Mother Quest ~ラスボスが現れた!~⑤
「ツーショットじゃないけどな。俺と志織と志岐と木村と……あと何人か。でも俺の隣で志織が笑って写ってるのが嬉しくて、リビングにずっと飾ってる」
あの家のリビングには何度もお邪魔しているのに、それにはまったく気付かなかった。
私が営業部から商品管理部に異動したのは3年半も前だ。一体いつ撮った写真だろう?
「それって……いつ撮った写真?」
「志織たちが入社した年の夏だな。納涼会で撮った」
私が入社した年の夏と言うことは、もう6年以上も前になる。その頃の私はまだ今より少し顔がふっくらしていて、髪が短かった。
そんな若かった頃の私の写真を、潤さんが今でも毎日目にしているのかと思うとかなり恥ずかしい。
「そんなに前の写真をずっと?なんか恥ずかしい……」
「それしか志織の写真がないんだからしょうがないだろ?写真撮らせてなんて言ったら怪しまれるだろうし……。今度撮らせてくれたら新しいのに替えるよ」
それもなんとなく気恥ずかしいけれど、いつでも私のことを考えてくれているのだと思うと嬉しい。そんなところはやっぱりかわいいと言うと、潤さんはまた怒るだろうか。
「だったら……今度は一緒に撮りましょうね、二人で。それじゃあ、化粧して着替えてきます」
脱衣所のカーテンを閉めて顔を洗い、いつもと同じように簡単な化粧をして髪を梳かし、クローゼットに眠っていたワンピースに着替える。
これを着るのはまだ二度目だ。前にこの服を着たのはたしか、一人で街をブラブラしてみようと出掛け、偶然奥田さんと出会ってフルーツパーラーに行ったときだった。
ワンピースだけでは少し肌寒いので、上からジャケットを着た。鏡の前でひとまわりしてみて、やっぱり似合わないなんてことはないんじゃないかと思ってみたりする。
護には『こんな丈の短いスカートは似合わない』とバッサリ斬り捨てられてしまったけれど、果たして潤さんはなんと言うだろう?
そんなことを考えながらカーテンを開けて部屋に戻ると、振り返った潤さんはいつもより大きく目を開いて無言で私を見た。
あれ……?やっぱり似合わないのかな……?
急に自信がなくなって、他の服に着替えようかと思い始める。
「やっぱり変……?こんな服、似合わない……?」
「かっ……わいい……」
「はぁ……やっぱりかわ……え?」
似合わないと言われると思っていたので、思わず耳を疑って聞き返すと、潤さんは突然立ち上がって私を思いきり抱きしめた。
「すっごい似合ってるよ!めちゃくちゃかわいい!このまま連れて帰りたい!」
私は潤さんの過剰反応に驚き戸惑ってしまう。
「えっ?いや、あの……嬉しいけど、それはちょっと困るかな……」
「わかってる、これから志織の実家に行くんだもんな。でも俺は毎日いろんな志織が見たいから、早く一緒に暮らしたいなぁ……」
自分で言うのもなんだけど、潤さんはどんだけ私のことが好きなんだ!
『恋は盲目』と言う言葉があるけれど、潤さんはまさしくそれだと思う。いや……『蓼食う虫も好き好き』の方が正しいだろうか?
この歳までずっと『かわいげがない』と言われ続けた私のことを、飽きもせずに『かわいい』と言い続ける潤さんは、相当の物好きだ。
潤さんは私にそんな風に思われているとも知らず、とろけそうな目で私を眺めて頬にキスをした。
「志織、早く一緒に暮らそうよ。俺んとこおいで」
さすがの私もこれには面喰らってしまった。私も潤さんとは早く一緒に暮らしたいなと思うし、そう言ってくれるのは本当に嬉しいとは思う。
だけど私たちが付き合い始めてから、今日でまだ3日目だ。これはいくらなんでも早すぎやしないか?
「いきなり……?」
「うちに住めばこのマンションの家賃は払わなくて良くなるし、会社は近いし、それになんと言っても、仕事が忙しくて帰りが遅くなったって、家に帰れば一緒にいられる」
「うん……まぁ、そうなんだけど……」
たしかに潤さんの家に引っ越せば、私にとっては損なことがないどころか、いいことだらけだ。だけどやっぱり、もう少しゆっくり話を進めたいと思う私は慎重すぎるんだろうか。
私が返事に困っていると、潤さんは私の気持ちを察したらしく、少し笑ってもう一度頬に口付けた。
「ごめん、急にそんなこと言われても困るよな。俺はずっと志織が好きだったから、一緒にいられることになって嬉しくて先走ってしまうけど……志織はこれまでといろいろ環境が変わるわけだし……俺のことだってついこの前までは、ただの同僚だと思ってたんだから……」
話しているうちに潤さんの声がどんどん小さくなって、自信なさげな表情に変わっていく。もしかして潤さんを不安にさせてしまったかも知れない。
私は慌てて潤さんにしがみついた。
「私、潤さんのことは本当に大好きだから!だけどあんまり急だったからびっくりしただけ!私も潤さんと早く一緒に暮らしたいと思ってる!」
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