3章 島の言い伝え

001 残酷な運命の果てに

 四角い窓から見える空は、何処か無機質なように見えた。


 思い出もなにもない……この場所にいたって、自分に輝かしい未来が訪れることはない。


「……出ていきたいなあ」


 娯楽のないこの場所は暇すぎた。こういうときに限って、時間が流れが遅く感じるのだからムカついてしまう。

 この場所は自分そのもののように感じられた。壁が心の壁。辺りにある、飾ってあるものが自分の怒りだ。感情に任せて、その辺りにあるものを投げ捨ててしまいたくなる。けれど、投げても投げても外に出ることはなく、壁に弾き返される。ここから逃げ出すことはできない。例え、逃げ出すことができても、そこから先を生きてくことができないだろう。


 それでも……ここから逃げ出してしまいたかった。

 こんな場所ではやりたいこともできないのだ。

 ……やることもないので、寝ることにする。


 しかし、中々寝つけなかった。今は真夏だ。窓を通して侵入してくる日光が、窓で熱を弱めながらも、部屋全体を熱してくる。外に出ないだけましだと思いながらも、部屋の中にいるときくらい涼しくいたいという思いもあり、複雑な心境だった。


 一時間ほどで眠気がやってきた。やっと眠れる……この暑さから解放される。

 けれど……そのとき部屋に入ってきた女性の一言で、掴みかけた眠気は何処かに飛んでいってしまった。


「和也が……倒れた……!」


 生きた心地がしなかった。

 どうして……どうして、こんなに不幸なことが続くのだろう。

 頭の中に仮初めの神様を顕現させて、いくつもの質問をぶつける。だが、神様が言葉にしたのは、


 ――それが運命だ


 世界は残酷だ。運命――そんなものがあるとは信じられない。これから起こる出来事が規定されているのだとしたら、人を殺すことも、自殺することも、全て神が定めたことなのだから、その人の行為を罰することはできないはずだ。全ては人を殺すよう、自殺するよう仕向けた神の責任だろう。


 未来は過去によって規定される。


 何処で進む道を間違えたのか、幸せな世界を望んでいただけなのに……


 *・*・*


 ミーンミーン――


 蝉の鳴き声が、遠くから暑さを集めてくる。

 寝汗が肌と寝巻きの接着剤の役割を果たしているせいで、気怠さと気持ち悪さが覚醒しきっていない僕の体にまとわりついている。


「……起きるか」


 背伸びをすると、脊髄に染み付いていた睡魔が霧散したような気がした。


 カーテンを開けると、朝の日光が射し込み、簡素な部屋の床に短な列を作り出していた。窓を開けると、涼しい場所を探し求めるように、新鮮な風が部屋の中に吹き込んできた。


 今は……何月何日だっけ?

 記憶を掘り返して、今日が八月十三日であり、そして、夏休み真っ只中だということを思い出した。

 どうりで暑いわけだ。さっさと秋になり涼しくなって欲しいと思うが、夏休みを楽しみたいという気持ちもある。


「……取りあえず、朝ごはんを食べるか」


 自分に言い聞かせるように、そう口にして立ち上がる。枕元にあった服に着替えて、リビングに向かった。


「おはよう和ちゃん」

「おはよう、お母さん」


 リビングに向かうと、お母さんと早苗が焼きそばを食べていた。我が家では昼には焼きそばを……って、焼きそば?


「あれ? ……もしかして昼になってる?」

「そうだよ、和ちゃん遅いよ。昨日はちゃんと寝た?」

「え、ああ……多分」


 夏休みだからってだらけていたせいか、悪い生活習慣が身についてしまったようだ。もうすぐで学校だし、気をつけないといけないな。明日からは八時に起きよう……寝る時間は変えないけど。 


「……なあ、和也」

「なんだ?」


 決意表明を心の中でしていると、早苗が声をかけてきた。相変わらずのメッキ塗装を施したような金髪が揺れる。目の前にはからになった皿があり、その横に早苗の組んだ足がある。行儀の悪い奴だ。


「神社に行って海の手伝いをしてこい」

「え? なんで?」

「いいから行ってこい」

「早苗が行ってこいよ。暇なんだろ?」

「お前も暇だろうが。それに……面倒臭い」


 相変わらず気紛れな奴だった。


「それに、あたしの力じゃあ持ち上げられなくてさ。男手が必要なんだよ。だから、さっさと行けって」

「……ああ」


 そういえば、毎年そんなことを言っていた。努力も虚しくなり、ついに音をあげたか。男子と女子、体の構造上仕方のないことだ。やはり、男女平等なんて不可能だと思うんだがな。


「わかったよ……行けばいいんだろ?」

「よろ」


 聞こえるように大きくため息をつくが、本人に悪びれた様子はなく、追加された焼きそばを食べていた。僕はもう一度ため息を吐くと、いつもの席に座って焼きそばを食べ始めた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます