23話 ときめき……ときめき!?
「どいて! どいてくださいー!」
校舎の向こうから、息せき切ってアンリ先生が駆けてきた。
「大丈夫か」
「う、う……」
アンリ先生に抱き起こされたオクタヴィアンの額には脂汗が浮かんでいる。
そんな彼を、アンリ先生はどなりつけた。
「馬鹿!! こんな無理をして、また悪くなったらどうするんです!?」
「すみません……先生……」
ハァハァと荒い息の下で、オクタヴィアンは答えた。
どうしたんだろう……。そういえばオクタヴィアンは休学していたんだった。
それが関係あるのだろうか。もしかして悪い病気とか……。
「あの……先輩はどうしたんですか?」
俺がアンリ先生に問いかけると、ふうっとため息をつき吐き捨てる様に答えた。
「骨折です」
「……え?」
「演劇部の舞台から落ちて足をポッキリと。それで休学していたんですよ」
「こ、骨折ですの」
「なのにこんな決闘だなんて馬鹿げてる。せっかくくっついた骨がまた折れたらどうするんです!!」
アンリ先生はずいぶんとお冠のようだ。眉根を寄せて真面目な顔をしている。
ただのセクハラ教師じゃなかったんだな。
「すみません……先生。だけど……」
オクタヴィアンはそう言って俺に視線を移した。
「どうしても、どうしてもシャルロットの側に居たかったんです。僕は」
「オクタヴィアン先輩」
馬鹿じゃ無いのかこいつ。骨がくっついたばっかりであんな大立ち回りしたっていうのか……?
俺はダスダスと大きな足音を鳴らしてオクタヴィアンの前に立ちはだかった。
「……?」
「この……あほんだら!」
バチン、と俺はオクタヴィアンの頬をはたいた。
「怪我してるのに決闘だなんて! 側にいたい? いいじゃないか勝手に居れば」
「シャルロット……」
あっ、しまった……。これじゃ王子が決闘に勝ったのにおしゃかになってしまう。
そう思ってレオポルトを見ると、彼はふうとため息をついて、俺とオクタヴィアンの前に跪いた。
「シャルロット、本当にそれでいいんだね」
「……友達としてなら」
「そうか」
そうしてオクタヴィアンを見ると、口を開いた。
「オクタヴィアン先輩。また体が万全の時に試合しましょう。これでは完全に勝ったとは言えませんからね」
「王子……」
「楽しかったです。久し振りに手応えのある相手と手合わせした」
そう言って、俺の手を引いて王子は立ち上がった。
「アンリ先生、先輩は頼みます。では我々はこれで」
そうして俺とレオポルトは広場を後にした。
「レオポルト王子!」
「なんだいシャルロット」
「ホントに……良かったの、かしら」
「……いいんだよ」
俺に背中を向けたまま、レオポルトはそう言った。
そして振り返っていつもの甘い微笑みを俺に向ける。
「私はシャルロットが笑顔なのが一番だ」
「……王子」
そのキラキラした笑顔に、思わず俺の心臓がドキッとする。
う、うわぁあぁあああ!! これは誤作動! お、王子の顔が良すぎるせいだから!
「でも、そうだな。少しご褒美を貰ってもいいかな」
「ご褒美?」
「私のことをレオって呼んでくれ。……今だけでいいから」
「ええっ……」
なにそれハズい! 嫌でもしかし……今回王子には一歩譲ってもらった訳だし……。
「どうだいシャルロット……」
「……」
「シャルロット?」
「……レ」
俺の心臓が耳に移動したみたいにバクバク言っている。
なんでこんなに緊張するんだ! 行け! 一気にいったれ!
「……レオ」
それは本当に蚊の泣くような声しか出なかった。
だけどそれを聞いたレオポルトの顔に笑顔がパアアッと花の咲くように広がった。
「ありがとう、シャルロット」
「どうも……」
恥ずかしくてまともにレオポルトの顔が見れない。
「うれしいよ」
そんな俺をレオポルトはギュッと抱きしめてきた。
こらー! 調子に乗るんじゃない。
「むぐーっ!」
「ははははは!!」
何がおかしいのか王子は笑ってるし!
ああ、絶対これ好感度上がってるよ。
「離してくださいーっ」
俺は無理矢理に王子の腕の中から逃げ出した。
「もう決闘なんてごめんですからね!」
「……うん、分かった。すまない、心配をかけた」
「じゃ! 私は疲れたので部屋に帰ります」
俺はそう言って、王子を置いてけぼりにして寮に戻った。
「……なんで」
寝室のドアにもたれかかって俺は一人で呟く。
「なんでこんなドキドキするんだよ!」
これは、悪役令嬢シャルロットという役割の所為なのか? わっかんないけど!
いくらイケメンっていったって王子は男だぞ! お・と・こ!!
「んあー!」
俺は女の子が好きなんだ! そう柔らかくっていい匂いで優しくて……例えばエマみたいな。
「んっ!?」
俺今何を考えた? 違う違う! エマは王子とくっつけなきゃ駄目なんだって!
「うわぁぁぁぁぁ!!」
「どうしたんですか、お嬢様!?」
俺の叫び声に、いつもは冷静沈着なアンが慌てた声を出した。
「鎮静効果のあるハーブティーです、お嬢様」
「ありがと……」
お茶を淹れてきてくれたアンからカップを受け取って、俺はでっかいため息をついた。
「はぁ……俺……どうなっちゃうんだろう」
窓の外は初夏の緑でいっぱい。爽やかな青空が広がっている。
それとは対照的に、俺の心はぐっちゃぐちゃに混乱で荒れ狂っていた。
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