森を抜けた先に

(だから無茶だと言ったんだ)

1人の女性は心の中で悪態をついた。目の前には今にも崩壊しそうな部隊と。見た事も聞いた事の無いドラゴン。後ろには自分達と駒だと言って、馬車に籠もった貴族様。彼女は絶望を感じていた。


「隊長。もう持ちません」


「そうか...」


部隊を率いている彼女は俯いていた顔を上げ、右手で相棒の槍を持ち覚悟を決めた。


「全員よく聞け、攻撃が止み次第。私が出る。その隙に撤退しろ!」


「ですが隊長!貴女はすでに腕を!」


「フッ、気にする事ではない。私はドラグーン国、最強の戦士セレスティア・リューネだ。」


セレスティアと名乗った彼女は、自分を慕ってくれている部下に絶望を悟らせないように、気高く見せた。

その意志を汲み取り、部下達は〈結界〉を張ってる者以外撤退の準備をし始めた。


そして時は来た。目の前のドラゴンはブレスをやめ、隙が生じた。(ママ、パパごめんなさい私は多分ここで朽ちるでしょう)心の中で両親に謝り自分を奮起させる。


「ウォォォォ!」


彼女は地を蹴り、空を飛んでいるドラゴンに向かって突撃をした。だがその槍はドラゴンに届く事はなかった。


「え?」


ドラゴンに向かっていったはずの彼女は、空中でお姫様抱っこをされ逆にドラゴンから遠ざかっているのだ。自分がどうしてこの様な体制なのかは置いておいて、自分を抱きかかえている者の顔を見る。それは少年だった。顔だけ見るならまだ成人もしてない少年に見える。その少年はニッコリ笑って





と、優しく言ってくれたのだ。自分より明らかに年下で、決して強そうでも無い少年の言葉にセレスティーナは安心を感じたのだった。




俺とルリは古代森林から移動装置テレポーターで知らない森にやって来た。森を外ではなにやら戦闘が行われている事に気が付き、急いで助けに向かった。


「ルリ、着いたら結界を頼む」


「任せて!」


「先に行くぞ!〈身体強化〉」


一足先に森を向けた俺は、酷い惨状を目にした。傷を負い倒れている人達、今にも壊れそうな〈結界〉で仲間を守る人達。【混沌の龍カオスドラゴン⠀】に似てはいるが、別の気配を感じるドラゴン。

だが何よりも、俺の目には結界の中にいる、片腕の無い女性が1番存在感を放っているように見えた。


あの女性は覚悟を決めている。何をしでかすか分からないが、確かな覚悟を決めているように見えてしょうがなかった。だがその表情には苦しさも混じっているように見える。距離的に他の人達の顔は見えないが、その女性の顔だけ何故かはっきり見えた。


ドラゴンはブレスをやめ一瞬の隙が出来る。その時に女性は雄叫びを上げ、ドラゴンに突撃したのだった。だがそれは無意味な行為。例えあの女性がどれだけ力を振り絞ってもドラゴンに傷はつかない。それどころか殺されて終わるだけ、それがシオンには分かった。

だからそんな事は、させない。さらに〈身体強化〉を使い、彼女を止めようとした。


シオンは間に合った。ドラゴンに届く前に彼女を抱きかかえる事に成功した。そして彼女を安心させるように一言


「もう大丈夫ですよ、だからそんな苦しそうな顔はしないでください」


それだけ聞くと、腕の中の女性は安心したような表情を見せる。

すでにルリは兵士と思われる人達の場所に着いており、〈結界〉を張っている。俺もその中に女性を抱えたまま入ることができた。


「シオン、あのドラゴン何かおかしいよ」


「分かっている〔完全鑑定〕」


鑑定結果


魔物名 【終わりの龍エンド・ドラゴン

種族 ドラゴン

討伐ランク SSS

魔物の説明 【混沌の龍カオスドラゴン】の進化種。その鱗の硬さはドラゴンの中なら一番であり、弱点である光属性も、ある程度克服されている。知能が高く1度見た攻撃は中々当てる事のできない。


目の前にいる【終わりの龍エンド・ドラゴン】はブレスをやめ、空を旋回している。まるで俺達の隙を伺うように。ブレスが通じない事を察した瞬間に、無駄な攻撃をやめ体力を温存しているのだろう。

説明通り、奴は確かに賢い。


「シオン、どうするの?」


「鬼神刀を使う」


「無茶だ!」


俺とルリの会話に先ほど助けた女性が割り込んでくる。片腕の無い彼女は槍を持ち、俺の前に立ち塞がった。


「君は、強いのだろう。それは分かる。だがこれは私達の問題だ。それに君達のような子供にあの化け物は対処できない!」


この女性はきっと俺達では勝てないと思っているのだろう。あのドラゴンから守っている〈結界〉を誰が張っているのか、それすら忘れている程に。


俺はルリに視線を送り、ルリは俺の意図を察した。すぐに〈行動制限バインド〉を女性に掛け、動きを封じた。


「まぁ、見ていてください。一撃で仕留めるんで」


俺は〈ディメンションバック〉から鬼神刀を取り出し、結界の外に出る。そんな俺を見て、【終わりの龍エンド・ドラゴン】はすぐにこちらに向かって来て、爪で切り裂くように俺を攻撃した。俺の何倍も大きい【終わりの龍エンド・ドラゴン】はその見た目に反して、俊敏でかなりの速さで攻撃してくる。だが俺には通じない。

その爪を避け、〈瞬間移動クイックテレポート〉で【終わりの龍エンド・ドラゴン】の首付近まで跳んだ。


「〔雷神一閃〕」


〈身体強化〉した俺から放たれる剣士のスキルは【終わりの龍エンド・ドラゴン】の首を落とした。頭が無くなったドラゴンの胴体は当然地面に落ちる。宣言通り一撃で【終わりの龍エンド・ドラゴン】を倒す事に成功した。


「流石シオンね」


「まぁ、ナフティカに比べれば可愛いものだよ」


俺はルリとハイタッチして、鬼神刀をしまう。俺を止めようとした女性は唖然としてるのだった。

そんな中、勝利に浸る暇も無く、俺達の元に来る足音が聞こえる。それは尻尾の生えた、腹の出ている男性で、この時俺は始めて此処にいる人達が龍人だと言う事に気が付いた。


「さっきの衝撃の音はなんだね!落ちるような音がしたが」


「あ、えっと」


「何をボーっとしているんだねセレスティア!それとこの人間と魔族はなんなのだね?!」


セレスティアと呼ばれた女性は、いきなり現れたこの男に質問攻めにあい困惑している。


「ちょっとすいません。とりあえず怪我の治療を」


「なんだね君は、人間如きが僕に話しかけるな!僕はドラグーン国の貴族だぞ!」


「あの、今腕の治療をしますね」


「人間如きが、僕を無視するなんていい度胸だな!」


(この太った龍人、話しかけるなとか、無視するなとか、若干めんどくさいな)

内心でそんな事を思いながら、シオンはセレスティアさんの前に立つ。


「〈不死鳥の炎〉」


〈不死鳥の炎〉はシオンが〈魔法創作〉マジッククリエイトで生み出した魔法。傷を治し失った体の一部を再生させる事ができる。

この魔法はローガリアの時に死の直前まで行ったレオを助けられなかった事を後悔して作られた魔法。元々回復魔法を使うことがなかったシオンだが、大切な人を失わないために魔法を生み出したのだ。


この魔法で、倒れた人達も治していく。知らない人が見たら炎が体を焼いている様に見えるが実際は治しているのだ。


「私の腕が...君がやってくれたのか?」


「他の人も、治しておきました。1度死んだ人については、本来の寿命の半分を代償に蘇らせてます」


「ハハ、もう何でもありだな」


乾いた笑いを浮かべたセレスティアさん、遠い目をしていた。しばらくして全員が起き上がり。この状況を説明すると、皆俺に感謝を伝えた。ただ1人を除いては


「認めんぞ!お前の力は、僕みたいな龍人の貴族が持つべき力なんだ!!」


そんな言葉を無視して、龍人達は帰還の準備をしている。俺とルリもその手伝いをして、このままドラグーン国に旅をする事にした。

こうして俺達は龍人達と、奇妙で不思議な出会いをするのだった。

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