番外編、日常

シャロ戦い方

話しは少し前に遡る。

名誉ある戦いドュエルグランツ新人戦。予選を勝ち上がったキャロは1人。とある悩みを抱えていた。


「今のままじゃ、どう頑張ってもルーちゃんと、シャロちゃんに勝てないわ」


日常では、悩みなんて感じさせないように振舞っているが、キャロ自身は相当追い込まれていた。

キャロにとって対人戦とは、基本的には楽しむもの、と言う考え方をしてはいるのだが。負けたくないという意志もしっかり持ち合わせている。


ルリ、出合った頃は互いの実力も拮抗していて。どちらかが一方的に勝ち続ける事は殆どなく、模擬戦では互いに高め合う、いい好敵手ライバルだった。

だが夏の合宿以降、2人には明確な差が現れてしまった。それはステータスの差。死闘ナフティカ戦を経てルリは〔魔王:覚醒状態〕のスキルを獲得し、ステータスだけを見るなら半神になる前のシオンと変わらない。


シャロ、双子の妹でキャロと真逆の戦闘スタイル。魔法使いとしての実力は当然だが、実は接近戦もできたりする。もちろんキャロとシャロが真正面から戦えば、接近戦重視のキャロが勝つのは当たり前だが、そもそもシャロは接近戦に持ち込むときは〈隠密行動〉インビジブルを使い気配を消して、死角から不意打ちを仕掛けてくる。一度でも気配を見失うと、キャロには見つけるのが困難だった。


キャロの中で、シャロとの戦いのビジョンは見えている。当然それが通じるかは別として、ある程度の運びは決まってた。

だがルリだけは、何も考えることができなかった。今の時点ではトーナメントも決まってなのでどこで当たるかは、わかっていないが。戦えばお互い槍を使った。本気の戦闘になるのは、間違いなかった。槍での戦闘だけならキャロも引けをとらないが、ルリは魔法も一人前。身体強化系以外の魔法を使われたら、キャロに勝ち目はないと考えていた。


そこで、キャロはある事を考える。


「私も魔法が使えたら...」


そう思ったら、直ぐに行動する。そこがキャロの良い所でもある。だが魔法の問題はキャロ1人では解決できず、母ミリアに頼る事にした。


「珍しいね、キャロちゃんが私と2人で森に来たいなんて」


「どうしても、ママにお願いがあって」


「そうなの?何でも言って、キャロちゃんの力になれるなら、手伝うから」


「ありがとうママ。私ね魔法を使える様になりたいの、普通の魔法じゃなくて強力な魔法よ。だから魔物との実戦を交えつつ、ママに教えてほしいわ」


「なるほどね、それじゃ始めていきましょう」


2人の来てる森は、過去キャロとシャロがグラハム達と来た森で、決して魔物のレベルも高くない場所。ここならキャロの魔法の練習には最適だ。


「そういえば、キャロちゃんは使いたい魔法の属性とか決まってるの?」


「私〈光の審判ホーリージャッチメント〉が使いたいわ」


「うーん、〈光の審判ホーリージャッチメント〉かぁ~」


キャロの話を聞きミリアは、難しい顔をする。〈光の審判ホーリージャッチメント〉は、光属性の神級魔法。本来であれば一般の魔法使いは使う事すらできない魔法。ミリアでさえ〈光の審判ホーリージャッチメント〉を使う事はできなかった。

そんな魔法を、今まで魔法を使ってこなかった、キャロが使うのは無理に等しかった。だが決して可能性がないわけでもない。


魔法には相性が存在する。魔法使いになる前には、必ず自分と良い相性の魔法を探し、それを基準に魔法を取得していく。ミリアは基礎である。炎、水、風、土は相性はとても良いが、光と闇はそれほど良くはない。だからミリアには光属性の神級魔法を使う事はできなかった。


「キャロちゃん、まずは〈ライト〉を使ってみて」


「わかったわ、〈ライト〉」


「わぁ、凄い」


ライト〉は光属性の初級魔法で、発動すると、手元で光を生み出すだけの魔法だが、その光の量で相性が良いかがわかる。光属性の相性を調べるには1番適した魔法とされている。

アイラが使っても線香花火くらいの光にしかならないが、キャロが使った瞬間手元を越え、その周囲一体を明るくするぐらいの光が発生した。


「キャロちゃんなら、出来るかもしれない。でも...」


このアイラの言葉に嘘はない。可能性の段階ではあるが、経験さえ積めば、間違いなく〈光の審判ホーリージャッチメント〉を使えるようになる。だがしかしキャロは、名誉ある戦いドュエルグランツまでにこの魔法を使えるようになろうとしている。時間が圧倒的に足りない。


だがミリアも1度手伝うと言った以上は、全力でキャロのサポートをすると誓った。例え本番までに間に合わなくても、必ず教えよう。そう思っていた。




そして1日、また1日と時間は過ぎていった。暇さえあればキャロは魔法の練習をして、時にはミリアと一緒に森に行き、実戦を積んだ。名誉ある戦いドュエルグランツまでの日にちは残り少なかったが、1日1日をとても有意義に過ごしていった。


そして名誉ある戦いドュエルグランツ本選の前日。最後の仕上げのため、2人で森に来ていた。


「いいキャロちゃん、今日は森の少し奥に行って。強力な魔物と戦ってもらう。その魔物を魔法で倒せたら。この訓練は終了よ」


「わかったわ、ママ」


索敵サーチ〉を発動しながら、森を進んでいく。途中の魔物は全てミリアが倒していき、キャロの魔力は本番まで温存している。


「キャロちゃん、見えたわ。【ワイバーン】よ」


2人の視線の先には、動物のような死体と、それを貪る【ワイバーン】が居た。気配を殺しているので2人の存在は未だに気が付いていない。


「じゃあ、やるねママ。〈光の審判ホーリージャッチメント〉」


完全な死角から、魔法を放つキャロ。【ワイバーン】を中心に光が広がっていき。当たり全体を光が覆った。少しして、光が消えた時には【ワイバーン】はその姿を消していた。完全に消滅したのだった。


「やっ..たわ」


喜びもつかの間、キャロはその場で倒れてしまった。魔力不足である。そんなキャロを抱えてミリアは森を脱出した。


こうしてキャロは、必死に習得した〈光の審判ホーリージャッチメント〉を使い。見事名誉ある戦いドュエルグランツでは、ルリを破り優勝をしたのだった。

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