Don't delay~準備はいいか~⑩

「あんまりいい人って言われるのも考えもんだな……」

「どうして?」

「いい人そうに見えても、頭の中では何考えてるかわからないってこと。俺も男だから、いつ豹変して襲いかかるかも知れない」


 今までは潤さんの優しいところとか、いつも人を気遣っているところばかり見てきた。だけど潤さんには私の知らない一面があると言うことだ。

 なるほど……それはちょっと見てみたい。


「だったら潤さんは、私に襲いかかるつもりがないから頭を冷やしていたと言うことですか?」

「まぁ、そういうことになるな。お互いに好きだってわかったからって、いきなりがっつかれたら志織もいやだろうし……やっぱり好きだから大事にしたいし……」

「じゃあ結局準備はしなかったんですね。残念です」


 私がため息混じりにそう言うと、私の肩を抱いていた潤さんの手に少し力がこもるのがわかった。


「残念って……」

「理性では抑えきれなくなるくらい激しく求められたいと言う願望は私にもあります。女ですから」


 私がこんなことを言うとは思っていなかったのか、潤さんは呆気にとられて言葉も出ないと言った様子だ。もしかして引かれてしまったかも知れない。

 一応私の本能的な方の本音も打ち明けたことだし、ここは少し引き下がった方がいいだろう。


「だけど今日は潤さんの意志を尊重したいと思います。私を大事にしようと思ってくれている潤さんの気持ちはとても嬉しいので」


 これも私の本音だ。だけどそれを聞いた潤さんは複雑そうな顔をしている。


「志織にもそういう願望とかあるんだな……」

「好きな人限定ですけどね。潤さん以外の人なら断固お断りです。私は……もっと潤さんに触れたいし、私に触れて欲しいです」


 私がそう言うと、潤さんは私を抱き寄せ、もう片方の手で私のあごをグイッと上げて、少し強引に唇を重ねた。


「……あんまり煽るな。本気で抑えがきかなくなる」


 耳元で熱い吐息まじりに低く呟いた潤さんの声は少し掠れていた。

 今まで知らなかった潤さんの色気に見事にあてられ、囁かれた耳の奥から伝わるように身体中がジンジンと熱を帯びる。


「でも……準備、しなかったんでしょ?」

「…………さっきした」


 それはなんとなくわかっていた。ドラッグストアからの帰り道で潤さんの荷物を持とうとしたときに、レジ袋の中に紙袋に包まれたものが入っているのがチラッと見えたからだ。

 何もしないつもりではいるけど、もしものときに備えるつもりだったのか、それとも今後のために準備しておいたのか、私にはわからない。

 だけど潤さんの心の準備さえできていれば、何も問題はないと言うことだ。


「心の準備はできたんですか?」

「……まだ迷ってるけど……もう俺の理性も崩壊寸前……」


 潤さんは私の唇に親指を這わせながら、耳元や首筋にキスをした。熱い吐息が私の耳をくすぐり、体の芯が甘くしびれる。


「暴走してあんまり優しくしてあげられないかも知れないけど……いい?」


 潤さんはためらいがちに耳元で囁いた。

 私は頬に添えられていた潤さんの大きな手をそっと握り、手のひらに口付ける。


「優しいだけじゃなくて……そういう潤さんも見てみたいな……」

「言ったな……?後悔するなよ」


 潤さんは低い声で呟いてシャツを脱ぎ捨て、私の着ていた潤さんのジャージやシャツをもどかしそうに脱がせて覆い被さる。


「潤さん……大好き……」


 広い背中を抱きしめると、潤さんはキスをしながら大きな手で私の素肌に触れた。その手を脇腹の辺りから少しずつ上へと這わせ、唇は頬から首、そして胸元へと滑り下りて、あたたかく湿った舌の感触と指先が胸の膨らみをなぞる。

 そして胸からお腹、その下へ、ジリジリと素肌を這い下りた長い指は柔らかいところを何度も撫で上げ、ゆっくりと私の中に入り込んだ。

 潤さんは優しい手付きで私の中の浅い部分を探りながら、唇を重ね舌を絡める。もっと深いところをいっぱいに満たされたくて、潤さんの優しい愛撫がもどかしい。

 潤さんに触れられたところすべてが熱を帯びて甘く疼き、私は肩を震わせながら吐息混じりの声をもらす。


「志織、気持ちいい?」

「……気持ちいい……」

「もっとしていい?」

「うん……して……」


 私が両腕を潤さんの首の後ろに回し、自ら唇を重ねて愛撫をねだると、潤さんは私の中を探る指をさらに奥へと滑り込ませ、さっきよりも速く激しく動かした。


「あっ……」


 快感の波に抗えず、私は身をよじらせながら潤さんにしがみつく。

 私は自分の体から発せられた湿った音と潤さんの少し荒い息づかいを聞きながら昇りつめ、全身がしびれるような感覚を覚えた。

 潤さんはあっと言う間に果ててしまった私の体のあちこちに何度もキスをしながら、ベッドサイドの引き出しに手を伸ばし、小さな四角い包みを取り出した。


「志織かわいい……。もっと気持ち良くしてあげる」


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