使えるものは親でも使え⑭
「よろしかったらご一緒にどうぞ……」
おそるおそる取り皿とお箸を目の前のテーブルに置くと、お父上は「お気遣いどうもありがとう」と言いながら、チラッと私を見る。
もしかして出しゃばり過ぎただろうか?なんだか視線が痛い。
瀧内くんは躊躇なくご両親のお皿を手に取り、焼けたばかりのタコ焼きと、私の作った唐揚げをポンポンと放り込んだ。
「いくら勧めても無駄だって。
「なんだ、
瀧内くんと三島課長のお父上が突然親しげに会話をし始めたので、私と葉月はわけがわからずポカンとしてしまう。
「玲司、余計なこと言うな!」
三島課長は慌てて瀧内くんを止めようとしている。
「志岐も何か知ってるのか?」
「いやー……俺からはなんとも……」
えっ、伊藤くんも三島課長のお父上と知り合い?!
ますますわけがわからなくなってきたところで、瀧内くんが私の腕をぐいっとつかんだ。
「理由はこの人。潤さんが今、結婚を前提にお付き合いしてる佐野志織さん。僕の前の部署の上司」
えっ……?!いつの間に私は、三島課長と結婚を前提にお付き合いを始めたの?!
私も三島課長も、あまりに驚きすぎて声も出ない。
「まだお付き合いを始めて日が浅いから、潤さんはもう少ししたらタイミング見計らって紹介するつもりだったんだよ」
「そうだったのか。それならそうと言ってくれればいいものを……」
私と三島課長を置き去りにして、瀧内くんとお父上の間で話は勝手に進んでいる。
瀧内くんは三島課長が口をはさむ隙を与えず、私と三島課長がいかにお似合いのカップルなのかをでっち上げている。
否定しようか黙っていようか迷っていると、瀧内くんが私に目配せをした。それがかなり鋭い目付きだったから、思わずうなずいてしまう。
瀧内くんよ、それは私に、三島課長が否定する前に話を合わせろと言っているのだな……?
三島課長は嘘をつきたくないと言っていたけれど、お父上のこの押しの強さを見ていると、どちらにしても強引に望まぬ結婚に持ち込まれるのは時間の問題だろう。
私だっていくら親に急かされても、好きでもない人とは結婚したくない。ここは三島課長のためにも、付け焼き刃の嘘でもつかの間の休息でもなんでもいいから、この場を丸くおさめた方が良さそうだ。
私はそっと深呼吸をすると、覚悟を決めてできるだけ上品な笑顔を作った。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。潤さんとお付き合いさせていただいております、佐野志織です。よろしくお願いいたします」
滞りなくそう言って頭を下げたけれど、内心は嘘だとバレないかとか、勝手なことをして後で三島課長に怒られて呆れられるんじゃないかとか、いろんな考えが頭の中をすごいスピードでぐるぐる巡った。
三島課長は放心状態で、かろうじて立っているという様子だ。
「そういうことだから、おじさんも母さんも、今日はこれを食べたらお引き取りください」
瀧内くんがあまりにもさらりと言ってのけたので聞き逃しそうになったけれど、おじさんと母さんっていうことは……!
いうことは…………?
ダメだ、頭が混乱して考えがまとまらない!しかしなんにせよ、その場は切り抜けたらしい。
ご両親はお皿の上の料理を美味しそうに食べた後、「またゆっくり会って話そう」と言い残して帰っていった。
ご両親がいなくなると、三島課長はドサッとソファーに身を沈めた。
「すみません、勝手なことをして……。大丈夫ですか?」
「ああ……うん……。なんかホントごめんな。佐野は関係ないのに、うちの親に嘘なんかつかせて……。それと言うのも……」
三島課長はギロリと瀧内くんをにらみつけ、まったく反省していない様子を見て大きなため息をついた。
「玲司……おまえ、謀ったな」
「なんのことです?」
「とぼけるなよ。こうなるようにおまえが仕組んだんだろう?」
瀧内くんは焼き上がったタコ焼きをお皿に放り込み、油を敷いて生地を流し込む。
「だって潤さん、こうでもしないとおじさんの決めた相手と仕方なく結婚することになるよ」
「だけどこれは俺だけの問題じゃないだろう?佐野まで巻き込んで迷惑をかけてしまうんだぞ」
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