Mother Quest ~ラスボスが現れた!~②

「潤さんこそ……そんなに甘い顔、他の人に見せないでね」

「ゆうべも言ったけど、志織だからそうなるんだよ」

「だったら安心かな」


 恥ずかしげもなくこんなことを言い合っている私たちは、間違いなくバカップルだと認めざるを得ない。

 まさかこの私がこんな風になるとは思ってもみなかった。そう考えると、ちょっと……いや、かなり恥ずかしい。


「じゃあ……明日の朝は早く起きなきゃいけないし、そろそろお風呂に入って休みましょう」

「一緒に入る?」

「それはまだお断りです」


 さすがにまだ一緒にお風呂に入るのは抵抗があるのでキッパリ断ると、潤さんは少し残念そうな顔をした。

 ゆうべ私に手を出すことをあんなにためらっていたのはなんだったんだろう?一度タガが外れてしまえば、どこまでもストレートで激甘だ。


「じゃあ……風呂から上がったら早めにベッドに入ろう」


『早く寝よう』とか『早めに休もう』と言う表現ではなかったので、さてはまた飽きもせずに私を食らうつもりなのだなと気付く。


「……おとなしく寝るつもりなんてないんでしょ?」

「あ、バレた。でも『続きはあとで』ってさっき約束したし、志織もいいって言ったじゃん」

「そうだけど……ゆうべみたいに朝までとかはナシですよ?」

「うーん……そうだな。明日は大事な日だから、善処する」


 この場合の善処するとは……?

 いくら体力があるとは言え、潤さんは疲れを知らないんだろうか。この疲れ知らずな潤さんについて行けるのか、ほんの少しの不安がよぎる。


「私、潤さんと結婚して体が持つかな?なんか自信なくなってきた」

「……ごめん、これからはちゃんと手加減する」


 一応私を気遣うつもりはあるらしい。

 潤さんのそれは自分本位なものではないし、私を際限なく愛してくれていることはわかっているから、私だって本当はいやではない。ただ、翌日の仕事や予定への支障がないかとか、私の体力が持つのかということが心配なのだ。


「まぁ……それも別にいやじゃないから、たまにならいいんだけど……」

「へぇ、たまにならいいんだ。覚えとこ」


 潤さんは少しいたずらっぽく笑いながら「風呂の掃除してくる」と言って浴室へ向かった。

 優しくて仕事ができて、バレーも上手でかっこ良くて、おまけに食事の準備や後片付けにお風呂掃除まで、こちらが頼まなくても家事を難なくこなす潤さんは、結婚すればきっと良き夫になるだろうなと思う。

 控えめに言っても私にはもったいないくらいだ。私の両親が、こんな素敵な人を気に入らないわけがない。

 きっとさらに結婚を急かされることになるだろうなと思いながら、空になったコーヒーカップをキッチンに下げて片付けた。



 8時半には二人とも入浴が済み、また寝室に戻った。並んでベッドに入ると、潤さんは私を抱きしめながら、額や頬や唇に何度も優しいキスをする。


「あー、幸せ。ずっとこうしてたい」

「私も」


 潤さんの腕の中にいるとあたたかく、とても幸せで、その心地よさにだんだんまぶたが重くなってくる。


「志織、眠くなってきた?」

「うん……」


 目をこすりながらうなずくと、潤さんは私の頭を優しく撫でた。


「ちょっと残念だけど……今夜はこのまま休もうか」

「うん……。潤さん……」

「ん?」


 私は閉じそうになる重いまぶたをなんとか必死に開き、潤さんの頬に両手を添えてキスをした。

 潤さんは私のキスに、ついばむような優しいキスで応える。


「大好き……」

「俺も好き。おやすみ、志織」

「おやすみなさい……」


 頭を撫でる大きな手の優しさとあたたかさを感じながら、私は幸せな気持ちで眠りに誘われる。


「志織、愛してる。ずっと一緒にいような」


 眠りの淵に落ちる頃、潤さんの優しい声が耳の奥に響いた。




 潤さんに抱きしめられながらぐっすり眠った翌朝は、6時前に目が覚めた。

 私が目覚めたときに潤さんはまだ気持ち良さそうに寝息をたてていたので、しばらくの間、黙って潤さんの寝顔を眺めた。昨日の朝とは立場が逆だ。

 好きな人の無防備な寝顔をじっくり眺められるのは、とても幸せなことだと思う。結婚したら毎日一緒に寝起きして、一緒に食卓を囲み、同じことで笑ったり、ときに泣いたり怒ったりもしながら生活を共にして、自分以外の人が生活の一部になるのだ。

 ついこの間までは会社の上司と部下と言う関係で、入社した頃からいつも気にかけてくれる優しい先輩と言う存在だった潤さんが、今は私の大好きな人で婚約者なのだと思うと、なんとなく不思議な気がした。

 しかし何がきっかけで潤さんはそんなに私のことを好きになってくれたんだろう?

 潤さんは女性が苦手で他の人は受け付けないのに、どうして私だけは別だったのか?そこがとても気になるけれど、自分からそれを聞くのは少し照れくさいような気もする。

 これからずっと一緒にいるんだし、いつかそのうち聞けるといいなと思いながら潤さんの胸に頬をすり寄せた。


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