現れた別の神
夏休みに入り俺はよく1人で王都をぶらついている。この行動に理由はなく、その日の気分で行きたい場所に行きのんびり過ごす、これが日課になりつつあった。
だが毎回1人って訳でもない、前の世界に居たときみたいに今はボッチではないのだ。時には彼女がいて、時には妹達がいて、時には友達がいて様々な人に囲まれている。
それでもこの日は、1人でぶらつく予定だった。ある光景を目にするまでは。
王都の中に俺がよく行く串焼きの出店がある。急に食べたくなり、その付近まで行った時に、その出店を物陰からジーっと見ている幼女がいた。
その顔には見覚えがある、だがいったん無視をして串焼きを購入しに行った。
「おじちゃん、久しぶり串焼き2本ちょうだい」
「おぉ~!シオンか久しぶりだな。ちょっと待ってな」
「ありがと。それと、これ今月のお金」
「あのなシオン。毎月金貨1枚持ってこなくていいって、前から言っているだろ。だけどどうせ押し付けるんだからあり難く貰ってくよ」
おじちゃんはそう言いながら、串を温めつつ、金貨をポケットに入れた。
毎回いらないと言っているが、俺が払いと思ってるのでいつも押し付けている。このお店にはそれだけの価値があるのだ。
熱々の串を2本持ちさっきから物陰で見ている幼女に近づいて行く。目の前に着いた時、俺の持っている串を1本そいつに渡した。
「はぁ~とりあえず食えよ、神様が不審者扱いされたら流石にまずいだろ」
「良いのですかシオン様!?」
「いいよ、それと様はやめろ。せめてシオン君にしとけ」
そう、物陰から出店を見ていたのは、幼女の姿をした神、ユウリだった。
2人で近くの広場に行き、そのベンチに座る。横に座ったユウリはおいしそうに串焼きを食べていた。
珍しい事に辺りに人がいない。普段であれば学生がいたり、親子がいたりするのだが。そう思っていた時だった、離れた所から誰かの走る足音が聞こえる。普段の訓練の賜物か、普通気にしないような音でも、判断がつくようになっていた。
呑気に考えていたら、その足音はこちらに近づいておりついには、自分の目で誰の走る音かを確認できた。それは横にいる幼女とは正反対といえる褐色のお姉さんで、そのお姉さんと一瞬だけ目が合った。
次の瞬間には、まだ遠かったはずのお姉さんが俺の目の前に現れ殺意むき出しで俺に殴りかかってきた。
ベンチに座っている俺は、構える事も出来ず体制が悪い状況だったがギリギリ受け止める事が出来た。
(このパンチかなり重い)
受けた後、そんな事を思う。この時点で俺の警戒心は最大まで上がっており〈身体強化〉を使ってお姉さんから距離を取った。
かなりの
俺とお姉さんの一触即発の中、串焼きを食べ終わったユウリが立ち上がり俺とお姉さん間に割り込んできた。
「ちょ、ユウリ様危ないですよ。あの男はユウリ様みたいな小さい見た目の女の子を襲うような、ロリコンに違いない!」
「おい、だれがロリコンだ!」
「違うのか?小さい女の子を食べ物で釣った変態にしか見えんぞ」
全く持って違う俺はロリコンではない。だが他者から見ればそう見えるのは間違いないのでうまく反論できなかった。そんなお姉さんを、ユウリはため息をつきなが見つめその体が一瞬でぶれる。
気が付けばユウリは、お姉さんの喉もとに持っていた串を突きつけていた。お姉さんはその動きが見えていなかったのか、一歩も動くことができなかった。
「ユウリ様なにを!まさか洗脳魔法か!?」
「ナズリ、あなた馬鹿なの?2つ名は無くても私だって神だし、あなたより強い。その私が洗脳魔法なんかにかかわる訳無いでしょ」
「そ、そうですよね。でわ何故あんな男と一緒にいたんですか?」
「はぁ~、何も気が付かないのね。あの御方、シオン様は最高神ドゥエサス様と関係のある方よ」
「おい、様はやめろって言っているだろ」
ユウリの関係者、それも神である事を知った俺は武器をしまい。ベンチに座りなおす。そんな俺とユウリを二度三度見て、ナズリと呼ばれたお姉さんはだんだん焦った表情に変わっていった。
それほどまでにドゥエサスの存在は偉大なのだろう。他の神が恐れ敬うほど。
焦った表所のナズリは、座った俺の前に来たと思ったら美しい土下座をしてみせた。先ほどまで俺を見下ろしていた彼女は今度は見下ろされる側に回ったのだ。
と言うか、神に威厳とかないのか?
「も、申し訳ございませんでした!」
それからしばらくして、ナズリは冷静さを取り戻した。初めこそ畏まった口調だったが、説得(威圧)をしたらすぐに頷いてくれた。むしろユウリの方が今も様をつけて呼ぶのでどうにかして欲しい。
話を聞いてわかったことがある。
ナズリはユウリと同じくまだ2つ名を持っていない神で、見た目で判断するならユウリが妹でナズリが姉なのだが、実際はユウナの方が上の立場にいるらしい。年齢もユウナの方が上だとか。
この2人が別々で行動してたのも、急にユウナがいなくなっからだとか。しかもお金などはナズリに渡していたから、串焼きも買えず不審者みたいな事をユウナがしていたとか。
「ナズリも大変なんだな」
「あぁ、まぁたしかに」
正直可哀想でしょうがない。かなりの原因がユウリにあるのだから。違った出会いをすれば土下座なんてする必要の無かったかもしれないのに。
広場のベンチで俺は神2人と色々な話をしている。先ほどまでが嘘だと思うくらいには人の気配もするようになった。そんな時だった
「あれ...シオン君?」
「シオン君...ルリさんと言う人がいながら浮気っすか?」
最悪な状況で、将太とリティスさんに見付かってしまう、しかも2人ともごみを見るようなめで俺を見ているのだった。
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