ナツメの実力

今のフォール家は、父さん、母さん、俺、キャロ、シャロ、ルリ、レオ、リアン、そしてナツメを迎え入れ気が付けば、大所帯になっていた。

あの日から数週間、進級したり、ナツメが来たりでいろんな事はあったが平和な日常が続いていた。


レオとリアンを除き、各自の自室は家の2階にありナツメにも、空き部屋の一室が与えられた。

元々俺とナツメは布団こそ別だったが、同じ部屋で寝ていたので、最初は別々に寝るのは大丈夫なのかと不安もあったが、「もう私も14歳だし、お兄ちゃんと一緒じゃなくても、寝れるもん」と言われ、ナツメも成長してるんだなと実感し、それと同時に少し寂しさも覚えた。

普段は、キャロやシャロと同じように甘えん坊だが、元々持っている天才性や、時折見せる大人っぽを見て自慢の妹だと思う。






「シオン、結局宮野さんは学園には来ないのか?」


「あぁ、何でも父さんや、母さんに稽古を付けてもらって、冒険者になるんだそうだ」


「そっか、まぁ些細な事でも何かあったら、王城に来るように言っといてくれ」


「サンキューなアレス、いつもお前には迷惑かける」


学園での放課後、アレスに呼び出しをされ2人で空き教室に集まり、ナツメの事で話し合った。

ナツメは俺の妹ではあるが、この世界の人間から見れば転移者の括りになる。ましてやこの国は、転移者を重宝する。だからこそ、王子のアレスはナツメの状況を細かく把握しなくてはならない。そう思うと何も相談なく、ナツメを家に迎え入れた事に責任感も感じた。


「じゃあなアレス、今日はナツメに速く帰ってこいて言われてるから、先帰るわ」


「あぁ、宮野さんによろしく言っといてくれ」


こうして、急ぎ足で学園を出て家に帰った。


「ただいま~ってあれ、リビングの明かりついてない」


家に帰ると、先に帰っているはずのキャロ達の気配もなく、家の中は無人だった。

不思議に思いつつリビングに行くと、「動きやすい服に着替えて、庭に来てね」と書かれた、紙がテーブルの上に置いてあった。


「ナツメ、来たぞって、皆いるのか」


「あ、シオンお帰り」


「おう、ただいまルリ」


急ぎ支度して、始めに出迎えてくれたのはルリだった。ナツメには改めて、ルリとの関係や、ルリが魔王の娘である事を話したが、ナツメは「初めての彼女おめでとう」と祝ってくれた。

そんな、呼び出しの張本人ナツメは、他の家族に囲まれている。


「なぁ、ルリ今何してんの?」


「ナツメちゃんの戦い方研究だね。凄いよナツメちゃんは、基本的にどの武器でも使いこなすし、いろんな戦い方を知ってるんだよ、魔法の才能もあるから、完全なオールラウンダーだね。シオンが天才って言うのも頷けるよ」


「そうだろ、ナツメは凄いんだよ」


俺の事でもないのに、ナツメが褒められれば自然に俺がドヤってしまう。それだけナツメが認められるのが嬉しかった。


「あ、お兄ちゃんお帰り」


ナツメが俺に気が付いて、みんなが俺を中心にして集まってくる。改めて、仲のいい家族はいいなと思ってしまう。


「それで、ナツメ今日はどうしたんだ?」


「あのね、今日はお兄ちゃんと模擬戦がしたいな、と思って」


「え、俺と?」


ナツメの意外な提案に素で驚いてしまう。一応今の俺の強さは教えているし、普通の人なら俺との模擬戦をやろうとは思わない。それぐらいに俺が化け物だって自覚はあった。


「うん、お兄ちゃんがいい」


「まぁ、ナツメがいいならいいけど」


こうして、急遽ナツメとの模擬戦が始まった。この戦いを楽しそうに観戦するのは、ルリとフォール家の皆。俺とナツメにはお互い声援が送られる。


「いつでも、いいぞ」


「うん、分かった」


俺は、模擬戦用の木剣を構えてナツメの様子を伺う。ナツメは木製の短剣を選び俺の隙を伺っているように見える。

ナツメはたしかに天才だ。もしかしたら戦いの才能もあるのかもしれない。だが転移してからまだ数週間俺と比べて経験の差は明らかだと思っていた。


「え?」


気が付けば目の前からナツメは消えていた。目を離したつもりもないし、余所見をしたわけでもない。だがナツメは消えた。いきなりの事に一気に俺の警戒レベルは上がる。


「ッ?!」


「惜しい」


消えたと思ったナツメはいきなり目の前に現れ俺の心臓を目掛けて突きを繰り出してきた。咄嗟に反応出来たものの、かわし切れず左腕をかすってしまう。ナツメがいた場所を見たときには、そこにナツメの姿はなく、完全に消えていた。


「何が起きてるんだ」


剣を構えながら全方位に集中する。気配そのものが消えているから、どこから攻撃をしてくるのか検討も付かなかった。


「ッ!〔縮地〕」


「あっ、よく気が付いたね」


今度はいきなり後ろに現れ攻撃をしてきた、ナツメは言葉の通り、本当に突然後ろに現れた。だが攻撃する瞬間は気配が読み取れる。さっきもその気配を感じたからこそ〔縮地〕で避けられた。


どんな魔法を使ってるが知らないが、一瞬でも気配を掴めるなら戦いようはある。今のやり方からナツメは1度攻撃をしたら引く可能性が高いので次ぎ現れた瞬間に一回で決めようと、武器を構えなおした。


「そこだ!」


集中し現れたナツメの気配に向かって剣を振るう。もちろん寸止めだが。だがナツメは行動をよむと予想していたのか俺の予想よりも至近距離に現れており、剣を振るった俺の腕を掴み関節技を綺麗に決めた。綺麗に決まった関節技はプロでも抜けないと言われてるほどで、俺は完璧に動きを封じられていた。


「ギブギブ、俺の負けだよナツメ」


そう言うと、関節技をとき、俺を解放してくれる。正直〈瞬間移動クイックテレポート〉などを使えば抜けれる可能性はあったが、ここまで完璧な試合をされて抵抗する気にもなれなかった。


「なぁ、ナツメの気配が消えたのはなんだったんだ?」


「あれはね、〈消滅ロスト〉って言う魔法で、神様から貰った魔法の1つなんだ。他にもあるけど、今使いこなせるのは、この魔法だけなんだ」


消滅ロスト〉と言う魔法に驚いたが、それよりも驚くのは他にも何かあるという事実。それを全て使いこなせたら、もしかしたら俺も手に負えない化け物になる予感がする。



こうして、ナツメとの始めての模擬戦は俺の負けで幕を下ろしたのだった。












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魔法解説


消滅ロスト〉無属性、神級魔法。神ドゥエサスがナツメに授けた魔法の1つ。〈隠密行動〉インビジブルと違い、存在を完璧に消して〈索敵サーチ〉などでも見つけられなくなる。欠点は現れるまでに数秒かかる。

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