第30話
「じゃあ、ボーンデッド監督! さっそく指示をお願いします!」
俺はやるなんて一言もいってないのに、サイラはさっそく俺を監督呼ばわりしてきた。
「でもよぉ、こんなゴーレムに監督なんてできんのかよ?」
「でもボーンデッドさんはやさしそうだから……」
「なんだよ!? カリーフ! 俺がやさしくねぇってのか!?」
「きゃあっ!? ご、ごめんなさぁい!」
「岩石女子との練習試合中、穴にこもって分析していたが、ボーンデッドは指導能力が高いと判定した」
シターの一言に、ブソンまでもが賛同してきた。
「うむ、シターの言うとおりだ。我々と組み手をやっている最中も、ボーンデッド殿は助言をくれたのだ。格闘戦における体重移動について、『ミギニ ヨレ』『モット ヒダリ』という風に、内容は短くて非常にシンプルだったが、それがまた的確だったのだ」
いや、岩石乙女のヤツらは何度やっても猪突猛進だったので、つい見かねてアドバイスしただけなんだが……。
それに、俺は『ネフィラ・クラヴァータ』と戦えればいいんであって、監督までやるつもりは……。
しかしその強豪校のリーダーの一言が、強力な後押しとなってしまった。
「そうなんだ! ブソンちゃんとカリーフちゃんがそう言うならバッチリだね! お願いしまーすっ! ボーンデッド監督!」
「……しょうがねぇなあ、そんじゃ、まずはお試し期間ってことで! よろしく頼むぜボーンデッド監督!」
「よ、よろしくお願いいたします、ボーンデッド監督!」
「よろしく監督」
元気なサイラ、あっけらかんとしたラビア、緊張気味のカリーフ、淡々としたシター……母大のメンバーから、揃って頭を下げられてしまった。
……ボーンデッドのコクピットのメインモニターには今、女子高生のつむじが4つ見えている。
その隣にある聖堂院を写しているサブモニターには、ボーンデッドの手作り像に向かって頭を下げる嫁たちがいた。
……そのふたつが妙に、ダブって見えやがる。
ああ、もうっ、しょうがねぇな……!
『カマワン』
浮かび上がった四文字に、黄色い声が弾けた。
「……キャーッ! やったぁーっ! ボーンデッドさん、監督やってくれるって!」
「やったな! おいっ、たるんだ監督したら承知しねえからな! しっかりやれよ!」
「これであたしも、みんなのために強くなれるかなぁ……」
「一件落着、万事解決」
もう大会に優勝したみたいに喜ぶ母大メンバー。
その姿は俺に、ますます嫁たち……特にララニーを思い出させた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
さっそく作戦指示をしてほしいということになったので、俺はまず、元々の作戦の意図について彼女らに尋ねることにした。
たしかさっきの練習試合では、ラビアが砂塵魔法で煙幕のようなものを作ったあと、カリーフとともに特攻。
カリーフは己を石化する魔法で敵機体の動きを封じていたのに、ラビアは全然別のヤツに殴りかかっていってKOされてた。
リーダーのサイラは地震魔法の振動を利用して踊ってばかりで、シターに至っては魔法で穴を掘り、その中に籠もる始末だった。
正直、メルカバトルというよりもおのおのが好き勝手に遊んでいるようにしか見えなかった。
カリーフの動きを封じる抱きつきが、唯一の有効手といったところか。
しかしせっかく動きを止めているというのに、相手に怒られると怖くなってすぐに離してしまうという。それじゃ意味ねぇな。
ちなみに開幕のラビアの砂埃については、煙幕のつもりではなく景気づけらしい。
肝心のキャプテンであるサイラは指示を出す役割なのだが、ついでに踊ってみんなを鼓舞していたらしい。
シターは穴を掘って安全地帯を確保し、その中で戦況を観察して分析する役割なんだそうだ。
……部員たちの敗戦の言い分を聞いている最中、俺はひどい偏頭痛に悩まされていた。
魔法という強力な武器があるにもかかわらず、これほどまでに役立たずな運用ができるとは……!
猪突猛進な岩石乙女のヤツらもアレだが、メルカヴァ自体にパワーがあるから作戦としては噛み合っている。ちょっと単純すぎるような気もするが。
しかしコイツらの作戦は、使える魔法とてんで噛み合っていない……!
そりゃ万年最下位なのも頷けるわ……!
俺は少し考えた後、新たなる作戦を部員たちに授けることにした。
4文字2行のテキストチャットではとても賄いきれるものではなかったので、しゃがみこんで地面に指先で書いて伝えた。
同じくしゃがみこんで聞いていた少女たちは、俺の作戦に半信半疑のようだった。
特にラビアが最後まで抵抗したが、サイラの提案で試しにやってみようということなった。
相手は先ほどと同じく、岩石乙女のメンバーたち。
こんな弱小高の練習にいつまでも付き合ってくれるとは余裕があるなと思ったが、予選敗退してしまったのでヒマらしい。
そして俺の作戦は強豪校相手に、見事なまでに噛み合って作用した。
なんと岩石乙女の一軍相手に圧勝したのだ。
もちろん俺は手を出さずに見ているだけだったので、完全に彼女たちが掴み取った勝利。
練習試合とはいえ今朝ボコボコにやられていた相手にやり返せたものだから、その喜びはすさまじいものだった。
がっくりと膝をつく一軍メンバーの前で、お祭り騒ぎの部員たち。
ブソンは地面をダンダン叩いて悔しがっていた。
「な、なんということだ……! 万年最下位といわれた母大に、二度も……それもほぼ完封に近い形で敗れるとは……! 一度目はボーンデッド殿1機に、二度目はボーンデッド殿の作戦によって……! ああっ、ボーンデッド殿……! なんとしても我が岩石乙女に欲しい……!」
そう言って顔をあげたブソンは、名将に憧れる若き侍のように心酔しきっていた。
なんか懐かれちまったような気がする……。
悪い気はしねぇけど、グイグイ系でなんか怖え。
でもまあそろそろお別れの時間だ。
二回もの練習試合を経て、空がオレンジ色になりつつある。
いい加減帰ってくれるだろうと思っていたのだが……ブソンは微塵もそんな気はないようだった。
「よし! 腹も空いてきたし、そろそろ飯にするとしようか! 我が岩石乙女名物の『岩石ちゃんこ鍋』を、お前たちにも振る舞おう!」
堅そうなちゃんこ鍋だな……! それに、まだ居座る気かよ……!
なんて感想を抱いたのは俺だけだったようだ。
「ホント!? ブソンちゃん!? わーい! お鍋大好き!」
「いいのか!? うちの部、料理できるヤツがいなくってさー! 大会中はロクなもん食えねぇって覚悟してたんだ!」
「ありがとうございます! とっても嬉しいですぅ!」
「戦力不足と監督不足、それどころか栄養不足も解消できた」
ブソンにホイホイとついていく部員たち。
まぁ、別にいいか、俺は俺でここでメシを作って……と思っていたら、ブソンは番兵のように待ったをかけた。
「ただし、ボーンデッド殿も一緒だ! ボーンデッド殿も連れて来るように!」
そう言うなり、その場を一歩も動かなくなるブソン。
すぐさまラビアが異議を申し立てた。
「なんでだよ? ボーンデッドはゴーレムだから、メシなんて食わねぇだろ?」
いや、食うけどね。
「ボーンデッド殿に食事の助言を頂きたいのだ。メルカヴァ乗りは身体が資本だからな」
「食わねぇヤツが、アドバイスなんてできんのかぁ?」
「いや、きっとできる! 我らがボーンデッド殿は、そのくらい造作もないこと!」
なんだその『我がボーンデッド』って。『わが闘争』みたいに言うな。
「しょうがねぇなぁ……おい、ボーンデッド! お前、ずいぶん気に入られちまったみてぇだぞ! 俺たちはちゃんこが食いたいから、一緒に来いよ!」
しょうがねぇ、はこっちの台詞だよ……。
渋っていると、母大のメンバーどころか岩石乙女のメンバーまで足元にやってきてウンウン言いながらボーンデッドの脚を押し出したので、仕方なくお呼ばれすることにした。
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