りから帰ってきたルリが報告してくれる。それだけで俺もレオも完全に意識が覚醒した。俺達は準備をしてやって来た者達の場所まで急いだ。


レジスタンスの話を聞いてから2日間、俺とルリは遊びまわっていた訳ではない。色んな情報収集に全ての時間を費やしていた。

その中で1つ気になる事があった。ドラグーン国の付近には1つだけ国がある。その名は、武装国家大帝国。通称帝国だ。


帝国は俺達と同じ人間が支配する国で、シュテルクストの中ではサウスの次に力がある人間の国として知られている。

その帝国が数週間前からどこかに戦いに行くような、不穏な動きをしてる情報を秘かに掴んでいた。

まさかと思って、俺達は警戒していた。だがそのまさかだった。龍人の大移動は一部の者しか知らないから帝国は知らなかった。だが今日の会議の事は帝国は知っていた。そしてそこを狙って帝国は進軍してきた。


俺とルリはトライドールの作戦には加わらない。内部の事に他の国、他の種族の者が手を貸すわけにはいかなかった。さらに言えばルリは魔族の王族。何かの因縁は残せないのだ。

だが外部からの事は別だろう。俺もルリも帝国の軍と戦う事は覚悟を決めていた。


ルリに案内されて来たのは、いかにも戦い向きで辺りに何も無い平原だった。俺達の存在に気がついた帝国軍は進行の足を止めている。


「お前は、あの時の!」


帝国軍の先頭に立っている、リーダーらしき男がレオを指差し叫んだ。レオは一瞬首をかしげ思い出したように手を叩いた。


「どうやら思い出したようだな。あの時の借りを返すぜ」


「まぁ、待ってくださいよ。お互いに自己紹介しましょう」


怪訝な表情をした男だったが、何かに気付いたようで1度剣をしまう。


「俺は帝国軍、この部隊を率いる1人、フェーデンだ」


「我はレオです。今回は確実に殺しますよ」


俺とルリは置いてけぼりにされていた。何故かこの2人だけで会話が進んでいる。俺は耳打ちでレオにこの男との関係を聞いてみる。


「あの男とはローガリアの城で、会ったのです。戦いになったので腹をぶち抜いたのですが何故か生きている不思議な男です」


「そうか、じゃああの男は任せていいな」


「はい、あの男は我が倒します」


レオから話を聞き前を向きなおすと、すでに帝国軍とフェーデンは武器を構えていた。こちらを戦闘態勢に入る。だが俺は遠くの方で何かの気配を感じた。まるで俺を呼ぶような気がする。


「レオ、ルリ。この場は任せても良いか?」


「いいですよ主」


「何かあるのねシオン」


俺はこくりと頷く。すると2人この場は大丈夫と言ってくれた。それを聞いた俺はこの場を後にした。

あの平原からかなり離れた所。俺がセレスさん達と初めて出会った場所に俺を呼んだ奴がいた。


「ジェシカ!」


「来てくれたんだね。待ってたわ」


不敵に笑ったジェシカはスカートの裾を持ち上げ、俺にお辞儀した。まるで戦う気の無い服装に俺は目を疑った。


「あら、私の服が気になるの?」


「戦う気が無いのか?」


「それはどうかしら、〈炎の弓ファイヤーアロー〉」


問答無用といったように俺に魔法を放ってくるジェシカ。だが今更、中級で俺が傷つく事は無かった。立ち込める砂埃で一瞬視界は遮られるが、鬼神刀ですぐに払う。


「始めましょうか、殺し合いを」


「ただでは、殺さん」


こうして、俺達は各自の戦いの火蓋が切られる事になった。

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