第47話 箱の中身は幸運と呪い

 まず、貯金箱で査定する前にもう一度箱のことを自分でも調べてみる。まず大きさは一辺十センチ程度の正六面体。簡単に言えばデカいサイコロのような形だ。どうやら木製のようだけど、大分古ぼけて全体的に黒ずんでいる。大きさの割にはそこそこの重さがあり、振るとカラカラ音がすることから何か中に入っているようだ。


「やはりいくら探しても開ける場所は無いか」


 ひとしきり調べてみるも、どこにも出っ張りや引っ掛けるところなどは見当たらない。そりゃジューネが見つけられなかったぐらいだから簡単には見つからないか。いっそのこと箱を壊して中身を取り出そうかとも思ったが、下手に壊したら中身もただじゃすまない気がするので厄介だ。


「よし。今こそ出番だ貯金箱! 『査定開始』」


 俺は問題の箱を地面に置くと、さっそく貯金箱から出る光を箱に浴びせる。さてさて、これで何か情報が出てくれば良いのだけど……。



 多重属性の仕掛箱(内容物有り)

 査定額 一万デン+???

 内訳

 多重属性の仕掛箱 一万デン

 ??? ???



 ………………何これ? 箱の値段もびっくりだけど、中身が???ってどういう事だ? 初めての表記に少しとまどう。色々ツッコミどころの多い査定結果になったな。それにしても、多重属性の仕掛箱か。


「…………うんっ!?」


 箱を様々な方向から見ていると、それぞれの面の模様が異なっているのに気が付いた。黒ずんで分かりにくいが、何か彫り込んであるようだ。

 何だろう? 明かりをつけようとするが、皆が寝ているところにそれはマズイ。特にエプリをまた起こすのは気がひける。仕方がないので、少しでも明るいところで見ようと箱を焚き火に近づける。


「なんだろなぁ。動物? いや、モンスターの一種か? 何かを吐いているような図だけど……ってアチッ!?」


 うっかり火に近づけすぎてしまったのか、火の粉が飛んできて手に当たる。慌てて立ち上がった拍子に、箱を焚き火の中に落っことしてしまった。


「ゲッ!? 早く取らないと。……アチチッ」


 困ったことに焚き火の中心辺りに入り込んでしまって、取るのに苦戦する俺。悪戦苦闘しながらなんとか取り出すことに成功する。


「すっかりこんがり焼けちゃ…………ってもないな」


 焚き火の中にしばらく在ったはずなのに、その箱にはまるで焦げた様子は見られなかった。どうやらただの木製の箱ではないらしい。まあ一万デンもする特別な箱なのだから、それなりに頑丈なのは予想できたけどな。しかしこれで破壊するという最終手段はとれなくなった訳だ。


「見かけより結構頑丈だな。しかしどうしたもの……って、なんか形が変わってるな」


 よく見れば、ある一面だけ出っ張りが出来ている。その出っ張りも色々調べてみるが、別にここを押したり引っ張ったりしても箱に変化はなさそうだ。しかしどうしてこうなった? そうこうしている内に、いつの間にか出っ張りが引っ込んでしまった。……まさか焚き火にまた放り込んだら形が変わったりしないかな? 


 物は試しと再び焚き火の中に放り込んでみると、またもや同じように出っ張りが出現する。しかしいちいち焚き火に放り込むなんて実に面倒くさい。……待てよ!? たしかの仕掛箱って名前だったよな。ということはつまり……。


「……水よここに集え。“水球ウォーターボール”」


 箱を床に置くと、以前イザスタさんがやったように、水属性の初歩の魔法で小さな水玉を作り出して箱にぶつける。俺の予想が正しければ…………やっぱり!! 箱の別の一面。先ほどの出っ張りの反対側にまた出っ張りが出来る。成程な。これはするんだ。

 この焚き火の種火は、俺が火属性の魔法で作ったものだ。その中に箱を放り込んだことで反応した。そして多重属性の仕掛箱という名称。そこから考えると、これは何かの属性に反応するのではないか? それも多重と言うくらいだからいくつもの属性に。そう思い試しに水属性を打ち込んでみたらドンピシャリだ。


「よし。なら他の属性も打ち込んだらどうなるかな?」


 そうして他の土、風、光属性の初歩の魔法を打ち込む。その結果、


「…………開いた」


 一つの属性の魔法を打ち込む度にそれぞれの面から出っ張りが増えていき、五つ目の光属性を打ち込むと同時に、カシャリという音を立てて最後まで何もなかった面が僅かにスライドする。その部分に指をかけると、簡単にその面がパカリと外れた。ここが蓋だったらしい。


「………………うおおおっ!!」


 俺は周りの人を起こさないように静かにガッツポーズを決める。よっしゃ。開いたぞ。やはりこういうパズルとか謎とかは解けた時はすごくスッキリする。…………まあ名前というヒントが有ったからすぐに解けたわけだけどな。全部自力じゃないのが少し残念な気もするが、それでも嬉しいもんは嬉しい。俺はこの快挙をたっぷり数分余韻に浸り…………中に何が入っていたのか確かめるのを忘れていたことに気が付いた。





「さて、中に何が入っているのかなっと!」


 俺は期待と共に箱を手に取って中を覗き込んだ。そこに入っていたのは、


「…………何だこりゃ? 指輪と……何かの羽?」


 そこに入っていたのは、紫色の宝石がはまったきれいな指輪と、真っ青な鳥の羽のようなものだった。二つを箱から取り出してしげしげと眺める。


 指輪はリングの部分にも凝った装飾が施されていて、あまりこういう物に詳しくない俺でも一目で良い品だと分かる。しかし、気のせいか宝石の輝きが何か濁っている気がする。羽はずっと箱の中に入っていたのにも関わらず、まだふさふさとした心地よい手触りがある。大きさは五、六センチと言ったところか。これがもし鳥の羽だとするなら、あまり大きな鳥の物ではなさそうだ。


「よく分からない物が出てきたけど、これだけ大事にされていたのなら良い物なのかね?」


 あの箱を開けるのは意外に難しいと思う。開け方をまず知らないとどうにもならないし、無理やり壊せば中の物も無事では済まない。そして厄介なのは、という点だ。この箱を開けるには、おそらく土水火風光の五つの属性の魔法を打ち込む必要がある。俺は“適性昇華”の加護があったから何とか一人で開けられたが、普通は一人につき使える属性は一つか二つ。誰か仲間が居ないと手が足りない。


「一応これも査定して見るか。『査定開始』」


 ?の部分が気になったので、箱から出した状態でもう一度査定する。今度はもう少しはっきりと分かれば良いんだが。



 闇夜の指輪(破滅の呪い特大) 二十万デン

 |幸運を呼ぶフォーチュン青い鳥ブルーバードの羽 三万デン

 


 ……………………なんじゃこりゃあぁっ!? 俺は目をよ~くこすってもう一度見る。…………もう一度言おう。なんじゃこりゃあぁっ!? 


 幸運を呼ぶ青い鳥の羽。まだこれは分かる。羽一枚で三万デンってウソ~んという気持ちはあるけどそこは置いておこう。それよりも闇夜の指輪。問題なのはこっちの方だ。俺はそ~っと指輪を直接触らないように布で包み、そのまま残像が見えるんじゃないのって速さ(体感)で箱に戻した。


 …………見なかったことにしたい。だってそうだろ!? さあお宝だと勢い込んで開けてみれば、出てきたのはこれだよっ! なにが悲しくて破滅の呪い特大なんて物騒なモノの付いた指輪を持ってなくてはならんのだ。しかし問題なのは、という事だ。二十万デン。日本円に直せば二百万円である。こんな状態でも高値が付くってことは、呪いが無かったらもっと物凄い値がついてもおかしくない。確実にお宝である。だから個人的にはこんなものどっかにポイ捨てしたいところだけど、値段を考えると捨てるに捨てられない。


「………………しょうがない。朝になったら皆に相談するか。ジューネなら何か知っているかもしれない」


 一度この箱を手に入れた時の経緯を聞いてみた方が良さそうだ。もしかしたら呪いのことが何か分かるかもしれない。


 ひとまず青い鳥の羽も元のように箱に納める。わざわざ一緒に入っていたのは何か意味があるという可能性も十分にある。箱は外れていた面をはめ直すと、再び全ての面の出っ張りが引っ込んで元のようになった。オートロックとは凝っている。そういうところも箱自体がそれなりの値段する理由かもしれない。


 本当ならまとめて換金してしまった方が良いのかもしれないが、下手に呪いなんかかかった物を換金したらどうなることか。アンリエッタは一応女神だから効かないとは思うが、それでも呪いのかかった物を送られたら気分は良くはないだろう。下手をすると向こうから怒鳴り込んでくる危険性がある。よくもこんな物を送り付けてくれたわねって。なのでひとまずは手元にもっていないといけないようだ。…………持っていたくないなぁ。


 そうして俺は、次の見張りであるエプリを起こす時間まで、時々物騒な物の入った箱をチラチラと見ながら焚き火の番と見張りを続けるのだった。

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