過去の記憶
これはきっと夢だろう...
ぼんやりとする視界の中、見覚えのある少年と少女。少年の名は竹下詩音。俺の昔の名前だ。そしてもう1人の少女は竹下ナツメ。本名、宮野ナツメ義理の妹だった少女。幼い頃から2人で過ごしていて、兄弟仲も悪くなかったと思う。妹は天才でどんな事でも完璧にこなす子だった。
「どうして、どうしてお兄ちゃんは、私の気持ちが分からないの!お兄ちゃんなんて大嫌い!!」
それ言葉は、ちょうどバイトに行く前に言われた言葉、ナツメからの最後の言葉。こんな悲しい事を言わせてしまった俺に責任はある。俺はバイト中も謝る事だけを考えていた。だがそれは叶わなかった。あの日の夜に俺は転生したのだ。
あれから数十年、今更こんな事を思い出した所でどうしようもないのは、分かっていた。それでも心の中で、妹が幸せに暮らしてる事だけは願っている。
「はぁ、今更どうしてこんな夢を...」
気が付いたら目は覚めていた。いつもより早い時間に起きはしたが、眠気は一切感じなかった。起き上がりその場で伸びをして、何も考えず庭に向かった。
当然この時間では誰も起きているはずもなく、俺のベットで寝てるルリや、もう1つのベットで寝てるレオとリアンも起こさないように静かに部屋を後にした。
早起きはしたものの、鍛錬する気にはなれず腰を下ろして1人日の出をボーっと眺めていた。
すると突然後ろから声が聞こえる。
「あれ?兄さんなにしてるの~?」
「シャロこそ、こんな時間に何してるんだ?」
可愛らしい寝巻き姿のまま1人庭にやってくる妹。まだ寝起きなのか髪の毛が少しはねてるのが目立つ。フラフラした足取りで俺の横まで来ると、そこで腰を落として肩をピッタリとくっつけた。
「エヘヘ、兄さんとくっついちゃった~」
何故だか、こうしているとナツメの事を思い出す。俺は何かと妹と言う存在に縁のある男だった。地球での義理の妹ナツメ、シュテルクストでの義理の妹キャロとシャロ。そんな事を考えながらシャロの頭を撫でてやるのだった。
「兄さん、くすぐったいよ~」
「シャロ、何かあったら俺を頼れよ、いつでも力になるからな」
「??わかった~」
もう二度と妹に悲しい思いをさせないと、心に誓うのだった。
「私達も、もう二年生だね」
「そうね、今年も強くなるためにいっぱい努力するわ」
「キャロちゃんは勉強も頑張ろうね~」
ルリが言ったようについに俺達も進級して2年生。そして今日から学園が始まるのだった。クラスは去年と変わらずSクラス、メンバーも変わる事無く、全員が一緒に進級できたのだった。Sクラス以外ではクラスが変わる事も合ったらしいが、やはりAとSの差は激しくAからあがってくる者がいなかったと言う。
「おはよ」
「おはようですわ」
「皆おはよう」
「おはよ~」
教室に入り、変わらない面子に挨拶しながら、新しい教室の新しい席に座る。今年はどうやら窓側の1番後ろの席、寝ても気がつかれない場所だ。まぁ寝る事なんて考えてないけど。
「シオン君知ってるっすか?」
席についた途端、いきなり将太が話しかけてきた。将太は転移者と呼ばれる存在で元は俺と同じ地球の人間だった。あることが原因でこちらの世界に来て、今は将太の姉、花蓮さんと将太の婚約者リティスさんと一緒に住んでいる。
「何のこと?」
「何でも転移者が現れたみたいっすよ」
将太の言葉に教室が一瞬で静まり返った。意外と声が大きいから、教室中に響いてしまってるが将太は全く気にしてなかった。いや気が付いていなかった。当然みんなが転移者には興味があって将太の話しに耳をすましている。
「シオン君たちと同じ14歳の少女で、日本人特有の黒髪。名前をなんて言ったっすかね」
「はーい、皆席について」
転移者の事を聞こうと思ったら、フォルテ先生が教室にやって来た。そこで話しは中断されてしまい続きはこの後聞く事にした。
「あれ?フォルテ先生アレスは休みですか?」
普段であれば絶対に遅れないアレスが教室にいない事を気が付き先生に質問する。先生もその質問が来るのは分かっていたようで、直ぐに答えてくれた。
「アレス君は、さっきみんなが話してた転移者のこと一緒に学園にいます。もうじき来ると思うよ」
そう言いながらフォルテ先生が扉の方を見ると、タイミングよくアレスが教室にやって来た。廊下で何か喋ってる所を見ると、おそらくその転移者を待たせてるんだろう。
「みんなおはよう、すでに知ってる者もいると思うが、今日転移者が現れた。その子の案内を僕がやっている。入ってくれ」
「はい、失礼します」
俺は、その少女を見た瞬間自分の目を疑った。何かの間違いだとそう思いたかった。
「この子が転移者だ。もしかしたら学園に入ればこのクラスに入る事ができるぐらいの、ステータスはあるみんなも顔ぐらいは、覚えておくべきだぞ」
「初めまして、宮野ナツメです。学園に入るか分かりませんが仲良くしてください」
その名前を聞いた瞬間俺は立ち上がってしまった。もしかしたら、この行動は間違ってるかもしれないし、できることなら気付かないふりをしていた方が、いいのかもしれない、だが立ち上がらずにはいられなかった。
「どうした、シオン何か質問でもあるのか?」
「え...シオン?」
アレスの言葉でナツメも気が付いたようで、俺の顔をジッとみる。昔の顔に比べればだいぶ変わってしまっているが、何か感じる所があるのだろう。
「ナツメ、話したい事がある、今日は午前で全て終るから、お昼を過ぎたらこの教室に来てくれ」
「うん、わかった」
俺とナツメの異様な空気に誰も入ることができなかった。ナツメは涙を流しながら教室を出て行きそれを慌ててアレスが追いかけて行った。
こうして、俺とナツメは衝撃の再会をはたす事になってしまった。
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