第35話 第三章 知りたいとは思いませんか、文明がどこから来たのか。(16)

 内田の知る由もないが、例のニネヴェ遺跡のある中東のモースル市だ。

 そこはアメリカ陸軍が駐屯することもあり、市内外が詳細に記録されていた。ニネヴェ遺跡の観光客に紛れて、ヴィオラに極めて良く似た少女が映っていたのである。

 アメリカ側からも少女の監視依頼が来たので、警察に身柄を渡している場合ではない。

 だがもう一つ、内田が少女を監視下に置くことを決めた理由がある。

 ヴィオラに関して、NSA(アメリカ合衆国国家安全保障局)の身元照合でもデータが無かったという連絡が入ったのだ。

 NSAは認めていないが、彼らは全世界の住民データにアクセス出来る。住民データどころか各種通信データなども全て把握しているはずだ。

 そのNSAが、身元確認不能とした時点で異常なのだ。この事実は、間違いなくモーデルの関心も引いているだろう。

 あの少女には何か秘密があると内田は確信した。


【同日 午後八時十五分 神保町】

 内田少佐は西郷の監視をしていたが、ここ数日どうにもスッキリしなかった。

 いくら国防上の機密があるとはいえ、なぜ粘土板の警備にこんな神経を使わなければならないのか。この謎を解くヒントが一向に見つからない。

 官邸権限を流用し、国防軍情報部も総動員しているのだが、芳しくない。

 そこへ、謎の少女の出現だ。

 どう考えても国防軍情報部やNSAにて、ヴィオレンテーリアとかいう少女の身元が割れないのはおかしい。

「仕方無い、こういうとき日本では『虎穴に入らずんば虎児を得ず』って言うんだ」

 アメリカ陸軍のモーデル中佐に、再度アクセスした。

 日が暮れた神保町の街角で、内田は相手を待つ。

 千代田区は路上喫煙すら禁止なのが、こういう時にツライ・・・。

 十五分ほど待ったところで後方から、BMWの大型セダンがモーター駆動で音も無く近寄ってきた。

 律儀にクルマのナンバーが『マルガイ(外交官ナンバーで、『外』の字を『○』で囲った印がナンバーに記されている)』になっている。身分を隠す気は無いらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る