夏休みの思い出

夏休みも気が付けば終盤。あの戦い以降は何もなく。俺達は平和に過ごしていた。

少し気がかりだった。レオの〝獣人の姫〟についても、今のところは何も起きていない。


「そういえばシオン、今日のお祭りは行くの?」


リビングで本を読んでいる俺に、母さんが話しかけてくる。

今日祭りがあること事態が初耳なんだが。


俺は、魔物に対する知識や、魔法の事など記憶してはいるが。サブメラのイベントとか、行事ごとはあんまり詳しくない。と最近、母さんから指摘された。


「その顔は、知らなかったって顔ね」


「知らなかった。どうしようかな」


正直、あまり行く気にもなれない。人は多そうだし、暑いし。夏休みの終盤ぐらい家でゴロゴロしていたい。

余談だが、この世界には冷房などの地球の機械がない。その代わり風魔法で冷風を出す事はできる。まぁフォール家の人間は俺含めて、魔法で体温調節が出来るから関係ないけど。それでも俺は、そういう便利魔法を戦い以外では滅多に使わない。日本に比べるとそこまで暑くないし、人間味が無くなるから。


「そういえばルリは?」


さっきまで、一緒に居たが「そろそろ、準備してくる」と言い部屋に戻って、はや数十分。まだ降りてこない。そもそも、何の準備だろうか?


「ルリちゃんなら、お祭りの為に着替えているわよ。確か浴衣を着るって言ってた」


「浴衣...だと!?」


前言撤回。凄く行きたくなってきた。

でも、ルリが行くと言う事は、キャロ達も行くよな?そうなるとデートは厳しいか。


「じゃあ、キャロ達も行くってこと?」


「私達がどうかしたのかしら?」


「兄さん、呼んだ~」


母さんに聞こうと思ったら。ちょうど着替え終わった、キャロ達がリビングに入ってきた。

キャロとシャロは、色以外お揃いの浴衣で。とても似合っている。キャロは普段、動きやすそうな格好をしてるので、ちょっと新鮮だ。

少し凝視しすぎたか「恥ずかしいわ」と照れるキャロ。可愛い。


「やっぱり、恥ずかし、ちょ、レオちゃん押さないで」


「そこに立たれると、入れないです。あ、主!我の浴衣どうですか?」


キャロ達の後に遅れて、ルリとレオが入ってくる。レオは子供用の浴衣だがこちらもよく似合っている。感想を聞いてくるときに、レオの尻尾がぶんぶん揺れてるを俺は見逃さなかった。


「ど、どうかなシオン?変じゃないかな?」


「あ...」


「「あ?」」


レオの後ろから、恥ずかしそうに出てくるルリ。ピンクを基調としたその浴衣は、ルリの可愛さを、より引き立てて、可愛さを残したまま、ちょっと妖美な雰囲気も出している。

それを見た俺は、思わず変な声を出し、フリーズしてしまった。


「あぁ、2人とも最高だよ」


やっとの思い出、出た感想がこれだ。うん、褒めないってミスはしないけど、我ながら語彙力のなさに涙が出てくる。


「シオンにぃ、私達はレオちゃんを案内と3人でお祭りを楽しむから、ちゃんとルーちゃんをエスコートしなよ」


「そういう事だから~、兄さん達。行って来るね~」


「主、また後で!」


そう言って、3人は家を出て行ってしまった。これは実質デートって事になるのでは?

ヤバイ、テンション上がってきた。


「私達も、行こ」


そう言って、俺の腕を取り、体をぴったり合わせるルリ。ルリの柔らかい体の感触と、ほんのり良い匂いで、俺のテンションは最高潮。


「2人とも、お熱いのはいいけど、家ではイチャつかない。それと、日をまたぐ前には帰ってくるのよ」


母さんに注意されて。俺達は顔が少し赤くなりながら、家を出た。


「注意しても、腕は組んだままなのね」


そんな母さんの声が聞こえた気がしたが、聞かなかった事にした。





「人、多いね」


「あぁ、暑苦しいな」


現在、王都サブメラの中央通りを、ルリと2人で歩いている。周りを見れば、人、人。でかなり人口密度が高い。道路の端では、屋台の様な物もあり。焼きそば、たこ焼き、チョコバナナ。ラインナップが完全に日本のお祭りと変わらない。


俺達は、歩いているだけなのに。かなり視線を感じる。ルリに見惚れている視線と、俺に対する殺意の視線。俺に対する視線は何も感じないけど。やはりルリは見られるのはちょっと気に入らない。


「ルリ、移動するぞ」


「え、ちょ、きゃ!」


俺にくっついているルリを放して、直ぐにお姫様抱っこをする。その後〈身体強化〉を使ってその場からひとっ飛び。そこら辺の屋根をつたって、一般人でも入れる。展望台にやって来た。

高い位置から花火が見れるだけあって、当然だが、そこも賑わっているが。俺達には関係ない。

なぜなら、その展望台の上、つまり、建物の中ではなく外にいるからだ。


「ちょっとシオン!いきなりだからビックリしたよ」


「わるい、わるい」


ちょっとほっぺを膨らませ。俺の肩をポカポカたたいてくる。全く痛くない。この流れがちょっと恋人っぽい。いや恋人だけど。


「それより、ルリ。あれを見てみなよ」


そう言いながら、空を指差して、ルリの視線を誘導する。夜だから、当然空は暗いが。満天の星空が静かな空を彩っている。その光景に2人して見入られている。


そんな中、ひゅ~、と軽い音がして。一気に、ドンッ!と、炸裂したような音が響く。そして空に1輪の色鮮やかな光の花が咲く。この光景に言葉は不要で、俺もルリも黙って見ていた。


「ねぇ、シオン」


「な、ッッ!!」


不意に肩を叩かれ、呼ばれたからルリの方を向くと。唇を奪われた。いきなりの事で少し固まってしまった。


「プハァ、ハァハァ。どうだった?」


お互い息が限界で、名残惜しいがルリの唇が離れてしまった。

ルリの目はトロンとしていて。可愛さが消え色っぽさが強く象徴された。


「もう一回、だめ?」


上目ずかいでおねだりされたら、断れるわけもなく。そもそも断るわけもなく。再び唇を交じ合わせる。今度はお互い舌を入れたりもした。途中で聞こえる、ルリの吐息が艶かしい。


花火が上がる中、誰からも見えない場所で。俺達は夏休み最後に強烈な思い出を作った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ルリ「ごめんね、これ以上は、まだ進めないんだ」


シオン「いいよ、俺達の時間はまだあるし、これからゆっくり進んでいこう」

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