第16話 バール、救援要請をする。

 トロアナに帰還してから一週間。

 俺達は『モルガン冒険社』の拠点の一室にて、情報の共有を行っていた。

 規模からして、俺とロニ、それにデクスローだけで事態を収拾できるとは思えない。


 ならば、ここは顔の広い友人と領主様を巻き込んでしまった方が話は早い。

 それにこの二人は、俺とロニの秘密にしておきたい事情を把握している。


「では、『白き者の行進』はまだ終わっていないということですか?」


 会議場で進行を務めるキャルが、俺達に問う。


「それ自体は終わっているが、そいつを引き起こした元凶がまだどこかにある。各地で変わったことがないか、ギルドを通して調べてもらえないか、キャル」

「そうですね。そういった変化は、ギルドの情報網が拾いやすいですし」


 俺の提案にキャルが頷くと、バーグナー領主であるザガンが小さく手を上げる。


「ギルドを噛ますなら冒険者を使うといい。報酬の支払いはこちらで引き受ける」

「伯爵、貴族名義にすれば勘ぐる奴も出てくる。『モルガン冒険社』名義で依頼を出そう。ありふれた調査依頼だと思わせればいい」

「そうだな。では、そのように頼むよ、キャル君」

「承知いたしました、閣下」


 ギルド公認調査官であるキャルであればこそのスムーズさだ。

 癒着していると思われても仕方ないが、キャルは国王も容認する公式のサポーターである。

 

「どこかでまた『白き者』が出んのか?」

「わからんな。ただ、あれはリードの奴の仕業だった。『コア・ズヴェン』がどんな厄災を引き起こすかは、持ってる奴次第だ」


 クライスの問いに、正確に答えることはできない。

 どこで何が起こるかわかったもんじゃないというのが実情なのだ。


「デクスロー。お前はどうする」

「社長、儂はバールたちと共に行ってよいかの?」

「だろうな。それが固いだろう。いいか? バール」


 クライスの中でこれは既定路線だったのだろう。

 ならば、これを断ることはしない。

 俺としても、デクスローの知識は必要だ。


「そういえば、サルヴァン師は来てないんだな。こういう場には現われそうなもんだが」

「ああ、少し教会内でもめ事があったようでな」

「大丈夫なの? サルヴァン様は」


 ザガンの返答にロニが食いつく。


「あいつのことだ、大丈夫だとは思う。ただ、おかしなことになっていてな。もしかしたら今回の件と関りがあるのやもしれんぞ?」

「何かあったのか?」

「【勇者】が出現した。しかも、三人だ」

「勇者? 国が認定したのか?」


 俺の言葉に、ザガンもクライスも首を振る。


「違う。適性変異でジョブが【勇者】になった奴がいるんだ。そいつらを取り込んで、『神勇教団』って教会の分派ができたんだよ」

「ジョブとしての……【勇者】? そりゃ、すごいな。今回の〝淘汰〟に対して世界がカウンターを準備したのか?」

「そこまではわからん。ただ、今のところそれのおかげで各地の魔物被害は減少傾向にあるようだ」


 人間の脅威が減るのは良い事だ。

 生き方ジョブとして【勇者】になるような連中だし、事情を話せば手伝ってくれるかもしれない。


「『白き者の行進』のような大暴走スタンピードに対抗する戦力としては、頼れるやもしれぬ。王国側から働きかけをしておくか?」

「ああ、ザガン頼むよ。教会のいざこざはいただけないが、戦力は多いに越したことはないしな」


 やはり、世界の危機が間近に真で迫っているのだろうか。

 このタイミングで【勇者】が現れるなんて。


「【聖女】も他に現れてるんだろうか?」

「んー……わかんない。でもサルヴァン様は【聖女】の気配がわかるって言ってたから、もしかしたらそれで、忙しいのかも。もし、『神勇教団』に【聖女】がたくさんいたら、たくさん教えないといけないもの」


 そういえば【教主】は【聖女】の認定と教育をするのだと聞かされていた。

 そう、教団のトップ自ら【聖女】を教育するのだ。


「でも、わたしの〝勇者〟はバールだけだからね」

「おう」


 多くの時代、〝勇者〟と〝聖女〟は一組で現れた。

 勇者が三人いるなら、聖女も三人いるに違いない。

 それだけいれば、今回の『コア・ズヴェン』による〝淘汰〟を防ぎきることができるかもしれない。


「さて、方針が決まったところで様子見だな。情報が集まり次第届ける。しばらくは大人しくしていろよ、バール。いきなりトラヴィの森に入ったって聞いたときは捜索隊を出すところだったぞ」


 強面の社長が、俺に圧をかけてくる。


「ああ、わかった。わかったから。まったく、俺は頑丈なんだ。そう割れモンみたいに扱うんじゃねぇよ」

「バカか、バール。一回割れてんだよ。自覚しろ」


 そう言われてしまえば詰まってしまう。


「それで思い出した。デクスロー、お前は少し居残りだ」

「ふぉ」

「わかってんだろ、お説教だ。減給も始末書もあるぞ」

「老骨に無体をおっしゃる」

「トラヴィの森も歩き回れる爺に容赦はしねぇ」


 なにやらふごふごと老人のモノマネをしながら助けを求めるデクスローをおいて、俺達は帰路に発つ。

 かわいそうだが、鬼社長を止めれば藪蛇かもしれないのでさっさと退散させてもらうことにしよう。


「バールさん。お疲れさまでした」

「キャル、ありがとう。また迷惑をかけるな」


 キャルが小さく首を振って微笑む。


「あの人──オホン、モルガン社長は借りはまだまだある、なんて言ってましたから。それに、今回の事は、王国全体に関わることです。王の耳にも、じきに入るでしょう」

「ああ。末端の……しかも〝勇者〟と〝聖女〟の立場を捨てた俺たちだけじゃ、後手に回るだけだ。上の方は上の方で警戒してもらえると助かる」


 リードが起こした規模の大暴走スタンピードが起これば。今度こそ俺達の力だけじゃどうしようもなくなるかもしれない。

 結局、王国の増援は間に合わず……あの戦場では多くの犠牲者が出た。


 だが、今回は備えることができる。

 各地で何か兆候があれば、すぐに対処できるような状態にしておけば被害は最小限に防げるはずだ。

 相手が、古代の〝淘汰〟である『ズヴェン』であっても。


「それよりもキャル。クライスさんとはうまくいってるの?」

「はぇ?」

「しばらくこっちにいるんでしょ? 女の子同士お茶でもしよ?」


 暗い話に飽きたのか、ロニが話の腰をサバ折りしてしまった。

 一応、俺達……当事者なんだがな。


 さて、【勇者】たちは力を貸してくれるだろうか?

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