第69話(半ば捨て身の)同盟成立
「という事があって戻ってきたんだ」
『そうなんだ……って!? 早すぎるよ! 予定は十日後のはずだったじゃないか』
そういうマコアの少し焦ったような声が俺の頭の中に響き渡ってくる。まあそれもそうだよな。さっきダンジョンを抜けてからまだ四時間も経っていないのだから。本来の予定なら町まで辿り着くのにおよそ四、五時間。今早ければやっと町に着いて交渉を始めたかもしれないといった頃だ。そのまますぐに終わってとんぼ返りしたとしても、まだもうしばらく戻れない計算だな。
「まあ予定は未定ってよく言うじゃないか。遅くなったんならともかく早くなったんだから許してくれよ」
ここはダンジョンの一階の途中。入口から入って十分ほど歩いたところにある部屋の一つだ。俺達は入ってすぐに、予め決めておいた合印である白い布を頼りにマコアの制御下にあるスケルトンを見つけ出し、ここまで案内をしてもらったという訳だ。
勿論こちらも合印である黒い布を忘れずに身に着けている。この状態で襲ってくるようであればまだ制御下にないスケルトンという事だから、安心して反撃が出来る。幸いと言うか何というか出なかったが。
『それに、戦力を連れてくるっていう話だったけど…………すぐに集まりすぎじゃない?』
「そうかな? それを言ったらそっちだってそうじゃないか?」
この部屋は他の部屋に比べてやや広い。しかしそれでもなお、この部屋の半分近くはすでに埋まっていた。なんせ、俺達と調査隊の皆さん。そしてマコアが制御下に置いたスケルトン達。全て合わせて五十近くの大所帯だ。ダンジョンでこの数はいささか動きづらい。
ちなみに内訳だが、まず俺とエプリとボジョ。ボジョは俺の服の中に入り込んでいるので、そこまで場所はとっていないから実質二人だ。
次にゴッチ隊長率いる調査隊の面々。こちらは全員来ているのではなく、およそ半分と少しの二十人だ。残り十数人は拠点防衛の人員や非戦闘員なので来ていない。ゴッチ隊長によると探索が一段落したら一度帰還し、拠点に戻った人員と交代することで探索を継続するらしい。
戦力の逐次投入は戦いにおいて下策とされるが、ローテーションを組んでいるのなら長期的に見ればそこまで悪い手でもなさそうな気がする。それに今は拠点にアシュさんもいるしな。守りは少なめでも大丈夫だろう。
最後にマコアが従えているスケルトン達。それがメンバーの中で最も数を占めていて、なんと二十体以上の集団だ。ここを出る時は七体だけだったのに、今やその三倍以上に増えている。何がどうしてこうなった?
「…………別れた時よりもスケルトンが大分増えているわね。どうやったの?」
『地道に増やしただけだよ。少しはボクの力も戻ってきたからね。スケルトン達のいる大体の場所は分かるようになったから、あとは制御下にあるスケルトンを二、三体ずつ手分けして連れてこさせればいい。そうして増えたスケルトンにまた別のスケルトンをという風に繰り返したんだ」
そうか。それでここまで…………って!? 今マコアは制御下にあるスケルトンの一体が持っているのに、こちらに声が聞こえてきたぞ。俺だけでなくてエプリにも聞こえているようで、声に反応してうんうんと頷いている。これもマコアの力が戻ったからかな?
「事情は分かった。だけど…………あっちはどうにかならないか?」
俺の視線の先には、
「スケルトンがこんなに!? 油断するなよ」
「分かってる。いつ襲い掛かってきても大丈夫なように準備しているぞ」
「隊長っ! 本当に大丈夫なんですか!?」
調査隊の皆さんがスケルトン達と対峙するように向かい合っている。スケルトン達は整列して身動き一つしていないものの、手に手に武器を持ったままだから急に動き出したらちょっと怖い。
『しょうがないじゃないか。最初に見た時はまた侵入者かと思って警戒していたんだから。合印が無かったら罠のある部屋に誘い込んで痛い目に合わせていたよ』
言い方が柔らかいのは一応こちらを慮ってのことだろう。この中のことを知り尽くしている訳だからな。どこをどうすれば罠のある部屋に誘導できるかも熟知しているという事か。……まあ
「失礼。少しよろしいですか」
そんな危ない状況で、マコアに近づいていく影が。……ゴッチ隊長だ。その動きに反応して、スケルトン達が数体マコアを護るように前に出る。近づいてくる者に対しては自動的に反応するように命令されているようだ。それに伴って他のスケルトン達も一斉にそちらの方に顔を向ける。
当然調査隊の人達も黙ってはいない。各自武器を抜いてはいないものの、いつでも使えるように各自で構えている。マズイ。ここでゴッチ隊長なりマコアなりが何か妙な動きをしたら、それだけでここは戦場と化しかねない。
「……お初にお目にかかります。私はゴッチ・ブルーク。このダンジョンの調査するための隊を若輩ながら任されたものです。貴方がダンジョンコアのマコア殿でよろしかったでしょうか?」
『マコア?』
マコアはその名前を聞いてよく分からないというように繰り返す。そういえばまだ伝えてなかった。
「お前の呼び名だよ。ダンジョンコアだけだと乗っ取った方と区別しづらいからな。前のコアを縮めてマコア。……嫌だったら別のを考えるけどどうする?」
『ボクの……名前? 今まではマスターと二人だけだったから要らなかったけど、確かに必要かもしれないね。……マコア、マコアか…………なんか新鮮だね』
どうやら気に入らないっていう反応ではなさそうでホッとした。
「マコア殿。お話はアシュ先生方から伺いました。私共の目的とマコア殿の目的は途中までは交わっていると思われるのですが、如何でしょうか?」
『そうだね。そっちはボクがいれば調査が楽に進められる。こっちは戦力が増えるから奴の所まで辿り着く可能性が上がる。最終的には敵対するかもしれないけどね』
その言葉に調査隊の人達がますます殺気立つ。マコア頼むからもうちょっと言葉を選んでくれ!
「こちらとしても、今のダンジョンマスターが話に聞くような得体のしれない相手と言うのは看過出来ません。このダンジョンは最寄りの町からもそれなりに近い距離にあります。すぐにどうこうということにはならないでしょうが、放っておく訳にもいきません。どうかここはご助力を願えませんか?」
ゴッチさんはそう言うと、マコアに向かって深々と頭を下げる。それを見た調査隊の人達は口々に不満の声をあげるが、隊長はそれらを手で制する。
『…………頭を上げてよ。本当ならこちらからお願いしたいことなんだから』
ガシャリと音がしたのでそちらを向くと、それは整列していたスケルトン達が一斉に片膝をついた音だった。そのまま武器を床に置いて首を垂れる。ゴッチ隊長の前に立ちふさがっていたスケルトン達も同様だ。マコアを持っているスケルトンだけは立ったままだが、首から下げていたマコアの入った袋を外すとそのままゴッチ隊長の前にやってきて差し出す。
「……これは、どういう…………」
『そっちはボクをまだ信用できないのでしょう? 信用しきれないのはボクも同じだけど、互いにそれじゃあ困るんだ。ならどっちかが妥協するしかない。だから…………
「なっ!?」
ゴッチ隊長はとても驚いた顔でマコアと差し出しているスケルトンを交互に見る。それはそうだ。今マコアは非常に危険な状況にある。仮に一つ間違えば、マコアはそのまま砕かれることだってあり得るのだ。そうでなくてもこのまま袋を貰った時点でダンジョンの外に出るという選択肢もある。それだけでゴッチ隊長は大金を得ることが出来るだろう。調査隊の人達と分けてもかなりの額になるはずだ。なにせ小さくても人一人が十年は遊んで暮らせる額だからな。
『これからボクの身柄をゴッチに預ける。出来れば恩が有るからトキヒサが良いんだけど、ここは譲歩しようか。ボクが望みを果たしたその時は好きにしてくれて構わない。ボクが途中で裏切りそうだと思ったらそのまま砕いてしまえば良い。ただし、もしそのまま外に持ち出そうとすれば…………』
その瞬間、膝をついていたスケルトン達が一斉に武器を持って立ち上がる。調査隊の人達が攻撃しなかったのは、ひとえにマコアの声にそれなりの覚悟と凄みを感じ取ったためだった。
『ボクも出来る限り抵抗する。このダンジョンで死んだヒトはまだいないけど、その初めての誰かが出ることは覚悟してほしい』
「…………肝に銘じます」
ひりつくような雰囲気の中、ゴッチ隊長はそう言って恭しくマコアの入った袋を受け取った。表面上は何でもないように受け取っているが、その頬には一筋の汗が流れ落ちている。
ゴッチ隊長もおそらく分かっているのだろう。今マコアが言った言葉に嘘はないと。下手に持ち出そうとすれば、この場のスケルトン達が確実に襲い掛かってくる。スケルトン一体一体はそこまで強くないが、こんな密集した場所での乱戦となれば不測の事態が起きてもおかしくはない。
『よろしい。……じゃあ今からボク達は同盟者だ。よろしく頼むよ』
「こちらこそ」
その二人(?)の言葉と共にひりついていた雰囲気が霧散する。互いにまだ信用したわけではないけれど、歩み寄るための第一歩と言ったところだろうか。このまま上手く行けば良いんだが。
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