14話 イベントで親密に
「素晴らしいお茶会でしたわ!」
「ほほほ……それは良かったわ」
俺はどっと襲い来る疲労感をなんとか笑顔の下に押しとどめて取り巻きズたちの手放しの賞賛を受け取っていた。
「良くねーよ……」
そんな俺の背後でうらめしそうな顔をしているディーン。
彼はエマにセクハラ?行為を受けた上に王子に唇を奪われた。今日一番の被害者だ。
「ごめんなさいね。ディーン」
「……ん」
俺がディーンに謝ると、ディーンはむっつりとした顔のまま頷いた。
良かった、そんなに怒っている訳ではなかったみたいだ。
で、あとは肝心の王子の反応なんだけど……。
「いや楽しかった! シャルロット、大したものだ」
うん、満足してくれたみたいだ。
「レオポルト王子、今回の企画の立役者はエマですよ。お褒めの言葉ならば是非彼女に」
「うむ、そうだな。エマ、ありがとう。素敵な天使達の集いだった」
「あっ、あっ、ありがとうございます」
エマは盛大につっかえながら王子になんとか返事をした。これで好感度があがるといいな。
「ではまた!」
「ええ、みなさんもごきげんよう」
なんとかゲスト達を会場から返して俺はほっと息をつく。
「お疲れ様、エマ」
「ええ、喜んでいただけたようでよかったです」
「そうね、王子もそうおっしゃっていたし」
俺がそう言うと、エマの顔がさっと赤くなる。
「え、ええ……本当に……」
お、これはいい傾向なのでは。王様ゲームの時はどうしようかと思ったけど少しはやった甲斐があったかもな。
「これでエマも正式に私たちのお仲間ということね」
「はい……でもいいのでしょうか」
「誰とお友達になるかは私が決めることよ」
ふふん、次はどんなイベントで二人の距離を縮めてやろうか……。
こうしてお茶会はなんとか無事に終わったのだった。
***
「マイア、お茶会が終わったよ。ステータスを出してくれ!」
お風呂から上がってアンからお手入れをしてもらった後、俺は寝室でマイアを呼び出した。
「わかりました」
マイアがさっと手をふると、沢山の透明アクリル板みたいなものが空中に現われる。
「どれどれ、エマの好感度は……」
【エマ】
魅力度:375
好感度:レオポルト 25%
アンリ 52%
ディーン 20%
オクタヴィアン 10%
マリユス 5%
おっ、魅力度が少し上がってる。……でも王子への好感度はそのままか。
あれ? ディーンへの好感度が……もしかしてあの別ゲームで?
「単純すぎるぞ、エマ!」
「悠斗、王子の好感度も見なくては」
「おっ、そうだな」
【レオポルト】
魅力度:1000
好感度:シャルロット 100%
エマ 15%
・・・
エマの下にはずらずらっと女の名前ばかりが並んでいる。
さすがのモテ男だな。くそ。
「15%か……」
「認識の外で表示にも出ない時から比べたらまだマシになりました」
「そっか。やっぱりお茶会やってよかったな。今後もイベントはどんどん入れていこう」
「そうですね。やはり接点が多ければ自然と好感度も上がっていきますから」
目下の俺達の目的はエマの魅力度のアップと王子とエマの間の好感度を上げていくことだ。
「傍目に分かる魅力は強引に底上げしましたから、あとはエマの内面が周囲に伝われば魅力度もこれ以上に上がっていくはずです」
「そうだな」
「それと忘れているかもしれませんが、ちゃんと『悪役令嬢』として振る舞ってくださいよ? 悠斗」
「あー……それ」
いまいち俺には『悪役令嬢』ってのが分からないんだよなぁ……。
「まあ頑張ってみるよ」
「お願いします。定められたキャラの属性を正しく振る舞うことで次元の歪みも押さえられます」
「はぁー、なるほど」
それでマイアは口うるさく言っていたのか。
定められたキャラの属性、か。今日俺のことが好きなはずのディーンがエマとの間に入ってきたのも属性ゆえにってことなんだろか。
「よし、クリアまでに崩壊されちゃかなわないからな。出来るだけやってみるよ」
「……ありがとう、悠斗」
マイアはペコっと頭を下げると、すっと消えていった。
***
「イベント……イベント……」
「どうしましたの?」
「えっ……ああ」
翌朝、俺は朝食を取りながらエマとレオポルト王子の仲を進展させる為のイベントを考えていた。
気が付けばそんな風にぼんやりとしている俺を、取り巻きのカトリーヌが不思議そうに見ていた。
「えっと、何か楽しいイベントごとはないかしらと思って」
華麗なる貴族学校といってもそこは勉学の場。普通にしていてはなかなかストーリーが進展しない気がする。
「気分転換ですか? でしたらショッピングなんていかがでしょう」
「ショッピング……」
そう言われれば俺はこの『ブリリアントキャッスル』の世界に来てから学園の外に出たことがない。
「いいかもしれないわ」
イベントとしては地味だが、学園の外ってのに興味がある。
「では週末に、街に繰り出しましょう。私のお気に入りの小物屋さんを案内しますわ」
カトリーヌがそう言うと、横からグレースとソフィアが口を出した。
「あらずるい。では私は巷で流行りのスイーツを……」
「わたくしは品揃え抜群の本屋さんを!」
「はいはい、ではみんな見て回ることにしましょう」
「「「やったー! 楽しみですわ!」」」
取り巻きズは手放しで喜んだ後、一斉にエマの方を見た。
「エマ、あなたはどうするつもり?」
「えっと……私は……」
エマはきょろきょろと目を泳がせた後、俯いて小さい声で答えた。
「私は行けません」
「あら、どうして?」
エマが行かなきゃこのイベントは無意味なんだけど。
「その……私……お小遣いが無いので……」
「あら……まあ……」
取り巻きズの目に憐れみとそれ以上の蔑みの色が浮かぶ。
「ですから私は行けません。申し訳ありません、シャルロット様」
「そんなもの私が出すわよ」
シャルロットは名家中の名家。実家からふんだんに小遣いを貰っている。
この間のお茶会の予算だってシャルロットが全部出した。
「それはいけません。シャルロット様にはもう十分に良くして戴いています。これ以上迷惑をかけるわけには」
「でも……」
俺はなおも食い下がろうとしたが、その時チャイムがなった。
ああ、いけない。そろそろ授業がはじまる。
「とにかく……あとで話しましょ」
俺はエマにそう言って、教室へと向かった。
(どうしようかな……)
ペンを加えながら、俺は思案する。
今回は王子に嫌われることに集中するってのも一つの手かもしれないけど……。
ショッピングか……むやみにおねだりしてもあいつ喜ぶだけだからな。
「と、いう訳明日はここまでの範囲の小テストをします」
「ええ~」
ぼんやりと俺が授業を聞いていると、先生がそう言って生徒達が不満の声を漏らした。
ふーん、小テストか。
俺も一緒になって「えー」と言いたいところだけど、俺は余裕だ。
なぜならテストは全部マイアが耳元で答えを教えてくれるからだ。
なんでも悪役令嬢たるもの、成績も抜群でなくてはならないから……らしい。
俺も知りもしない隣国の語学なんてまともに勉強する気はないからな。
「では今日の授業はここまで!」
生徒達のため息を後にして語学の授業は終わった。
「はぁ……ソフィア……ノートを貸してちょうだい! お願い」
「しかたないですね。カトリーヌがこないだ見せてくれた絵はがきと交換ならいいわよ」
「うーん、しかたないわね」
テストに自信のないカトリーヌがソフィアにそう交渉をしていた。
それを見て俺はピンときた。
そうか、エマのノートを俺が買い取ればいい。
そのお金でショッピングにいけば万事解決だ!
なんてナイスアイディア。俺は早速寮に戻るとエマを呼びつけることにした。
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