第43話 八王子ダンジョンについての検討・上
動画撮影から一週間後
ちょうど日曜日だったので、三田ケ谷とルーファさん、それに檜村さんで八王子のダンジョンにトライした。
ぼちぼちと戦って、今日も八王子ダンジョンの近くのファミレスでお疲れ様会をやっている。
伊勢田さんが教えてくれたけど、八王子は最深層は不明でダンジョンマスターはアークデーモン……らしい。
ダンジョンが発生して初期に討伐できず、その後はダンジョンの奥に閉じこもったから、あまり姿を確認されていないらしいけど。
今は概ね8階層まで攻略が進んでいて、それぞれの階層にベースキャンプと言うか中継地点がある。
だからまっすぐに8階層まで行こうと思えば行けるらしい。
一方で、ダンジョンは広いしモンスターが徘徊しているから、そのまっすぐ地下に向かうルートとは別に枝道の捜索やモンスターの駆除は行われている。
それをしないとモンスターが溢れて中継地点が潰されてしまうのだそうだ。
ダンジョン観光のお客さんは1階層か2階層の枝道でモンスターとの戦いを見物したりするらしい。
あと、枝道の探索は、モンスターの駆除以外に、その先に別の階段がある可能性があるから、というのもある。
伊勢田さんは主に7階層から9階層の探索やモンスターの駆除をして、それを動画配信していることをこの間教えてくれた。
ということで、一応8階層まで一気に行けるんだけど。
経験則というか不文律として、その階のモンスターを圧倒できるくらいでないと次には行くなというのがあるのだそうで。
不思議な事に、モンスターは深層に行けば行くほど強くなっていく。だから、前の階層のモンスターを蹴散らせる程度には強くないと先に進んでも死ぬだけだ。
なので八王子ダンジョンについては、枝道でモンスターを駆除しつつ自分の実力を確かめて、十分だと思えば次の階層に行く、と言う手順で少しづつ地下に向かっていく
腕を上げた人が深くに向かう分、新しい魔討士がやってきてその穴を埋めるという、サイクルが自然に出来上がっているのだそうだ。
★
「んで、今日は何処まで行けたんだっけ?」
「6階層だな」
三田ケ谷の質問に答える。というか、どこまで行ったかくらいは覚えておけ、と言いたい。
「ゴールはどこだっけ?」
「10階層だろうね……まあ当面は6階層のモンスターをもう少し楽に倒せるようにならないと話にならないが」
檜村さんがコーヒーを飲みながら言う。
10階層には中ボスなどと言う風に俗称されるモンスター、ミノタウロスがいる。
中継ポイントはまだ設置されてないけど、強引に深層を目指したパーティが何度か戦っているらしい。
ただ、中継ポイントがないからミノタウロスにたどり着くまでに消耗する上に、中ボスなどと言われるだけあってかなり強いんだそうだ。
そこまで行けるパーティは4位以上が主力で編成された、いわゆる上級ランカーだ。
それが返り討ちなんだから相当なんだろう。
「僕等の現状のポジションってどのくらいなんですかね」
「……そうだね。6と5の間だが、6寄りってところだろうか。5.8か……ちょっと甘めに見て6.1って感じじゃないかと思うね」
檜村さんが少し考えて応えてくれる。
「でも5階層っていっても馬鹿にできないよなー」
三田ケ谷がぼやいた。
今日戦った中で一番難敵だったのは6階層の敵ではなくて、5階層のヘルハウンド。
素早くて捕まえにくい上に、炎を吐くから遠距離への攻撃手段がない三田ケ谷としてはストレスがたまっただろう。
実際の戦いはゲームみたいに攻撃コマンドを入力したら攻撃が当たる、なんてものとは違う。
強い弱いとは別に、相性の良しあし言うのは厳然と存在するわけで。
足を止めての叩き合いや迎撃なら相当の強さを発揮する三田ケ谷だけど、早い相手を追い回すのは苦手な領域だ
ルーファさんも何度か炎を浴びかけて危ない所だった。
「本当はルーファには戦ってほしくないんだけどな」
「私は戦士です。それにあなたの側で戦えるのは幸せです、ミタカヤ様」
ルーファさんがポテトパイを食べながら答える。最近はこれがお気に入りらしい。
三田ケ谷が嬉しそうな複雑そうな顔をした。
★
その後は動画を見た。
伊勢田さんのところで見せてもらったのは単なるインタビューだったけど。
公開されたバージョンは銀座のダンジョンで撮られた場面が挿入されていたりして、結構本格的な仕上がりになっていた。
「再生数、もう1万回行ってるぜ」
画面の中で動く自分はやっぱり別人のように見えるな。
しかし、もう一万人に見られたのか……なかなかこれは恥ずかしいというかなんというか。
「これは大変だな。道を歩くと写真とか撮られるんじゃないか?」
三田ヶ谷が面白そうに言う。
スペシャルインタビュー・銀座の英雄、片岡水輝独占インタビュー、などと煽りタイトルがつけられていて非常に気まずい。
もちろん褒められたり、認められたりするのは嬉しいんだけど。なんかあまりにも持ち上げられるすぎるとなにやら居心地が悪い。
根が小市民な気がするな。
「サインとか考えてあるか?片岡」
「いや、なかなか凛々しいじゃないか。私はいいと思うよ」
面白そうに言い募る三田ケ谷だけど、檜村さんがフォローしてくれてちょっと気が楽になった。
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