クリスマス4 プレゼント

 その時、がさり、と肩に何かが当たった。


 驚いて竹刀袋を掛けている右肩を見る。

 肩じゃない。竹刀袋に何かがぶら下がっている。


 竹刀袋の上から、手提げ紐を通すようにして、水色のラッピングバックがひっかかっていた。


「プレゼント」

 ぼそり、と背後から言われ、唖然と振り返る。そこには、さっき私が手渡した紙袋をぶらぶら揺すって歩いている蘇芳すおう先輩がいた。


 どうやら、同じことを考えていたようで、蘇芳先輩もクリスマスプレゼントを持ってきていたらしい。


 というか。

 クリスマスプレゼントを用意する、という発想がこの人にあるとは思わず、心底驚嘆した。


 ……ひょっとしたら、椿つばき先輩が『もっと良いものは、そこのカレシにもらってね』と言ったということは、なんらかの入れ知恵がそこにあったのかもしれない。


 そう思うと、一二月に入って、いきなりクリスマスのことを切り出した辺りから、椿先輩の影がちらちらする。どうやら、名参謀が蘇芳先輩にはついているらしい。


 それはそれで、なんともほほえましいな、と私は二人の関係性に思わず口がほころぶ。


「ありがとうございます」

 竹刀袋を一度肩から外し、ラッピングバックを手に取る。


「家に帰ってから開けろ」

 手にした瞬間、厳命された。


「今、見ちゃ駄目なんですか?」

 私はきょとんと隣に並ぶ蘇芳先輩に尋ねる。先輩は無言で真っ直ぐ前を見て歩いている。


「……開けまーす」

 隣で歩きながら、私が言うと、「いや、ちょっと、本当に家に帰ってからにしてくれ」と手を伸ばして、乱雑に袋の口を閉じられた。


「家に帰って、見て、感想をまた蘇芳先輩のケータイに電話して、ってやるより、今ここで見て、伝える方が早いですし……」


「いや、開けて、がっかりするのを見るのは辛いから」


 早口でそうまくしたてられた。『なーんだ。こんなのいらない』と、私が言うと思っているようだ。


 というより、なにやらもう、自信がないらしい。


 試合コートの中ではあれだけ堂々として相手に向かって挑んでいく蘇芳先輩からは想像がつかない、しょぼくれ方だ。


 私は笑いをかみ殺し、蘇芳先輩の横顔に声をかける。


「しませんよ、がっかりなんて。だって、私の為に選んでくれたんでしょ?」

「いや、そうだけど……」

 珍しく歯切れが悪い。


 私は手の中にあるプレゼントに視線を落とす。袋の上からでもわかるこの手触りは多分、布系だとは察しがついた。


 なんだろう。

 私は堪えきれずに、くすり、と笑う。


 そんなに焦るような何が入っているのか逆に興味がある。


 歩きながら、私はがさがさと巾着に結ばれている袋のリボンを解く。隣では、判決を聞く被告人さながらに蒼白になった蘇芳先輩が、私から目を逸らして歩いていた。


「かわいい」


 中から出てきたのは、手袋とマフラーだった。淡い色遣いの、ふわふわとした手触りのそれは、とても暖かそうだ。

 ふと、脳内でリプレイされたのは、手を繋いで帰った日のことだ。


『手袋とかしないのか?』

 そう、尋ねられたことがあった。


『去年、脱いでポケットに入れたつもりが落としたみたいで……。片方無くしたんです』

 と、私は答えたのだ。


 思わず顔をあげて隣を見上げると、更に疲労の色を濃くしたような蘇芳先輩がほっとしたような顔で小さく頷いていた。


「よかった……」

 ぼそり、とそう呟く蘇芳先輩に、私は笑う。


「早速明日から大事に使いますね」

「俺もそうする」

 私たちは顔を見合わせて小さく笑う。

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