第30話

 それから数日経ち……。


 アキラはセラティアの要求にどう答えればいいか分からず、授業の間に、とある人物に接触し、相談があると告げた。

 その人物を呼び出したのは、昼休みの学校の屋上。

 そして、その人物は予定より早くやって来た。


 「アキラ、来たぞ」


 ペットボトルの水を片手に現れた祭は、グラウンドを見下ろすアキラのとなりにやって来ると、早速アキラの話を真剣に聞き始める。


 「それで、相談事ってなんだ?」

 「実は、魔王にあったんですが、俺にダンジョンの場所を教えてくれる代わりに、自分達の領土を寄越せって言われましてね……」

 「なるほど、それで俺のとこに相談に来たと?」

 「そうです」

 「そうか……」


 祭は思った。


 (こいつは何アホなことを言っているのだろう?)


 と……。

 それは単純に、土地とダンジョンの情報が釣り合ってると思えなかったからである。

 更に助言して言えば、ダンジョン自体は、なかなか見つからないと言うわけではない。

 割と見つかる事が多いのである。


 一応アキラをフォローすると、迷宮型ダンジョンの存在はレアである為、その情報を知りたいと言うのはわからない話でもない。

 それでも、対価が釣り合っているとは言えないだろう。


 さて、祭はそんなアホな相談にも、真面目に考える。


 (土地を買う……金がないからボツだ)

 (土地を力ずくで……当然ボツ)

 (となると……)


 そして祭はひとつの答えを出す。


 「諦めろ」

 「はい?」

 「諦めろといったんだ! ダンジョンの情報と領土が釣り合うか! バーッカ!」


 それは、ある意味当然の答えではないだろうか?

 そして、そんな答えを吐き捨てて、祭は屋上から去っていった。


 「バーカって言わなくてもいいよな……」


 …………。


 「なぁジンレイ、俺はどうすればいいと思うよ……」

 「モグモグ……ん? 肉まんを作ればいいと思うぞ?」


 さてゴーグルを装備し、自分の部屋の台所で、ジンレイの晩御飯である激辛肉まんをどんどん作るアキラは、テーブルで出来上がった肉まんをモグモグ食べるジンレイに突如そう尋ねる。

 しかし、何についての事か言わずに訪ねても通じるわけがない。


 なのでアキラは事の次第を、肉まんファーストのジンレイに説明し出す。


 「いや、実はな、魔王に迷宮型ダンジョンの情報と交換で領土を要求されてな」

 「モグモグ……迷宮型の情報か……。 それと領土、どれくらいの広さを求められている?」

 「そう言えば具体的に言われてないな……」


 だが、ジンレイの一言にハッとなる。

 確かに領土とはどれくらいの広さを言いたいのか?

 まったく想像がつかなかった。

 そんなアキラにジンレイは、とある具体例をあげるのである。


 「なら、バチカン市国くらいあればいいんじゃないか?」

 「まったく広さの想像がつかないのだが?」

 「そうだな具体例をいくつかあげると、日本の国会議事堂の約四倍の面積、東京のネズミの国より少し小さい面積、天安門広場と同じ面積と言えば分かるか?」

 「とりあえず、ネズミの国と言う比較対象のおかげで、何となくの大きさは分かった」


 だがそれが分かったからといって、彼がどうにか出来るわけでもない。

 結局、それだけの土地を手に入れるにはどうすればいいか?そんな悩みが悪化するだけだった。

 そんな時。


 「はぁしかし、どうするか……」

 「ちなみに、魔王城はどの辺りにあるんだ?」


 立ち上がったジンレイはそう訪ねながら、料理中のアキラにスマートフォンの地図を見せてくる。


 「ん? ちょっと待て……。 たぶんこの辺りだな」


 そんなジンレイの言葉にアキラは一度手を洗い、ゴーグルを外すと、地図をよく見る。

 そして、大雑把に指で場所を指すと。


 「そうか……モグモグ……」


 どこか淡々とした返事をすると、改めて机に座り、肉まんを食べ始めるのであった。

 だが、この時ジンレイは静かにとある考えを思いついていた。


 …………。


 そして次の日、土曜日の朝早くの事である。


 「おいアキラ、開けろ」

 「ん? んん!?」


 目が覚めるとそこには、まるで戦場に行くかの様に、迷彩服とタクティカルベルトを身につけ、更に顔にまで迷彩を施しているジンレイの姿があった。

 そんなジンレイはアキラを見下ろしながら、ある報告をするのだった。


 「領土を手に入れられる準備は整ったぞ、とりあえず私を魔王のところへ連れていけ」

 「は?」


 それはあまりに突然の事で、ツカサは理解が追い付かず、固まってしまった。

 そして、数秒後に我に帰ったアキラはとある事をジンレイに尋ねる。


 「なぁジンレイ、どうして俺の部屋にいるんだ?」

 「アキラ、お前に用事があるからだろ?」

 「いや、何で鍵をかけていたのに何で中にいるんだ?」

 「お前がいくらドアを叩いても起きないから、針金で開けたのだが?」

 「…………」


 その時、堂々とそう言い放ったジンレイに対し、アキラは思った。


 (何となく思う部分はあったけど、ジンレイってどこか変わっているよな……)

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