己との対話
ナフティカに胸を貫かれて、完全に死んだと思った。だが、まだ意識がある。
正確には暗闇の中での意識だ。
この中では、辺りの感覚はおろか、魔力なんかも感じることはできない
そしてこの空間は、本当に暗闇で回りは、全て黒だった。
(お前は本当にそれでいいのか?)
黒い空間なのに、それよりさらに黒い誰かが俺に問いかけてくる。
そいつはきっと俺の知ってる奴なのだろうが、顔が分からないから、誰か判断が付かない。
でもこの空間で、対話できる存在がいるなら、誰だっていい。
(お前が、誰か分からないが、何に対して疑問をもっているんだ?)
こいつには、顔が無いくせに、俺が「誰かわからない」って言った途端、急に悲しそうにした気がする。
(何に対しての疑問かって?決まっているだろ。お前がここに来る前の戦闘の事だよ、あれに、後悔はないのかって事だよ)
(...)
俺はその言葉に黙ってしまう。おそらくこいつが言った``戦闘``とは、ナフティカ戦の事だろう。
だが何故、こいつはその戦闘を知っているのだろうか?
黙ってしまったが、何も言えない訳じゃない。そして、このよく分からない奴に俺の本音をぶつけてみた。
(正直、後悔だらけだよ。あの後の事がどうなったかは、わからない。もしかしたら、あのナフティカって奴に全員殺されたかもしれない。そう思うと、震えが止まらないよ。何より、最後の最後でルリを泣かせた。後悔していないわけ無いだろう」
言い終わると同時に、フッと自傷気味に笑う。
こんな事言っても、もうどうしようもない。
その後、俺とこの黒い誰かは、無意味な会話を続ける。
(本当に後悔してるのか?)
(当然だろ)
(お前なら、どうにか出来たんじゃ、ないのか?)
(さぁな、そんなのは結果論だ)
(お前が、もっと強ければ勝てたんじゃないのか?)
(そんなの、後の祭りだろ)
(本当に、こんな結末でいいのか?)
(じゃあ!どうすれば、いいんだよ!)
流石の俺も、苛立ちを隠せなかった。守れなかった事を、わざわざ確認させるような物言い。ほんと、何なんだこいつ、と思うぐらいに。
そこで、ふと気が付いた。
こいつの話し方、雰囲気は誰かに似ていると。
そして分かった。こいつは俺自身だ、この暗闇は俺の意識で、きっと後悔している俺と話してるんだと。
そして、その答えにたどり着いた瞬間、こいつの顔をがだんだんと分かってきた。
こいつは俺自身であっても...
(転生者がそんな簡単に、死ねると思うなよ。お前にはまだ役割があるはずだ。だから俺がここにいる。死ぬなら、せめてその役目を終えてから死ねよ。もうこんなへまするんじゃねーぞ)
そう、こいつは俺自身であっても、今の俺ではない。転生する前の俺だ。
転生前の俺の、その言葉を最後に俺の意識はまた暗闇に落ちて言った。
「お...ろ、おき...、おきろ!!」
「ッッッッ!」
そして、意識が覚醒する。そこは、さっきまでと真逆の真っ白い空間だった。
そこは、一面何もなくただただ真っ白く果ての見えない空間。
この空間には見覚えがある。
「やっと、起きたのじゃな」
「あなたは...」
この真っ白い空間で、俺に話しかけ来る人。この状況にも覚えがある。
そう、俺に話しかけて来る人、もとい話しかけて来るおじいさん。
「かみ...さま」
ここは、俺がシュテルクスト、異世界に行く前に来た、転生の間だ。
「Ohー死んでしまうとは、情けないのじゃ」
「黙っとけ」
ハッ、素でツッコミをしてしまった。流石に怒られるか?
「いいのぅ、そのツッコミ。普段ツッコミはしてくれないからのぅ」
何故か喜んでもらえたから。結果オーライ。
それより、俺がここにいるって事は...
「神様、俺は転生するんですか?」
「いいや、しないぞ」
え、俺死んだんだよな。確かにナフティカに貫かれたよな?だから転生の間にいるんだよな?
「じゃ、じゃあなんで俺はここにいるんですか?」
「ハッキリ言って、今あの世界で死に掛けておる。まぁ仮死状態ってやつじゃな。だがまだ死んでいない。そして今回お主を生き返らせる条件が揃っておる。だから生き返らせるのじゃ」
い、生き返らせる条件だって~
そんなのがあるなら、何度でも蘇れるじゃないか。
「時間が無いので、手短に説明するぞい。条件は全部で3つ。1つ目は、深手を負い仮死状態になることじゃ。2つ目は、生き返らせた後その事実に肉体が耐えられることじゃ。そして3つ目は、あの世界というか、本人が死に掛けた原因に神が関わっているということじゃ」
いや、条件が鬼畜過ぎる。普通無理やろ。これなら、条件なんて必要ないでしょ。
なにより3つ目、一瞬俺は当てはまらない、と思ったが、よく思い出せばナフティカは、邪神の使いだったはず。
「でも、今のまま生き返っても。仮に魔力とか体力がフル回復しても、俺ではあいつには勝てないですよ」
そうだ、俺はハンデを貰った。それなのに完膚なきまでに負けてしまった。
今更生き返っても...
「確かに、今のおぬしでは勝てないじゃろう。だがそもそもの敗因は何じゃ?」
「俺が、弱かったから?」
改めて聞かれても、そう答えるしかできなかった。所詮は思い上がり。転移者でもチート能力を持っていても、上には上がいる。
「それは違うぞ、お主はあの世界で、すでに最強に近い生物じゃった。確かに、あのナフティカとか言う男も決して弱くはないのじゃが。それでも普通にやれば、負ける事はなかったのじゃ」
じゃあなんで?よーく思い出してみる。ナフティカの言ってた事を。
「この力を実戦で使うのは初めてだったけど」
そう、奴はそう言ってたのだ。この力を使うのは初めて、あれだけ戦い慣れしてる奴の言葉とは思えない。じゃあ力を貰った?だれに?
「そっか、邪神の力」
自然と口から言葉が出ていた。生き返りの条件の3つ目、神が関わっている事。これは使者だからと言うのもあるが、ナフティカが力を貰っていたからだ。
「正解じゃ、そして本来、世界に神は、干渉してはいけないルールがあるのじゃが、それを破った神がおる。逆にそれは、均衡を保つためにわしが誰かに、神の力を授ける権利が生じるのじゃ」
「ま、まさか!?」
「そう、そのまさかじゃ」
なるほど!?だから条件の2つ目は、生き返りの事実に肉体が耐えられることなのか!生き返る時に神の力を授かり、それを受け入れる器が無ければ意味などなくなる。あの鬼畜の条件が繋がっていく。
「そういえば、わしはまだ、シオンに自己紹介しておらんかったのぅ」
神様は、一旦息を整えて。真剣な表情になる。そして空気が一気に重くなる。
これが神のプレッシャー!
「わしの名は、ドゥエサス。神の世界における、最高神。その権限を持って。この者に力を授けよう」
その瞬間、俺の体は温かい光に包まれた。
シオンは、パワーアップした...実感はわかないけど
「まだお主は、力を実感できておらぬじゃろう。だが大丈夫じゃ、お主は間違いなく最強になった。後は実戦で試してくるといいじゃろう、きっと戦えば、おのずと力も見えるはずじゃ」
「分かりました。ありがとうございます!」
「行きたい気持ちは分かるがちょっと待つのじゃ」
今すぐ、シュテルクストに戻ろうとするが、ドゥエサス様に止められる。
そして1つの水晶を取りだして、俺に見せてきた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ドゥエサス「お主はついに最強じゃ、慢心してよいぞ」
シオン「慢心せずして、何が転移者か!」
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