レジスタンス

「本当にすまなかった」


城を出て城下町を歩いていると、城から追ってきたセレスさんが俺達に頭を下げる。

それが以外にも目立ち、何事かと思った人達が視線を向けた。


「セレスさん、いったん場所を変えましょうか」


「あ、あぁそうだな」


素早く人混みを抜け、近場のお店に入る。静かで落ち着いたカフェみたいな場所で、中にはあまり客は居なかった。


「シオン君、ルリさん。本当にすまなかった。まさかあんな事になるとは」


自分の事ではないのに、凄く悔しそうにセレスさんが言ってくれる。だが別に俺は気にしていない。ルリの方を見るが大して気にしていない様子だった。


「別に大丈夫ですよ。ああなるかも知れないのは予想していたので」


「それに、私はやり返しましたしね」


ペロッと舌を出し、やっちゃったみたいな顔をするルリに、セレスさんは思わず微笑んでしまう。俺も表面上では笑っているが、あの行為は決して笑えるものではなかった。


確かに俺も、すっきりした。かなり馬鹿にされて腹を立てていたのは事実でやり返そうかとも思った。だがルリのした行為は下手をすれば魔族と龍人の戦争の火種になるかもしれない行為。それに侮辱罪とか適当に理由つけて、ルリを捕まえる事だって出来たかもしれない。


(まぁ、証拠も無ければ、あの場に居た者でルリを捕らえる事は出来ないと思うが...いや、1人目に留まる龍人はいたな。)


「なぁ、セレスさん。あの龍人王の横にいた、強そうな龍人は誰です?」


「ん?トライドール様の事かな?体の大きい、仁王立ちしてた人だろう」


「そうです!」


俺の思った人物はトライドールと言うらしい。彼の気配は他の龍人より強力でセレスさんより少し強そうに思えた。


「その人はどういった人なのですか?」


「トライドール様は、現龍人王であるリューゲ様のご子息で、時期龍人王とも言われているお方だ。知略、武力共に優れていて、あの方が政治に関わり始めてから、国での問題点がいくつも解決している。それと、この国で最強と言われている私より、明らかに強いだろう。過去に手合わせをした事があったが、手も足もでなかった」


「それは、言いすぎだぜ」


セレスさんが話し終わると、ほぼ同じタイミングで店の扉の方から声が聞こえる。思わず振り向くとここまで話題に上がっていた。トライドールが立っていた。


いきなりの王子登場に店の人はてんわやんわになっている。セレスさんも座っていた状態からおもむろに立ちあがり方膝を着いて頭をさえた。

その全てを無視するようにトライドールは「場所を変えて話がしたい」と言って、外に待機していた馬車に俺達が乗る様に指示してきた。


馬車に乗って数十分。俺とルリとセレスさん、そしてトライドールの4人は一言も会話を交えなかった。正確には会話できるような空気ではなかった。これから重要な事を話すかのような重苦しい空気を感じていた。


揺れていた馬車が止まり、降りるように言われる。目の前は立派なお屋敷だった。


「ここは俺の屋敷だ。とりあえず中に入ってくれ」


玄関を潜ると、複数の龍人メイドさんが出迎えてくれる。黒を基調としたウエイトレス姿、下はふりふりのロングスカートだった。全く別方向に気を取られてる俺にルリが頭をはたく。そこで俺は改めて気を引き締めなおした。


「セレスティア、悪いが大事な話しなんだ。別室で休んでもらえるか?」


「分かりました、私はこれで失礼します」


俺達が案内されるであろう、部屋の前でセレスさんだけいなくなる。どうやらこの王子様は3人だけの空間を作りたいらしい。その意図は見えていたがあえて俺もルリも突っ込むような事はしなかった。


部屋の中はシンプルで、机が1つ、それを挟むようにソファが2つ置いてあるだけだった。唯一気になるのは、やけに部屋が大きい事だ。

とりあえず、俺達は向かい合うようにして座りあった。


「単刀直入に聞くが、今回のドラゴンを討伐したのはルリさん、貴女だろ?」


お互い、自己紹介をする事もなく、いきなり本題に入り始める。それに対してルリは、一切に動揺せず嘘をついて見せた。


「隣の男の子は、貴女の付き添いの人間といったところか」


「...」


もしかしたら、トライドールは質問したのかもしれない。だが俺もルリもそれに応える事はない。だが沈黙は肯定と受け取ったのか、一人ウンウンと頷いていた。


「まずは、謝罪させてもらいたい。俺の父が無礼な事を言った。すまない。そして聞きたいのだが、あの王を見て貴女はどう思った?率直に感想が欲しい」


「えぇ、腐ってると思ったわ」


「やはりそうか」


ルリの回答は想定内だったのか、自分の父を侮辱されても一切怒る様子は無かった。


「貴女にお願いがある、俺はこの腐った国を変えたいんだ。協力してくれないか?」


「それは、国家転覆とも思える発言だけど?」


「あぁ、その認識で間違いない」


流石にこの発言には、俺もルリも驚いた。まさか他種族で1人は魔王の娘である事がわかっている相手に、言い切りやがった。

仮にだが、この発言が龍人王に聞かれていたら即死刑だろう。他の国の法律など知らないが、どの国にも国家転覆罪があるのだけは知っている。


「俺が国に関わってきた数年、秘かに腐ってない奴を見つけては勧誘してきた。それも終わり、後は今の国を滅ぼす事だけが残っている。当然さっきまで一緒だった。セレスティアもその1人。俺達はドラグーン国のレジスタンスなんだ」


トライドールの力説が終わり、少しの間沈黙が場を支配する。ルリは考えがまとまったのか、ソファから立ち上がった。


「この話は、聞かなかった事にする。だからこの件で私達とは関わらないで」


「つまり、協力はしないと?」


「そう言っているのよ」


ルリは出口まで歩き出す。ルリがそう決定したなら俺も否定するつもりはない。ちょっと可哀想には思えるが、ルリに続いて俺も出口まで向かおうとした。


トライドールの横を通り過ぎた時、事は起こる。俺の背後をとり、どこかに隠し持っていたらしい短剣を俺の首元に当てる。どうやら、なりふり構ってられないらしい。


「何のつもり?」


「ルリさん、悪いけど秘密を聞かれたから、協力関係になれない限り無事には帰せない。ここまでの計画が台無しになったら困るからな」


(こいつ、自分で話してくせに、都合のいい事を言ってるな)

身勝手にも程があるだろと思ってしまった。


「この子に罪はないが、もし貴女が協力しないと、いい続けるであればこの子に命はない」


「だって、シオン。殺されちゃうかもよ」


ルリの表情は笑ってもなければ、怒ってもいない。だがこの状態のルリが1番怖い。なぜなら表情では分からないが、ガチギレ状態だからだ。普段表情が豊かだから本当に怖い。


俺はトライドールが動くより早く動いた。全力で顎にアッパーを決める。綺麗に決まったアッパーに成すすべなく意識を奪われるトライドール。最近気付いたのだが、俺は魔物意外と戦うとき、拳で戦ったほうが効率が良い。


「シオン、帰りましょ」


「悪いルリ、俺まだこいつと話がしたい」


俺がそういうと、ルリは静かにソファまで戻ってくる。俺はとりあえず意識の無いトライドールを反対側のソファまで運び。俺達はトライドールの意識が戻るのを待つ事にした。

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