第135話 三人娘に囲まれて

 異世界生活二十一日目。


「……という事があったんです」

「成程ね。色々大変だったみたいね」


 こうして、俺はこれまでのことを大雑把にだがエリゼ院長に語り終えた。


 朝、セプトの経過観察をしていた所、付けられた器具が予定より早く交換の兆しを見せ始めたため、朝食を食べてすぐに教会を訪ねてきたのだ。流石に急ぎという事もあって、都市長さんの雲羊を借り受けることに。


 ただジューネは別件で動けないので運転はどうしようかと思ったが、エプリが簡単になら出来ると言ってきたので頼むことにした。ずっとジューネのやり方を見ていて覚えたらしいが、普通そんなに早く覚えられたっけ?


 そして簡単なセプトの診察も済み、確認のためにこれまであったことを話すことになって今に至る。


 その間セプトは用意された菓子を摘まみながら、シスター三人娘に囲まれて何やら話し込んでいた。仲が良いのは結構だけど、また変なことを教えられてないだろうな?


 エプリは……さっきまで三人娘と話していたようだけど、今度はどうやらバルガスと何か話しているようだ。もうすぐ退院という事らしく、バルガスもすっかり元気になっている。


 そこそこ話も弾んでいる……というより、主にバルガスが話しかけてエプリがそれに答えると言った感じか? 傭兵と冒険者という事で、共通の話題でもあるのかね?


 と言っても時々こちらの方をエプリがチラチラと見ているようなので、護衛としての仕事もしっかり務めているみたいだ。ここではあまり危険はなさそうだけどな。


「聞いた感じでは別段器具に影響を与えるような出来事もなさそうだし、セプトちゃん自身にも問題は見られなかったわ。……やはり私の見立てよりセプトちゃんの魔力量が多かったことが原因みたいね」

「そうですか。でも器具も確認したし、あと三日位で身体に埋め込まれた魔石も外れるんですよね? 良かった」


 魔力量が多いこと自体は悪いことじゃないはずだし、つまるところデメリットと言えば器具に付けられた魔石の交換が頻繁になっただけ。


 それもこれまでのペースを考えると、あと三日くらいなら余裕で保つはずだ。それくらいなら特に問題はないのでホッと胸をなでおろす。


「約三日ね。三日経っても自然に外れるまでは出来る限り触らないで。多少身体から外れ始めているとは言え、まだ無理に取ったら危ないという事に変わりはないから」

「分かりました。セプトにもよく言い聞かせておきます」

「お願いね。……じゃあ今度はセプトちゃん本人にもお話を聞きたいのだけど、トキヒサくんは時間の方は大丈夫? 今は時間が無いという事であれば後日また来てもらっても良いけど」

「時間は…………大丈夫です。約束までまだ結構余裕が有りますから」


 今日はこのあと、昼食を食べてからジューネと一緒にイザスタさんの魔石の一部を売りに行く約束をしている。それが終わったらアシュさんとヒースの鍛錬の手伝い。時間が余ったらまた資源回収で、夕食後には文字の勉強会もある。


 最近やることが多くなってきたな。まあずっと都市長さんの屋敷で食っちゃ寝しているよりは張り合いがあるし、頼まれているヒースのことにも少しずつ迫れている感じがあるしな。


「分かったわ。じゃあ……セプトちゃん! 少しこちらでお話を聞かせてくれないかしら?」

「うん。分かった」


 セプトがエリゼさんの呼びかけを聞き、三人娘と別れてこちらに歩いてくる。


「トキヒサくんはどうする? 少し時間がかかると思うけどここで待ってる? それとも一度外に出る?」

「そうですねぇ。別に外に出る必要も今はないですし、ここで待ってます」


 時間がかかると言っても俺の時みたいに二、三十分くらいだろう。そのくらいなら待つのは特に問題ない。セプトも無表情に見えるが、自身の身体のことだから多少不安になっているだろうしな。


「じゃあ、ちょっと付き合ってもらえますか?」

「そうそう。色々と聞きたいこともあるもんね」

「ぜひ……お願いします」


 うおっ!? その言葉と共に、シスター三人娘に両腕と服を掴まれた。えっ!? えっ!? 十代半ばくらいの見た目に反してかなり力が強い。


「エリゼ院長。トキヒサさんも待っている間お暇でしょうから、暇つぶしにちょっとお話しててもよろしいですか?」

「貴女達ったら……まったく。トキヒサくんはそれで良い? 嫌ならすぐにでもやめさせるけど」

「いえ。ちょっと驚いたけど、別にこれくらいなら良いですよ。セプトはそれで良いか? 横に立っていた方が良いか?」

「うん。大丈夫」

「では決まりね。じゃあトキヒサさん。ちょ~っとこちらに」


 セプトがこくりと頷くと、三人娘にそのまま部屋の隅まで引っ張られる。別に害意も悪意もなさそうだけど、普通に歩けるんで連行しないでほしいな。そしてこんな時に限ってエプリは知らん顔。ちょっと護衛さ~ん!?


「ふふふ。さ~て。もう逃げられませんよ」

「洗いざらいぶちまけてもらっちゃうよっ!」

「観念して……話してください」

「……何か俺やらかしましたっけ?」


 壁際に追い込まれ、お話というよりも尋問に近いこの雰囲気。しかもうまいこと三人で視界を遮っているから周りからはこちらが見えない。まさしく死地って奴だ。しかしどうにも俺にはこうまでされる心当たりがない。


「別に何かやらかしたという事はありませんよ。……むしろやらかしてくれた方が面白そうというか」


 なんのこっちゃ? 


「もう。ここまで言ってもわっかんないかなぁ。……セプトちゃんのことどう思ってんのかって聞いてんの」

「とても……気になります」

「へっ!? セプトはその、妹みたいに思ってますよ」

「「「本当に~?」」」


 本当だとも。確かに以前はいきなり寝起きにしがみついてこられたり、あどけないというかだらしない格好を見せられたりで多少ドキドキはしたけどな。


 考えてみれば陽菜の小さい頃も結構こんなことあったし、最近ではセプトもあんまりしなくなった。慣れてしまえばどうという事も無いのだよっ!!


「セプトちゃんは本当にトキヒサさんのことが好きなんですよ。前の時もさっきも、お喋りの話題は大半がトキヒサさんに関することばかりで、もう何なのこの子? どこまで私をキュン死にさせたいのって感じなんですよ!」

「そうそう。最初に見た時は隷属の首輪を着けていたし、もしかしたら無理やりひどいことをされてるんじゃないかって思ったんだよねぇ。だからちょこちょこ話をしてみたんだけど、全然そんなことなかったよ」

「はい。身体に怪我も……なさそうでしたし。トキヒサさんのこと……慕っているのは嘘じゃない……と、思います」


 その後も三人娘にセプトのことについて次から次へと語り聞かされた。女三人寄れば姦しいというけれどまさにそれだ。


 どうやらこの三人娘は、俺がセプトのことをどう扱っているか知りたかったらしい。確かにまだ十一歳の子供に隷属の首輪、しかも強制的に言う事を聞かせられるレベルの強力な奴が付いているというのはただ事ではない。


 だからまずは外堀であるジューネと仲良くなって訊ね、それからエプリ、セプトと段階を踏み、最後に俺に直接聞きに来たという事らしい。セプトを心配してという事なら話さない理由もない。俺は三人の質問に出来る限り答えていった。


 ……途中恋バナは乙女の栄養剤だとか、やはり頑張っているヒトを手助けするのはサイコーだとか、妙な言葉がチラホラ聞こえたような気がするが気にしない。気にしてはいけない類の気がする。





「トキヒサくん。セプトちゃんへの質問が終わりましたよ」


 セプトの問診が終わってエリゼ院長に呼ばれた時、三人娘の質問から逃れられて心の中でちょっとホッとしていたのは内緒だ。少しだけ意識が飛びかけていた気もするしな。


「セプト。エリゼさんの話はどうだった?」

「うん。色々、聞かれた。正直に話したけど、ダメだった?」

「ダメなもんか。正直に話して良いんだよ」


 セプトがほんの僅かにだけ不安そうな顔を見せたので、心配ないというように軽く頭を撫でる。するとすぐに不安そうな顔が納まり、むしろ自分から手に頭をこすりつけるような仕草をする。


 それを見て何やらまた三人娘がざわついているが……見なかったことにしよう。


 エプリも終わったことを察知したようで、バルガスから離れてこちらへやってくる。そう言えば結局何を話していたんだろうか? ……こっちも気になるが今はセプトの方だ。


「はい。セプトちゃんにも話を聞いたけど、やはり問題はないみたいね。このままの調子でいけばやはり三日くらいで魔石も外れると思います」

「そうですか。良かった。もう少しの辛抱だぞセプト」

「うん」


 という事でセプトの診察が終わり、俺達は帰ることになったのだが。


「…………あっ!? そう言えば忘れてた」


 以前アンリエッタにも言われていたけど、七神教についてエリゼさんから聞くんだった。時計で時間を確認すると、移動時間を考えると猶予は大体十分くらいか。この際だから少し聞いてみるとしようか。

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