現れたもう一人の家族

とある兄弟の物語

地球のとある地域、そこには、決して裕福とは言えないが、とある兄妹が幸せに暮らしていた。この兄妹は幼い頃に両親をなくし、始めは親戚と一緒に暮らしていたが、あるとき2人で生きる事を決意し、親戚の家を出て、2人暮らしをはじめた。

周りには、お世辞にも良い大人と呼ばれる存在はなく、この兄弟を引き取った親戚も、兄弟の親の莫大な貯金目当てだった。


この兄妹には、ある特徴があった。妹が年齢離れしたほどの天才だったのである。兄は年相応と言う言葉が似合うぐらいの平凡、あえて何か特徴を挙げるなら、アニメやゲームを嗜んでいた位。だがそのぐらいの知識は妹だって持っていた。


そして兄は15歳、妹は14歳まで、大人の力を殆ど借りずに生き抜いてきた。兄の方も高校生になり、社会勉強と言う事でバイトを始めたりした。妹にはそういういい訳をしていたが、実際は妹には、妹に会った学校に行ってもらいたくて、お金を稼ぎ始めた。


妹は、昔から兄離れができない少女であった。いくら天才であっても、自分たちが生きてこれたのは、いつも陰で支えてくれた、兄が居たからだと、理解していつも感謝し、兄に対する思いは強かった。

天才だからこそ、兄の本心は気が付いていたし、だがそれと同時に、兄が好きな妹は自分との時間が減った事に、不満は溜まっていった。


そしてある日少女の怒りは沸点を超えた。


「どうして、どうしてお兄ちゃんは、私の気持ちが分からないの!お兄ちゃんなんて大嫌い!!」


その言葉は、本心ではなかった。少し後悔しながら兄の顔を見るととても悲しそうな顔していた。そして「ごめんな、行って来ます」とても弱く、小さなその言葉を言い、兄はバイトに出かけていった。


その後妹は、家で深く反省した。自分のために頑張っている兄に対して、あんな酷い事を言ってしまい。悲しませてしまったと。

兄が帰ってくるまで、起きていて、謝ろうと。


だが、いつまで待っても兄が返ってくる事はなかった。普段の帰宅時間を過ぎても帰ってこない兄が心配になり、夜遅い中、1人で兄のバイト道を辿る。そして見つけてしまった。道端で横たわっている兄の事を、その時は、バイトの疲れで、寝てしまったのだと、自分を思い込ませて、自分より重い兄を何とかして家に運び、布団に寝かせた。

明日になれば、きっと起きるだろうと、そう思い、妹も眠りに付いた。


翌日兄が目覚める事はなかった。妹も薄々気が付いていた、背負った時に心臓の鼓動も、寝息すら聞こえない状況を認めようとしなかっただけで、朝になっても起きない兄を見て、認識してしまった。

兄は、死んだのだと。


全てを理解して、ようやく涙は流れ始めた。人はいつ死んでもおかしくないとは、よく言うが、こんなあっさりいなくなってしまうなんて、しかも最後の思いでは、喧嘩した思い出。いつも優しくしている兄を困らせて、謝る前に死んでしまって。わがままな自分を、妹は嫌いになった。


兄が死んだ事を親戚、身内に伝え、葬式を行った。死因不明の少年に誰もが疑問をもっていた。最愛の兄が死んだ事で妹は、無気力になっていた。そんな時、過去に自分たちを引き取った親戚の姿が見えた。会話しているのを見て、隠れこっそり盗み聞いた。


その内容は、実の兄だと思っていた兄は、実は血の繋がっていない兄で、血縁関係上では、兄と思っていた人物は、家族でも兄妹でもなんでもなかった。ただ、血が繋がってない自分に対して、兄はあれほど優しく接してくれたのに、最後の思い出のせいで、全てを台無しにしてしまった気がした。


妹は、そんな自分がどうしようもなく許せなかった。全てを知っていた兄と比べ天才と言われていたのに、重要な秘密を知らなかった事にも、憤りを覚えた。


葬式が終わっていない中、1人会場を抜け出し、家に帰る妹。無気力で、秘密を知ってしまった事で放心状態の少女。少女はそこで意識をなくしていた。







「ここは、私一体何をしてたんだろう」


何もない白い空間、終わりはなく、どこを見てもただ白いだけ、この場所が地球ではない事は一瞬で理解できた。


「ようやく目覚めたかのぅ、竹下ナツメ、いや本来の名は、宮野ナツメじゃったか」


少女の目の前には、いきなり白い靄が現れたと思ったら、それはやがて、人の形になり最終的には、老人のような姿をした人が立っていた。

その老人は、何故私の名前を知っている。知らない場所、何故か名前を知ってる老人、この事から、自分は死んだのだと確信した。


「あなた、神様ですよね、速く私を地獄に連れて行ってください」


「ほぅ、さすがは天才少女と呼ばれる者じゃ、一瞬でわしの存在を見破るとは、だが何故地獄なのじゃ?」


「私は、大事なお兄ちゃんを困らせた。それに謝る事もできなかった。そんな私はきっと地獄に行ったほうがいいんです」


少女の発言に神は、困ったような顔をした、ようやく意識を取り戻した少女は、未だ自分を責め続けている。その状況に同情すら覚えてしまうぐらいに。


少女からすれば、意識がなくなり、この謎の場所に来るまでの時間は一瞬の事だと感じられる。だが実際は違う、あの葬式の直後すでに意識はなくなっており、それからこの場所にたどり着くまで13年の月日は流れていた。いわゆる迷える魂になっていたのだ。


「ナツメよ、わしはお主に謝らねばならぬ事がある」


老人の、神の言葉に耳を疑った。初めて会う存在に、しかも人間なんかより遥かに位の高い存在が自分に謝罪をしようとしてる状況を、いくら天才と言えど、理解はできなかった。


「お主の兄を、地球から消したのは、他でもないわしなのじゃ」


「え、それって...どうゆう」


「神の世界にも色々事情がある、全てを話す事はできぬが、まぁ続きを聞くのじゃ。13年前のあの日シオンを無理やり転生させてから、お主の存在に気が付いた、お主の情報を整理し、お主もあいつと同じ世界に送ろうとした、じゃが問題が発生した。お主の絶望は思ったより深くてなこの場所に辿りつく事ができなかったのじゃ、そして彷徨ってる所をようやく見つけ、今お主は意識を取り戻したのじゃ」


非現実的な話しにますます理解が追いつかなかった。だが兄を奪ったこの神の事に怒りを覚える事はなかった。それはこの神が、少しでも私の事を考えて動いてくれたからだと思う。


「お主は先程、地獄に行きたいと言っておったが、お主の兄が居る世界に行くこともできる。好きな方を選ぶとよいのじゃ」


その質問が来た時少女は一切迷う事はなかった。


「お兄ちゃんのいる世界に生きたい、です。」


その答えを聞けた神も心なしか、嬉しそうに笑った気がした。そして異世界に行く準備が始まった。少女にもある程度の知識はあり、神との会話も順調に進んでいった。宮野ナツメは転移という形で異世界に行き、またその姿は14歳の姿でいける事になった。


いくつかのチートスキルを貰い全ての準備は整った。こうして1人の少女が異世界シュテルクストに行くことが確定するのであった。


「待っていてね、シオンお兄ちゃん」

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