✴︎後書き✴︎


 読者様、ここまでお付き合い下さいまして誠にありがとうございます。最後はこの後書きの場をお借りして、小説『あたしが大黒柱』に関するいろいろな思い、考えなどを綴らせて頂きます。



 まずは花鈴視点の番外編とエピローグについて。書いてみて改めて実感したことが沢山ありました。


 相手のことを知ろうとするのは難しく、限度があるものです。花鈴は最終的には蓮に背を向けてしまったけれど、彼を理解しようとした気持ちは決して嘘ではありません。そして葉月もまた蓮とわかり合いたくて一生懸命頑張りました。


 もちろん蓮も何もしようとしなかった訳ではなく、自分はどうするべきか精一杯考えたと思います。だけど彼の特性上、対話をするのが難しかったり、相手の言葉の鋭さに耐えきれずに自分が壊れてしまったり、跳ね返すことも出来なかったりしたのです。


 人の縁とは不思議なもので、相性以外にも、タイミングとか環境、精神状態、いろんな条件がそろって、関わった人たちの中でもほんのわずかの人と深く繋がるのだと思います。


 なので著者は葉月が正しくて花鈴が間違っていたとは思わないのです。この物語の登場人物全てに言えることですが、みんな正しいところも間違ったところも持っているのです。そしてなんの間違いもせず、誰も傷付けず生きてきた、なんて人もきっといないのでしょう。


 だからこそ、恋人や家族や友達になれるのって、本当に奇跡なんですよね。



 それから著者自身のことについても少し。


 著者も発達障害や精神疾患を抱えています。聴覚過敏は正確に言うと昔からあったかどうかは定かでないんですが、病気の悪化と共に酷くなってしまったようで、今では日常生活のあらゆることが困難になるほど悩まされております(例えば換気扇や電子レンジの音が辛いので台所に長時間立てないとか、多くの音を拾ってしまいやすいので人の多いところだと目の前の人の声が聞き取れないとかです。家族も協力してくれてはいますが、さすがに一日中私のサポートが出来る訳じゃないので、自分でもある程度はなんとか出来ないと困る訳です)


 しかしこの物語では、障害や病気を抱えているのは主人公ではなく“主人公の夫”です。何故このような仕様にしたのか。


 理由は大きく分けて3つあるなと気付きました。



 1つ目の理由。主観的にではなく俯瞰ふかんして見たかったからです。


 そうすることで私も落ち着いて内容を整理して書けるような気がしました。書く人によると思います。私はその方が言いたいことを伝えやすいと思ったのです。


 又、多くの人に知ってほしい内容だからこそ読みやすさも大切なのではと思い、あまり重すぎない描写にしました。蓮は生活をする上で困難なことが沢山あったから“障害”と呼ばざる得なくなってしまったけど、これは本来彼の特性です。それも含めて彼の個性として書きたい、そんな思いも強かったんだと思います。



 2つ目の理由。そもそも主観的に書くのが難しかったからです。


 障害、病気を持つ当事者としての目線で書いた方が表現しやすいのでは? と思われるかも知れませんが、私にとってそれは傷痕をグリグリ抉るような行為です。


 以前、何度か別の小説投稿サイトで自分の障害や病気についてのエッセイを書いたことはあるのですが、約3000~4000文字、それくらいが限界です。


 この作品の中では蓮視点の番外編を書いてみたことがありましたが、3話でも相当キツイものを感じました。彼の視点で連載していたら私の心が持たなかったと思います。



 そして3つ目の理由。これは最近気付きました。


 自由を奪われ続けた過去の自分を救いたかったんだと思います。


 どんな酷い目に遭ったんだと思われそうな表現になってしまいましたが、私がこの身に受けてきたそれが本当に悪意だった場合もあるし、善意だった場合もあると思っています。しかし皮肉なことに、善意が人を追い詰めてしまうこともあるのです。


 中でも怖いのが、意外にも個人が持つ“正義感”なんだと私は思いました。だって本人はそれが正しいと思って疑いませんから、躊躇ちゅうちょもせず人に押し付けてしまうこともあるのです。そして従わなければ悪と見なす。使い方によっては凶器になるのだと今でも思っています。


 ただ、私が傷付けてきた人もきっと沢山いるに違いない、そう確信しています。私を支えようとしてくれた人たちも大変な思いをしただろうと。


 むしろ周りの人たちの気持ちを考えれば考える程、全てを人のせいには出来なくなって、もっと上手く生きられなかったのだろうか……と、つい自分を責める思考になってしまいます。では私はどうすれば良かったのか。いつ、何処で、誰に助けを求めれば良かったのか。そんな疑問もわいてきて胸がきゅうっと苦しくなるのです。


 あまり過去を詳細に話すと私のトラウマがフラッシュバックする可能性があるので控えますが、そんな報われない過去の自分に何かしてやれることはないかと無意識のうちに考えたのかも知れないと思うのです。


 そして、きっと私も葉月ちゃんに包み込んでもらいたかったのでしょう。蓮は私のインナーチャイルドなのかも知れませんね。



 置き去りにしたまま無理矢理忘れようとした気持ち。今からでもいい、助けてくれって叫んでいるのかも知れません。私はそうなる前に、出来るだけ早く救われるような、打ち明けやすいような世の中になってほしいと願います。


 私は専門家ではないので役に立つアドバイスみたいなことは出来ないけれど、こういう現状があるということは発信していける。そんな思いに突き動かされました。


 道徳は必要だけど、感性、特性が人と違うのは何も責められることではないはずなのです。むしろ人というのは何かしら違っているものです。目立つか目立たないかの差だと私は考えます。


 のびのびと生きていける人が増えますように。どうか生まれ持ったものに罪悪感をいだかないで下さい。みんながそれぞれ素晴らしいものを持っています。



 最後は私の個人的な思いを語らせて頂きました。ご覧下さった全ての皆様に改めて感謝申し上げます。今まで応援して下さり、誠にありがとうございました。



 七瀬渚

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あたしが大黒柱 七瀬渚 @nagisa_nanase

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