第72話 4番目の来訪者・下

「イズクラ・バートリー。改めて申し渡す。下らぬ謀はやめよ。我らの旗のもとに膝をつけ。

大義の前である。独立などというものは些末なこだわりは捨てよ」


 どうやらこの二人は顔見知りらしい。友好的な関係ではないだろうけど。 

 今度はシューフェンがこっちを見た。 


「戦士カタオカに告げる。彼等との同盟は不毛である。仕えるべき主は賢明に判断せよ」


「こいつらが、僕らが対峙する敵ですか?」

「……いや、違う……こいつらが来るのは私も想定外だ。済まない」


 本当にすまなそうにイザクラさんが言うけど……何やら巻き添えを食わされてる気がするぞ。

 異世界の戦争をこっちに持ち込んでほしくないんだけど。


「こいつらは魔法は使わないが剣技は破格だ。注意してくれ、カタオカ」


 イザクラさんが言う……文句の一つも言いたいけど、今は後回しだ。

 こいつは先生を刺して、檜村さんを切ろうとした……許さない

 シューフェンが僕等を一瞥した。


「剣士二人に道士一人。私のみで対峙するのはやや難しいな……レイフォン。加勢せよ」


 後ろで旗をもったまま見守っていたやつ一礼する。旗を持ったまま腰にさした剣を抜いた。

 こいつもシューフェンと同じようなレイピアのような細い剣だ。

 

「我らの旗を倒すことはまかり成らぬ。分かっているな?」

「御意」


 そう言って進み出ようとした途端に旗を持った奴がパッと飛びのく。

 一瞬遅れて何かが地面をたたいた。



 旗を翻してそいつが着地する。何かと思ったけど……鎖だ。

 鎖が蛇のように空中を舞って中庭の入り口に戻っていった。


「すっごーい、今の躱すんだ」

「恥を知れ……不意打ちとは。武人の行いにあらず」


 中庭の入り口から二人が入ってくる。

 真っ赤な穂先の槍を構えた学生服姿の斎会君と、さっきと同じシャツ姿の鏑木さん。

 鏑木さんの手には長い鎖、多分校庭に貼られていたやつが握られていて、体も鎖も白っぽい光が包んでいた。

 前に見た七瀬さんの身体能力覚醒フィジカルアデプトっぽい感じだ。


「斎会流大槍術、斎会翔太、推参!狼藉者め!覚悟せよ!」

「あのさぁ、クソ真面目もいい加減にしなよ。どう見ても敵なんだからさ、後ろからバサッと行けば良いでしょ」


 鏑木さんが言う


「我が流派に背中から刺す技などない」


 斎江君が真面目腐った感じで言い返して、鏑木さんがやれやれって顔で大げさに肩をすくめる。


「まったくもう。頭堅すぎ。あ、片岡君、助太刀するよ。ボクたちがこいつは相手するね」

 

 鏑木さんがこっちに手を振ってウインクした。

 シューフェンが二人に目をやる。


「素晴らしい。これほど多く戦士がいようとは。来た甲斐があったというもの」


 シューフェンと旗を持ったレイフォンが背中を合わせて構えを取る。

 囲まれてる状態だけど、それでも落ち着いた姿勢を崩さないあたり、まだ本気じゃないんだろうか。


 槍を持った斎会君と僕、大剣を構えたイザクラさんがじりっと間合いを詰める。

 檜村さんの詠唱が聞こえて、背中に手が触れる。体を白い光が包んだ。防壁だ。

 少し離れたところで鏑木さんが、隙を伺うように鎖を回している。


「……この人数を相手にするつもりか?」

「何の問題もない」


 全く動じる様子もなくシューフェンが言う。

 自信過剰って感じではない。

 囲んでいるけどそれでもイザクラさんの表情が硬いところを見ると本当に強いんだろうということは分かった。


 この状況なら。可能なら捕虜にしたい。

 何をしに来たのか、どうやって来れたのか。ぱっと思いつくだけで聞きたいことは山ほどあるぞ。

 イズクラさんと目を合わせたところで、ポケットの中のスマホが震えた。



[ダンジョン発生!ダンジョン発生!]

[資格保持者は迎撃態勢を整えてください!]


 ワンテンポ遅れて警告が響く。

 今度はさっきと違った。いつも通りダンジョンの赤い光が校舎を覆うように走る。

 校舎の壁や天井がゆらめくようなごつごつとした岩場のように変わった。

 いつもの野良ダンジョンだ。


「なによ、この忙しい時に!」

「新手が来るのか!望むところ!」


 鏑木さんと斎会君が言うけど。


「これは!」

「まさか。このマナは」


 シューフェンとイズクラさんが両方とも反応した。

 ガラスが割れる音と何かをなぎ倒すような音が二階から聞こえて、それを追うように悲鳴が響く。

 シューフェンが仮面のような顔を初めて歪ませた。

 

「憎き蟲どもめ……此処にまで現れるか」



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