縁は異なもの味なもの ⑯

「かゆいところはありませんか、姫」


 大好きな潤さんに甲斐甲斐しくお世話してもらって、おまけに『姫』などと甘やかされて、私はもう夢見心地だ。


「ふふふ……とっても気持ちいいでーす」

「俺、志織の髪のにおい好き」

「このシャンプーのにおい?私も好き」

「いや、俺が好きなのはシャンプーそのもののにおいじゃなくて、このシャンプーを使ってる志織の髪のにおいかな。香水なんかも、使ってる人の体臭によって違うにおいになるらしいし」

「へぇ、そうなんだね」


 私が愛用しているシャンプーとコンディショナーは、昔からあじさい堂の商品だ。それだけでなく、洗顔料や化粧品などもあじさい堂の商品ばかりで、なんとなく不思議な縁を感じる。

 意識して見てみると、潤さんの使っているシャンプーやボディーソープなども、当然のごとくみんなあじさい堂の商品だった。

 潤さんはシャンプーをシャワーで流したあと、コンディショナーを私の髪に優しく馴染ませる。


「志織、入社したときは今より髪短かったよな」

「うん、そうだね。短い方が良かった?」

「短いのも長いのも、どっちもかわいいけど……でもやっぱ今の方が好きかな。あの頃より今の方がもっと志織のこと好きだから」


 二人きりになると、潤さんはどこまでも激甘だ。『かわいい』とか『好き』とか、惜しげもなく甘い言葉を言ってくれる潤さんが、たまらなくかわいいと私は思う。


「私も潤さん大好き。あの頃はまさか、潤さんとこんな風に一緒にお風呂に入るような関係になるとは思ってなかったけどね」

「俺は志織とこんな風になりたいなとずっと思ってたから、今めちゃくちゃ幸せ」

「私も潤さんと一緒にいられてすごく幸せ」


 潤さんはシャワーを手に取り、コンディショナーをすすいで、髪の毛を軽くねじって水分をしぼる。


「髪はどうすればいい?」


 美容師でもないのに、洗い終わった髪をどうするのかまで気にしてくれる男性なんて、なかなかいないと思う。

 潤さんのこういうさりげない気遣いができるところがとても好きだ。


「ねじり上げて、このヘアクリップではさむの」


 ヘアクリップを渡してまとめ方を説明すると、潤さんはたどたどしい手付きで髪をまとめてくれた。


「これでいい?」

「うん、ありがとう」


 潤さんは後ろから私を抱きしめて、髪を上げてあらわになった首筋にそっと口づけた。

 その感触のくすぐったさに首をすくめると、潤さんは首筋から耳元へとゆっくり唇を這わせる。


「志織、こうしてると首筋がすごく色っぽい」


 耳元で熱っぽい声で囁かれ、体の奥に眠る感覚が呼び覚まされるようにゾクゾクと震える。


「そんなこと……」


 そんなことない、と言おうとした私の唇を唇でふさぎ、潤さんは大きな手で私の濡れた素肌を撫でる。その手は脇腹の辺りから徐々に上の方へと私の体の曲線をゆっくりなぞり、胸のふくらみを包み込んだ。

 そして舌を絡めたキスをしながら、もう片方の手を下の方へと這わせ、長い指を足の間へと滑り込ませると、柔らかいところを指先で撫で上げる。

 足を閉じてなんとか抵抗しようと試みたけれど、弱いところを小刻みに刺激されて力が入らない。


「潤さん……ダメ……」

「ごめん、志織に触りたいのずっと我慢してたけど、もう限界……。もう少しだけ触らせて」


 潤さんに触れられていやなわけがないし、触れたいとか触れて欲しいと思っていたのは私だって同じだ。背中に伝わる潤さんの鼓動と少し荒くなった息遣いにまで欲情を煽られて、昂りを抑えることができない。

 私の中の浅いところを探っていた潤さんの指が、深いところを求めて奥へと進み、その動きが次第に激しくなると、こらえきれず甘い声がもれた。


「気持ちいい?」


 耳のそばで吐息混じりに尋ねる声に肩を震わせながらうなずくと、潤さんは息を荒くしてさらに指の動きを速める。

 何も考えられなくなるほどの快感の波にさらわれ、体の奥から突き上げてくる衝動に抗うことができず、私はそのまま昇りつめる。

 潤さんは甘い声をあげて果ててしまった私を優しく抱きしめて、何度も何度もキスをした。


「志織、かわいい……。好きだよ」


 上がっていた息が少しずつ落ち着いてくると、だんだん恥ずかしさが込み上げてくる。


「ダメって言ったのに……」


 うつむきながら呟くと、潤さんは目をそらして頬をかいた。


「志織があんまりかわいくて、つい……」

「一緒にお風呂に浸かるだけって言った!」


 約束をやぶってしまった潤さんは、ばつが悪そうな顔をしている。


「ごめんって……。機嫌直してよ」


 潤さんは少し甘えた声でそう言って、私の頬に口付けた。このまままたイチャイチャしてやろうとか思っているような気がする。

 ……ホントにわかってんのかな?


「知らない。潤さんとはもう一緒に入らない」


 私が仏頂面で呟くと、潤さんはさすがに焦り始めたようで、慌てて手をあわせた。


「ええっ?!ごめん、マジで謝る!お詫びになんでも言うこと聞くから許して!」

「……なんでも?」

「なんでも」

「じゃあ……私の腕が治るまで、右腕と背中と頭洗ってくれるなら一緒にお風呂に入ってもいいけど、やらしいことはしないで。怪我が治るまでは大人しく我慢すること。わかった?」

「はい……」


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