これからのこと
「それで? お前は…… これからどうする?」
バームは騎竜隊からラズリーへと視線を移した。問いかけられた少女は、きょとんとしている。
「この先、どう生きていくんだ? って話だ。 ……まあ、座れよ」
バームにうながされて、ラズリーはイスに座りなおす。なにか大事な話をされるのだと、少女は悟った。
「オレはお前を南の町に連れて行くが、そのあとお前はどうするのかと思ってな…… まあ、手を差し伸べたからには、キリのいいところまで面倒を持ちたいわけだ」
バームは難しい顔をして、頭を掻く。
男の言葉を聞いたラズリーはイスの上で固まっていた。しばらくして、ノートに返事を書き込む。
『なにも考えてなかった』
「ん…… まあ、そんなことだろうと思ったよ」
少女がうつむいてしまう前に、バームは声をかけた。
「おっと、お前をバカにしてるんじゃないぞ。というかオレにだって無理だ。お前くらいの歳に、その…… 全てを失ったとしたらさ、これからどうすればいいかなんて分かるはずがない」
言い切ったあと、バームはラズリーの反応を見る。少女は悲しそうな顔をしていたが、バームのことをしっかりと見ていた。今にも涙が零れてきそうな瞳は、どうすればいいの? という疑問を男に問いかけていた。
「まずオレは、お前を南の町の《
ラズリーは、それだけ? と思って首を傾げた。
「だから、お前はそれまでに自分がどうしたいのかを考えておけばいいと思う…… 親戚の住んでいる場所を思い出すとか、他に頼れる大人がいないかを考えることだな!」
バームは、これで話は終わりというように両手を叩き合わせた。
「ま、オレからのアドバイスはこれくらいだ。今日の夕方には町に着くだろうから、もう一泊くらいゆっくりしていけばいい。明日の昼頃には騎竜隊舎だな。うん」
『おかあさんに会いたい』
ラズリーはバームの話を聞きながら書いていたノートを掲げた。ノートを見たバームは動きを止める。
「ああ、ふむ……」
バームは口元の髭を撫でた。
男は何かを閃いたように口を開き、そして何も言わずに閉じる。それから眉間にシワを寄せる。と言う動作を、何回か繰り返した。
その間ラズリーはノートを立てたまま、バームの言葉を待ち続ける。
「ラズリー…… あのな、ラズリー……」
バームは慎重に言葉を選ぶ。少女に言い聞かせるように手を向けた。
「お前の家族は、もう死んでいると考えた方がいい」
途端にラズリーの手からノートが投げつけられた。それはバームの腹に当たって地面に落ちる。
それからラズリーはテーブルの上の皿を全部払って、地面に散らした。食べかけの朝食が緑の草地に散らばる。イスを蹴飛ばして、少女は道路に向かって駆けていく。
「ラズリーっ! おい、ラズリー! 村に行ってどうする!? ここから歩くと日が暮れちまうぞ! 怒らないから、車に戻ってろ!」
少女はバームの言葉を聞かずに駆けていく。目から溢れてくる涙を拭いながら、少女は村に向かって走り始めた。
「まったく、ガキってのはこれだから困る……」
バームは後頭部を掻きながら、あたりの惨状を見回した。
「いや、それともオレが言葉を間違えたか?」
バームは地面に落ちた皿を拾いながらぼやく。
「答えがあるなら、教えてほしいぜ……」
彼は、早くも走り疲れたのか歩きながら泣いている少女の背中を見た。
それから首を振って、皿を拾い集める作業に戻る。心なしか急いでいる自分に気が付いて、バームは鼻を鳴らした。
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